表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

16話 father

「缶詰ばっかり、飽きそう……」

「仕方ないだろ。腐るよりマシだ」

 親子ゲンカが、平和に思える今。人気のないショッピングモールは、重い空気を漂わせている。

「……食べたいものとか、ある?」

「……特にないです」

 缶詰の種類で口論になる親子と対照的に、俺と那槻はちまちまと物をリュックに押し込む。

「荷物、重くない?」

「このぐらいなら、大丈夫です」

 荷物持ちをさせるつもりは無かったけど、本人が言い出したことなので止めにくい。この子もこの子なりに、助けてくれる。

 責任は重いけど、今の俺にはそれが必要だ。

「おっさん、食料品はこれくらいでOKです」

「あー……ちょっと待ってくれ。このアホ娘が聞き分けがなくてな」

「お父さんが同じのばっかり取るからじゃん。好き嫌いが激しいんだから」

 どうでもいいけど、早く終わらせてくれ。

「できるだけ急いで下さい。あんまり長居したくない」

「おう……すまんな」

 ようやく現状を思い出したかのような表情に、思わずため息が漏れた。

「涼君からも言ってやってよ。栄養バランス考えないとダメだって」

「……三大栄養素は?」

「……なにそれ?」

 たっぷり3秒、目をぱちくりさせて彼女は答えた。栄養バランスが聞いて呆れる。

「家庭科でやらなかった?」

「知らなーい。家庭科とか、おばさんのキンキン声しか覚えてないや」

 そのキンキン声で必死に知識を説いていたはずなんだが。

「ウチ、料理はそれなりにできるつもりなんだけど……」

「……涼、こいつの料理は食わない方がいいぞ」

 結梨の気を引いている間に、おっさんはしっかりと自分好みの食料を集めたらしい。

「昔の話じゃん!失礼なんだから」

 どちらにしても、この先料理の腕を振るう機会があるとは思えないけど。

「……行きましょうか」

「そうだな」

「ちょっと。無視しないでよ」

 那槻の手を引いて歩き出すと、絡むように追いかけてくる結梨。娘を黙らせようとするおっさん。

 何故か、とても居心地がいい。




「結局、一体も出会わなかったな」

「運が良かった……んですかね」

 感染者が何を思い、どんな行動をするのか。今の俺たちには分からない。

「生存者に会えるんじゃないかっていう期待はあったがな」

 あの黒く淀んだ空気は、極度の緊張がもたらした感覚だったんだろうか。

「……生存者どころか、感染者にも会わない。何か嫌な予感がします」

 ――誰かが、狙ってやっているとしたら?

 そんな意味のない想像も、したくなるくらいには信じられなかった。

「確かに、ゾンビ物は大体、大元の原因は人間だからな」

 結局、人が1番恐ろしい。よくあるパターンだ。

「今の俺たちじゃあ、分からんさ。これが罠だったとして、退く場所はどこにもないんだ」

 後ろを歩く、2人の少女。

「お前じゃないが、進むしかないのさ。目的があるだけマシってもんだ」

 彼女たちは、何を思っているのか。

 戻れない過去、平穏な日常。昔、一度はずり落ちた世界に戻れたと思ったのに。

「……気になるか?」

「俺が最後尾をいった方が、安全かと」

「そりゃそうかもな。だが、俺はお前と話したい」

 娘を危険に晒してでも、俺と話す真意は何だ。

「お前は核爆弾みたいなもんだ。頼りになるが、下手をすれば俺の日常が狂っちまう」

 すでに狂った日常で、その言葉は馬鹿げて聞こえた。

「ああ、狂ってる。狂ってるとも。いいじゃないか。ずーっと自然に流れていくなんて、面白くない」

 言動が支離滅裂だ。

「俺は、お前のことが分からない。普通のガキかと思っていたら、あんな冷たい眼をするんだ。理解の範疇を超えてるんだよ」

 俺が、分からない――?

「でもお前ぐらいしか、頼れる奴も、いないからな」

 呼吸が荒い。目に見えて、彼に異変が起こっている。

「なぁ涼。頼まれてくれるか」

「……何を」

 ――あいつを。

 そう言い終わる前に、彼の身体は乾いたアスファルトに崩れ落ちた。

 無機質な音が、静寂の中、やけに響いて聞こえた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ