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3話 decoy

「何とかついたか……」

 街灯は生きているが、人の気配は薄い。隠れているんだと信じたい。

 兄貴からの連絡もない。ケータイを落としたとか、電池が切れたぐらいのことだといいんだが。

 相変わらず腕の中の人はすやすやと寝ている。癒されるが、リスクが高いのは間違いない。あの後も何体かの感染者を見つけた。

 間違いなく、この世界は安全から離れていっている。

「どこかで休まないと、俺の体力も保たない」

 小声で独り言でも言わないと、気が狂いそうだ。

 ホールの正面玄関は自動ドアで、おそらく夜間は開かないよう設定されている。見つけたドアも手当たり次第触ってみたが、開く気配はない。

「ハズレか」

 まぁ、誰にでも間違いはあるよね。

 後悔しても仕方ない、次の目的地を考えなければ。ベンチに那槻ちゃんをそっとおろし、風を避けつつマップを開く。

 それにしても、どこに行けばいいのか。ニュースアプリを開いても、謎の感染症で避難勧告が出た、程度の記事しか出てこない。

「世間様に情報がまわってないってことか」

 参ったな。本当に参った。手当たり次第に知り合いの連絡先にメッセージを送りつけたが、期待はできない。

 足手まといの子供付きで、どうやって生きる――。

 白く曇ったため息を目で追うと、冷たいアスファルトに、何かが見えた。

「チョークの、字?」

『H →』

 走り書きしたように、こんなことが書いてあった。

「H……か。ヘルプ、か?」

 えっちとか変態とかそういう意味ではないだろう。少なくとも。

 行ってみるしかない。どちらにしろこのままじゃ、何も好転しない。ベンチから那槻ちゃんを背負う。この状況で熟睡できるとは、中々の大物だろう。

「この子が、幸運の女神であることを祈るか」

 地面に注意を払い、矢印の方向に進む。アスファルトやブロック塀など、何ヶ所かに矢印がついていたおかげで、迷うことはなかった。

 しかし。

「倉庫、ですか」

 一考の後、ベンチに寝ているお姫様を背負った。桜に何度もおんぶをせがまれた経験があるので、さほど重労働ではない。

「開けたらバァーッ!みたいなのはやめてくれよ……」

 鍵穴から中が見えないかとも思ったが、どうにも暗すぎる。バットでもあればいいんだが。

 思い切って扉を開けると、中の人物は眠っていた。一瞬遅れて、それが見知った男なことに気づく。

「扉が開いたのにも気づかないのか」

 おい、起きろ。呆れてそう呼びかけると、(そいつ)は飛び起きた。叫び声を上げる前に口を抑え込み、何とか落ち着かせる。

「俺だ。何が起こってるのか分かるか?」

 手を外し、息をついた圭は、ゆっくりと話し始めた。大分動揺してるが、まだ落ち着いている方だろう。少しだけ見直した。

「俺は、いつも通り部活に行って、駅前の本屋に寄ったんだ。そしたら……」

 駅前か。兄貴に会っている可能性もある。

「いきなり、駅の方から人が一杯走って来て、その内の何人かはもう……」

 感染者は、走ると。軽く絶望だな。走るゾンビは強い。主に映画やゲームなら、だが。

「もう、何が何だか分からねぇ。逃げて逃げて、咄嗟にここが開いてたから、入って閉めた。その後、出るのは怖くてたまらなかったから、誰か来てくれるように目印だけ書いてまた引きこもったんだ」

「正解だったな。まだ生きてる」

 俺の兄貴、と言おうとしてやめた。こいつは俺の兄貴を知らない。

「ここらに人はほとんどいない。どこか、人の集まりそうな所にいかないと」

「学校とか?」

「方角的に無理だろうな」

 俺たちの高校は、小中学校とも近く、ここから駅の向かい側にあたる。発生源がどこかは分からないが、駅に近づくのは避けたい。

「お前の周りにいた人は?」

「分からん。みんな散り散りに逃げたんだ」

 まとまって行動しなかったのが、正解だったのかどうかは微妙だな。

「……県庁方向に行く。一緒に来るか?」

 うんうんと頷く圭。旅は道連れなんとやら。

「それでお前、その背中の子は……」

 ああ、これか。と話す前に、圭は言った。

「できちゃった婚か?」

 ……決めた、囮として使おう。

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