表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/40

20話 Afterimage

 眠れない。胸にあるのは、期待なのか不安なのか。

「ちょっとは、眠ったら?」

 毛布にくるまった結梨が、声をかけてくる。背を向けたままでも、優しさは感じられた。

「眠れない。もし、何かあったら……なんて思うと」

「反省しなよ。結局、最後に迷惑かけるんだから」

 おっさんがいれば、多分叱り飛ばしてくれたのに。

「寝なさい。見張りはウチがする」

 その強い語気に、少し驚いた。

「寝てよ。嫌ならこれで、強制的にでも寝かせるから」

 ついこないだまで、決して見せなかった悲壮感。右手にスタンガンを握った彼女は、暗闇の中、泣いているようにも見えた。

「分かったよ……ごめん」

 謝りっぱなしだが、仕方ない。それだけの事をしている自覚はある。

 ――自覚があるから、赦されるわけではない。

 それは、何にだって言えることだ。

「もういいよ。謝らないで」

 強く、彼女は言った。

「気持ちは分かる。ウチだって、見捨てたい訳じゃない」

 そう、彼女は優しい。

「でも、優先順位をつけないと、もうやってられない……やってられないの」

 それは、生きるために。他人の死を見過ごすことを許さなければ、生きられない明日がある。

「分かってる」

「分かってないよ。涼君は」

 そう言い切った彼女は、きっと泣いている。

「涼君は、違う」

 その言葉は、強く深く、心に楔を打ち込んだ。

「そんなこと……」

 言いかけた途端、――がたん、と音が立つ。一瞬交わした視線を確かめ合ったあと、立ち上がる。

「……ここにいてくれ」

「……分かった」

 一語で分担を決め、レンチを握って歩く。

「涼君……」

「何?」

「……気をつけて」

 殺して、とは言えなかったんだろう。頷き、闇に目を凝らす。

 隣の教室に佇むのは、間違いなく昼間に見た、妹に瓜二つの少女。

 闇夜の月明かりにシルエットを浮かび上がらせたその少女は、頭を抱えたまま、ゆっくりと歩き出した。

「……桜か?」

 放った言葉に、びくりと体を止めた。

「誰……ですか?」

「いや、妹なんだ」

 困惑する少女は、間違いなく発症はしていない。

「あまりに、似ていたから。昼間に、倒れている時見つけたんだが……」

 桜でないことに、若干の焦りを覚えながら事情を説明する。大丈夫、感染者でないことが分かっただけで、十分だ。

「えっと……ここは?」

「小学校だと思うけど、この辺の人じゃないのか?」

 困惑しきったその表情からは、深夜の暗さと見知らぬ他人に対する、警戒心しか読み取れない。

「えっと……私は、なんでここに?」

「いや、俺たちが来た時にはここで倒れてた。それ以上のことは知らないけど……」

 微妙に焦点の合ってない瞳、不可解な言動。

 ――まさか。

「思い出せない、とか?」

「……はい」

 記憶喪失、か。

「名前とかは?」

「な、まえ……」

 自分の名前さえ、分からないのか。

 逆に言えば、この娘が桜の可能性もある……のか?

「まぁ、いいよ。今日は寝よう。落ち着けば、思い出すかもしれないし」

「すみません。まだ頭が、ぼーっとして……」

 その割に、会話はできるし言葉もマトモだ。

「あっちの部屋に連れがいるから」

「もういるよ」

 いつの間にか、教室の入り口まで結梨が来ていた。

「話し声がしたから、来てみた。大丈夫だったみたいだね」

 那槻を背負った彼女は、ゆっくりと記憶喪失の娘に近づく。

「よろしく。ウチは結梨」

「結梨……さん。初めまして」

「この子、那槻。今は寝てるけど」

 さばさばとした態度で、お互いの紹介を済ます結梨。

「……名前、思い出せないの?」

「はい……頭、重くて」

 そう告げる少女は、嘘を言っているようには見えない。

「寝床、案内してあげてくれるか?」

「……涼君も寝るんだよ」

 釘を刺されて、その強い目線に唾を飲む。

「まぁ、ほっとしたかな」

 その顔が、にやっと笑い、緊張の糸が切れる。

「話は朝にしよう。とりあえず、寝るか」

「おっけー。大丈夫、毛布の余分あるから」

 まだ状況を理解していないらしい記憶喪失の娘は、おずおずと微笑み、後ろをついて来た。

 その姿には、どうしても妹の影がちらついた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ