やっぱり七尾さんのターン
布団の中は暑くて、出ると寒いです。何とかならないものか。
スイーツ食べ放題で好きなだけ健康を害した後、雑貨屋等を見てまわっていた。時刻は午後5時を過ぎたところ。
11月半ば。日が沈むのが早くなっていて。外はもう真っ暗になっている。
「そろそろ。帰る?」
七尾さんの親が心配しそうだから早めに返した方がいいだろう。
「んー?まだ平気だけど。雑貨屋さんの商品見るのも飽きちゃったしね」
「帰るって事?」
「いや。公園に寄っておしゃべりでもしていこう」
「りょーかい」
俺たちは家の方向に向かって歩く。七尾さんも同じ中学なだけあって、道もほとんど同じのようだ。
あれ。今日、駅向かう時に見掛けるはずだな。まあいいか。
途中でコンビニのおでんが美味しそうだったので買っていった。自分の分だけ。
「はぁー」
ため息ではなく。部活引退してから時間が経っているため、疲れてしまったのだ。
「やっとすわれるー」
七尾さんも疲れている。
俺たちが来たのは日陰公園。小さい公園。真ん中に大きな木がはえていて、その周りに丸くベンチがある。遊具は滑り台のみ。
俺は食べたくて仕方なかった、コンビニのおでんを開ける。
味の染みた大根達が食べてくださいと言っている。
大根から食べよう。
「いただきまーす」
「まって。たべさせてあげる」
「えっ、自分でたべれるよ⋯」
「お昼のお礼」
俺、お昼の時は嫌がらせをしたから。お礼とか言われても。
「いやでも⋯」
「食べさせてあげる」
笑顔だ。余計に怖い。でもやめるなんて言わないだろうし、仕方ないか。
「じゃ、じゃあ。お願いします⋯」
「うん。適当に選んでいいんだよね?」
「いや。俺は大根から食べる派なんだよ。半分に切って、1口目はそのまま。2口目はカラシをつけて」
「うわ。めんどくさっ!」
なら食べさせるなんか言うなよ。
「めんどくさいからがんもからいくよ」
ああ。牛すじの後の楽しみが。
「目をつぶって⋯」
「え?」
「いいから」
「は、はい」
もしかしてもしかするとこれって。キスされる?いやいやいやいや、そんな訳ないか。付き合ってもいないうえに俺は七尾さんの事をかわいいとは思うものの、好きではない。
全くもって嬉しくない。迷惑だ。
でも。期待している俺がいるのも確かだ。
「はぁ」
ビクッとした。七尾さんの息が唇に当たる距離まで近付いている。
いつくる?いつくる?いつくる?いつく
「あったったったっつっ熱い!!!」
昼の仕返しをされた。
ほっぺたに汁の染み込んだがんもを押しつけられた。やけどしたんじゃないか?
「あははははは。あはっ。あー面白い」
「こっちは何にも面白くないからね」
「だって。さぁ〜。鼻をふくらませて、唇すっごいすぼめて。手なんかすっごい力はいってたし」
「そんなことないよ」
マジかー!!そんなふうになってたなんて思ってもいなかった!!
「えー?この写真を見ても言える?」
サイレントカメラか。いつのまに。
「なっ!?」
そこには、全身緊張しまくりのコミュ障のような自分が映されていた。
「ほらーほらほらー」
「認めるよ」
「おーやっぱり!」
「キスされるかと思って身構えちゃったんだ」
誤魔化しは下手だから、そのまま言った。
「ふ、ふーん。期待してた。って事?」
「そうなるね」
「あたしにキスされてもいいの?」
上目遣いできいてきた。いちいちポイントを稼いでいく人だ。ずるい。
「いや。そういうわけではないけど⋯」
「そっかぁ⋯」
落ちこんでいる。
「でも。どっちみちあたしにキスする勇気なんてないから!」
「えっ?なんで?キスした事ないの?」
「なにその、お前は色んな男とたくさん付き合ってただろ。散々キスしただろ。みたいな反応」
「違うの?」
てっきりそんなものだとおもっていた。
「みんなそういうんだよね、いつもワイワイやってるとそう見られがちっていうか⋯」
一応自覚はあるんだな。あと、ガヤガヤとギャーギャーが抜けているぞ。
「は、はあ。そうですか」
「でもね、これだけは信じて!」
「付き合ったことは1度も無いし、もちろんキスもしたことない!」
「それに⋯」
「それに?」
「やっぱり何でもない!」
えーそこまでいったなら、最後までいってよ。
「と、とにかく!あたしは彼氏いた事ないくらい純粋なの!」
付き合ったことのない子が綺麗だとか純粋だとかは、子供と変態ジジイの発想だと思うけど⋯。
「わかった。わかった」
「そう。ちゃんとおぼえといてね」
「りょーかい」
しばらく沈黙が続いた。
俺は月を眺めていた。
「ところでさ、はるとくん」
「ん?なに?」
「好きな人いるの?」
それは妹をいれていいのか?本気で結婚したいとは思っていないけど、大好きだ。
カウントしないことにする。
「いないよ」
「良かった!」
「頑張っていつか惚れさせてやるから!!」
「そんだけ!」
「おっおう。りょーかい」
気付けば6時半になっていた。普通の中学生なら親に怒られる時間。そろそろ帰ったほうがいい。
「帰ろうか」
俺は言った
「うん」
10分程で七尾さんの家には着いた。
「じゃあ。またあさって学校で」
「うん。またね。今日は楽しかったよ。⋯またいつか一緒に行ってくれる?」
「いいよ。いつかね」
「ありがと」
七尾さんは家にはいっていった。
「さて、帰るか」
妹の待つ家に。
今日は帰りが遅くなるのは妹も知っている。
事前に伝えてあるからだ。
事情を話したら渋々許可をくれた。
月を眺めながら、家に向かう。
今日は曇っていて星が全く見えない。
七尾さんといるのは楽しかった。
自分の中の学校の人がつまらないという、考えとの矛盾に少しモヤモヤする。
心の中の空に雲がかかり、自分の考えが分からなくなる。
曇りの中、たった1つ見えている月を見て、湖白のことを思い出す。
また。会いに行ってみようかと思う。
おでんでも持っていこう。