30話 people
「まさか、他にも生きている人がいるなんてね……」
自らリーダー格を名乗った男、片木 正嗣はそう言った。周りに見えるのは男女合わせて3人。
――最悪、逃げ出せないことはないな。
「会えて嬉しいです。片木さん」
「ご丁寧にどうも」
物腰は柔らかいが、その目には異様な光を感じる。周りをまとめるだけの、何かを持っている人間だ。
「最初に言っておくけど、僕は詐欺師だ」
真顔で、彼は言った。
「後から言って面倒なことになるのは嫌だからね、もちろんここのメンバーは知ってることだ」
詐欺師、か。もう何を言われても驚かない。
その表情も物腰も、言葉の一片一片もプロの手合いということだろうか。食えない人だが、幸い奪われるほどの財産もない。どうせ信用できないなら、分かりやすいのもいい。
「……どんな反応がお望みですか?」
「変わった子だね。こんな中生きてるだけのことはある」
恐らく30代。だが話し方はやけに若々しい。
「こちらがお聞きしたいのは、そちらの今後の予定です」
「予定……ねぇ。死ぬまで生きようかと思ってる」
完全にバカにされているのか。それとも、本音か。
「どっか、行く予定でもあんのか、お前ら」
後ろに座る、目つきの鋭い、ヤンキー風の男が唸るように割り込んでくる。一見するとこっちの方がまだリーダーらしい。自分も人のことは言えないが。
――落ち着け、俺はただの学生にしか見られてない。
「東京まで」
「……何のために」
「ここよりは、安全らしいので」
安全、という言葉にその場の全員がそれぞれの反応を示す。
「ソースは?」
片木の問いかけに、結梨を前に出した。
「彼女の母親がそこにいて、連絡が取れています。自衛隊等の支援もあるかと」
後半はでまかせもあるが、多分嘘ではない。
「確かに、首都機能を最優先で守るのは納得です。それなら……!」
学生らしい男が叫ぶ。他の3人に睨まれると、しゅんとしぼんでしまったが。彼はおそらくこちらと来るだろう。使えるかどうかは疑問だが。
「それで、僕たちにも付き合えってこと?」
「できることでしたら」
あくまで低姿勢を貫く。大丈夫、1人は確実に動きたがっている。人数が減れば、乗ってくるはず。
「すぐに決めないとダメかな?」
「迷うなら、どうぞ。ずっと待つわけにはいきませんが」
睨みつけてくるヤンキー風の男。恐らく俺が気に入らないのだろう。そもそも、片木の下についていることから気に入らないのか。入って来てからずっと不機嫌そうな顔だ。
「アタシは、行こう」
これまで一声も発しなかった女性が告げる。その瞳は確実に俺を値踏みしているが、乗ってくれるなら構わない。
「勝手なことを……!」
「やめとけ、龍斗」
キレかけたヤンキー風の男、押井 龍斗を片木が抑える。上下関係ははっきりしているのか。反抗的な目つきは気になるが。
「藤咲、本気か?」
「アンタ達といるのも、飽きたし」
答える女性――藤咲――は余裕に見えた。どういう関係なのか、予想もつかない。
「藤咲 舞。ヨロシク」
「あの、僕も……」
先ほど叫んだ学生も、ついてくるつもりらしい。こちらは予想通り。半分が傾くなら勝機はある。
「じゃあ、私も行こうかな」
あっさりと乗ってくる片木。その真意はまだ、目の奥に隠れている。正直言ってクサい。
「ここでいつまで生きられるか、分かんないし」
「お前まで……」
龍斗、この男だけ名前で呼ばれている所をみると、恐らく何かしらの因縁があるのだろう。
「いいじゃないか、かわいい女の子も増えるし。彼にだけいい思いをさせるわけにもいかない」
バカにされているようにも聞こえるが、その目は鋭い。
「君がどんな人間か、知りたくなったし」
「……面白くはないと思いますよ」
口は笑っていても、確かな力をたたえた目がこちらを見据える。だけどお前は、そして俺も、残念ながら人間じゃない。
――俺には、その覚悟がある。
「どうします?」
返答は、聴く前から分かっている。
「……面白い子だね、君は」
勘付かれてでも、彼らを使うしかない。目的は等しい、なんとしてでも生き残る。
――お互いを、贄としてでも。




