表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

24話 Awakening

 寒い。

 永峰さんが一向に加わり、数日が経過。最初は険悪だった結梨とも、ある程度の関係を築いてくれているあたり、腐っても大人ということだろうか。

 それよりも、問題はこの寒さだ。

「まだ、止まないね……雨」

 今日の朝から降り始めた、冬の雨。所詮雨と思っていたが、これが恐ろしい。体温低下に伴う風邪、単なる体力低下でさえ、感染症が猛威を振るう今ではとてつもなく危険だ。

 この感染症が、本人の抵抗力に関係するのかどうかは分からないが。

「寒いからな……暖房器具でもあればいいけど」

 入った民家を漁る永峰氏。盗人猛々しいなんて言いたくもなるが、やってきたことは自分たちも同じだ。

「毛布や布団はあるから。少しでも暖まるといい。石油ストーブが準備されていればいいんだが……」

 確かに、石油ストーブならば電気が切れた今でも十分使える。問題は、シーズンオフの家庭が多いであろうことだ。

「発案はありがたいんですが、気をつけてください。家の中と言っても可能性はあります」

「大丈夫さ。奴ら動こうとしないじゃないか」

 念のため釘を刺しておいたが、動かない感染者(やつら)に油断しきっている。殺意を感じないという点ではラッキーだが、どこか不穏な空気を感じるのも確かだ。

「そう思いますけど、念のため。死んだ後だと遅いんで」

「そう軽々しく、死ぬなんて言うんじゃない……」

 軽口の皮肉にやけに鋭く食いついてきて、少し怯む。そんなに死ぬのが嫌なら、用心してほしい。いくら死にたくなくても人は死ぬし、殺せるんだから。

 ――殺せる?

 自分の言葉に嫌悪感を抑え切れず、無理やり思考をカットした。考えすぎるのは、ロクなことにならない。

 分かっているのに。

「……すみませんでした」

 微かに込み上がる乱暴な衝動を抑えて、無表情に応じる。できれば謝罪の顔でもしたかったが、そこまで器用でもなかった。

「分かってくれればいいんだ」

 うっとうしい。

 ――でもお前、こいつ殺せるじゃん?

 頭の中で、何かがそう囁いた。

 唐突な吐き気と、なぜか既視感のある激しい頭痛が全身を襲う。

 ――いい雨だよな。分かるか?

 目の奥で反響する声は、本当に自分のものか?

 ――あの日も、綺麗な水たまりができたじゃないか。

 お前は、誰だ。

 心配そうに近づいてきた那槻に、手を振ってなんともないと伝える。なんともないことなんてないのに。

 ――嘘つき。

 嘘つき、だと?

 ――お前は嘘ばっかりだ。本音を出せよ。

 ダメだ。落ち着け。自分を見失ってはいけない。これはただの、発作的な何かだ。今、たまたま蘇っているだけだ。

「どうした? 大丈夫か?」

 永峰さんが近づいてくる。寄らないでくれ。俺は危ない。

「……!……」

 もう何を言ってるかもよく分からないが、いいから離れてくれ。必死に声を出そうとするのに、喉の奥が枯れ果てたように声は出ない。

 ――来ないで!

 叫ぶ女の子。恐怖に染まった顔は覆い隠され、その足元には紅い水たまりができた。

 誰だ? 自問の答えは出ない。遠い記憶に、意識が飛ぶ。違う、遠くなんかない。それはいつだってここにあった。

 ――思い出したか?

 耳鳴りはまだ問いかける。黙れ。黙ってくれ。

 ガラスの割れる音がして、体に雨が当たる。これは現実? それすら分からない。

「……!」

 遠くで声が聞こえる。誰の声だ?

 無数のトゲが体に刺さるような痛み。それが唯一の現実味を持っている。この際、痛みでも吐き気でも、もっと酷い感覚でもなんだっていい。

「俺は、いきてるんだ……」

 呟いたはずの声は、なぜか響かない。代わりに頭痛と耳鳴りは、一層激しくなる。

 もしかすると、俺も……時間が来たのだろうか。これから俺は、あの姿になるのか。

 それもいい。過去も人も罪も、みんな忘れてやり直せるなら。もう疲れたんだ。いいじゃないか。

 ――笑っていたって、いいじゃないか。

 どうせ人間なんて、もう誰もいないんだ。

 まるで他人から見ているように、自分の表情がありありと分かる。そういえばあの時もこんな感覚があったんだっけ。

 ――いいね。最高だ。

 しかも今度は、誰にだって止められやしない。俺がバケモノなら、みんなバケモノだ。

 鼓動の高鳴りがいつになく気持ちいい。忘れた――いや、忘れようとしていた――快感が全身を満たす。

「行こうか……!」

 呼び止める声が聞こえたような気もしたけど、多分大したことじゃない。

 まぁ、その内遊びに行けばいいさ。

 獣のように吠える声が、あたりに響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ