27話 Outworking
「あれ……何で2人?」
「君……生きてたのか!」
生きて……いないな。
「いや、死んでるよ」
「なっ……」
なんで那槻と、永峰さんが2人で動いてるんだ?
「それより、後の2人は?」
「それは……話すと長くなるが……」
面倒だな。連れられてる那槻の表情を見れば、大体分かる。すごく逃げたそうな顔してる。
「幼女誘拐か。褒められたもんじゃねぇなぁ……!」
これから先のことを考えるだけで、喜びに心が震える。お待ちかねの時間だ。全力で楽しませてもらわなくては。
「君は、どうしたんだ!」
どうもしないさ。ただ。
「死んだだけだよ。それで」
鉄パイプをゆっくりと驚く顔に突きつける。
「……遊びに来たんだ」
笑みをこらえきれない。永峰さんの顔が、恐怖に歪む。まずはこいつから、かな。
「順番は決めてある。まずはあなたからだ」
鼻先でくるくると鉄パイプを回す。これは遊びだけど、冗談じゃない。
「抵抗するなら、して下さいよ。つまんないじゃん。まずは那槻から手を離してですね」
息を飲んだ彼は、ようやく俺のすることに気づいたのか、ポケットからナイフを取り出す。どこで手に入れたのやら。
「や、やめろ。この子を殺すぞ!」
人質か……つくづくつまらない。人として終わってる奴だな、本当に。
――早く、人間やめればいいのに。
手を戻し、鉄パイプを離す。コンクリートとぶつかって立てる音が辺りに響いた。
「そうだ、それでいい……落ち着いて話そう」
――コレ、使おうか。
ポケットに手を突っ込むと、感じた確かな重み。わざとゆっくりと引き抜き、眼前に銃口を突きつける。
「やってみなよ。順番破ったらどうなるか、分かる?」
また、コレを撃てる機会があるなんてな。
恐れに体を震わせ、ナイフを持つ手すらまともに握れていない彼。そこから、那槻が飛び出して来た。
足にまとわりつき、必死に永峰から離れようとする那槻。その体温は、前と同じように暖かい。
――順番は守らないと、な。
「ここで待ってろ。あたりの感染者は片付けてある」
まずはこの、汚い老人の介護からだ。
「なんで、なんで……こんな!」
「逃げなよ。10秒あげる」
少しは苦労しないと、面白みがない。
「どうしたの、時間もったいない」
震えを抑えられないまま、彼は恐る恐る立ち上がる。一歩下がり、二歩下がり……走り出した。
「さて、お楽しみの時間だ」
細い路地と、住宅地。逃げ回るには面白いだろう。一旦銃をしまい、鉄パイプを拾い上げる。
「ちょっと待ってて。殺ってくる」
そう言って、期待に弾む足は駆け出した。
雑な逃げ方だ、少しも考えてなどいない。
その気になれば、いつだって追いつけそうなくらい。
「まぁ、適当に焦らしますか……」
隠れても、感覚で捉えられてしまう自分が少し誇らしい。正に自分にあるべき才能だ。
「もうちょっと頑張れよ、中年」
もう体力切れだろうか。足が止まっている。
「ねぇ、死ぬの?」
演出的に、後ろから姿を出す。心臓発作で死ぬんじゃないかってぐらい、鼓動が激しそうだ。
「なぜ私を、殺そうとするんだ……!」
「暇だし」
ぼそりと呟いたのは、聞こえただろうか。
「確かに彼女たちを利用したかもしれないが、それだって、生きる為だぞ! 私は悪くない!」
知らないよ、そんなこと。まぁ、結梨とトラブったってのは予想できるけど。
――だとしても、バケモノの俺には関係ない。
「別にそんなことどうでもいいんだ」
見開かれた目が、こっちを見つめている。
「俺はもう人じゃないから、我慢しなくてもいいんだよね」
鉄パイプで、背後の壁を思い切り叩く。
――さぁ、そのナイフを使うべきだ。無抵抗なんかじゃ意味がない。
「どうやって死にたい?」
いいよ、その目。さぁ、そろそろ頃合だろう?
「あああああああ!」
恐怖に支配された体が、跳ね上がる。そのスピード、正に生きた人間。振り下ろされたナイフは、あえて躱さず、かろうじて動く肩関節を使い、左腕で受け止める。
深々と突き刺さるのが見えたが、予想通り、痛みも何もない。思った以上に、この肉体は便利だ。
「酷いな、子供に凶器を向けるなんて」
歪み歪み、もう正気の残っていない顔をじっくりと見つめる。
「ほら!」
声と同時に鉄パイプを、彼の左足に叩きつける。甲高い絶叫を吐き散らしながら悶え転がる彼を、ゆっくりと壁に追い詰める。
「痛い?」
「ゆる、して……くれ」
許すわけない。別に恨みとかでやってるわけじゃない。
――自然な感情に従ってるんだ。バケモノらしくね。
「やだよ」
壁を背にして止まったその顔を、右足で蹴りつける。
「じっくり殺す。楽しませてよ」
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。ずっと満たされなかったこの欲求。今やっと、分かった。
「さて……と」
鉄パイプを彼の肩に突き刺す。響く絶叫は、もはや人の声とは思えない。
――まぁ、俺はもう人じゃないし。
ポケットの中の重たい金属は、待ちわびていたかのように月明かりに輝く。
「おまたせ」
「や、やめ……やめてくれ。なんだってするから!」
そんな命乞いが聞きたいんじゃないんだ。ただ叫べ、それだけでいい。
「ああ、懐かしいな……この重さ」
もう、2年も前かな。あの日は。
少しだけ感傷に浸りながら、ゆっくりと銃口を顔に向ける。
「片手しか使えないから、近づけないと」
確かな力。人を殺せる、確かな力。
「おまたせ」
聞きなれない音と、火薬の匂い。その刺激は、しばしの陶酔をもたらしてくれた。
――この日を、待っていたんだ。




