お月見ココア
章を作った方がいいとおもったので、章のまとめ的な感じにしてみました。
「ふぅーふぅー」
今、俺の隣では、ついさっき知り合った少女。白山湖白がココアを熱心に冷ましている。体育座りをしていて両手で俺の家のカップを持っている。猫舌
なのだろう。ふぅーふぅーが異常に長く、多い。というか、1つ1つの仕草が天然というか、幼いというか。守ってあげたくなる。
「美味しい?ココア」
きいてみた。
「見れば分かるでしょ?まだのんでないから」
熱くて飲めていないとは言わないのか。負けず嫌いなのかな?
「早く飲まないと冷めちゃうよ?」
と俺はいいながら保温水筒からそそいですぐのココアを飲んだ。
羨望の眼差しを向けられている。
おいおい、湖白はまるで小学校低学年みたいだぞ。どうやったらこんな育ち方をするのか。親の顔が見てみたい。親といえば、こんな所に居ていいのだろうか?
「そういえば。湖白の親はここにいる事をしってるのか?」
湖白は首を横に振る。
「一応言ったほうがいいんじゃないの?」
抜け出して来ている者の言えたことではない。
「お父さんもお母さんも、1ヶ月くらい前からいなくなっちゃったから」
「何だそれ。なんでそうなったの?」
親としておかしいだろ。
「それがね。うまく思い出せないの」
「そっか」
よその家の事情に首を突っ込むのはよくないから、深くきかないようにした。経験上、ろくな事にならない。赤の他人が関わっても何も出来ないのだから。
「んーーーーっわ!」
かわいい伸びだな。
「じゃあ眠いから帰るね」
と言って冷えたココアを飲み干した。
「ごちそうさま。今日はありがとう」
「うん、おやすみ」
湖白は眠くてふらふらしていたが、なんとか屋上から降りていった。
「あ。家がどこか聞き忘れた」
まあ、またあったらでいいか。
しばらく月を眺めながら考え事をしていた。
さっき、家族関係の事で思い出した。
忘れたい。消し去りたい。最悪の思い出。
おととしの冬だ。俺の友達と思っている存在の1人が、不登校になり、何も言わずに転校した。
不登校の原因は親の離婚。学校を休まされて、離婚裁判へ連れていかれたりしていた。段々と心が病んでいき、学校に来れなくなるほどにまで病んでしまった訳だ。
俺は毎日、学校帰りに家まで行って手紙を届けたり、インターホンを鳴らしたりしていた。電話も何度もかけた。外にだしたかった訳ではなく、会いたいという思いだけだった。仲の良かった俺は特別に転校する事を聞かされていたため、日に日に焦っていった。インターホンを何度も鳴らしたり、相手の親に合わせて下さいと頼んだりもした。
結局会うことも無く、転校してしまった。今は青森県の中学に通っているそうだ。
ここは神奈川県だ。会いに行くのはなかなか難しい。そもそも、会ってくれる保証もない。
そして会える会えないという事よりも、忘れようとしている自分が嫌だ。忘れた方が楽になる。だから、違うことを考えて思い出さないようにしている。
人間の脳は便利だ。
嫌な事はすぐに記憶に変えて、奥底にしまえる。
俺は俺が1番嫌いなのかもしれない。
すぐに嫌な事から逃げる所が大ッ嫌いだ。
「はぁー」
ため息をついた。
ピンロンっ!
うげっ!?七尾さんだ。なんでこんな時間に。
さっきまでの1人反省ムードが台無しだ。
「はるとくん」
「1回でいいから返信ちょうだい」
「はるとくん。知らないと思うけど、モテモテなんだよ?」
「ほかの人にとられたくないから!」
「あたし頑張るよ!」
モテモテだと?ほとんど人とは話さない俺がモテるわけがない。
考えを整理するために家に帰ることにした。
今俺はベッドのうえで1人困り果てている。
本当にモテていたら面倒くさいな。
モテたいなんて思ったこともないし、七尾さんのように告られても面倒だ。
俺は1つのジンクスを思い出した。
いとこの兄ちゃんが言っていた。
トランクスはいてる男はモテない。
迷信だろうけど、やれることはやろう。
俺は今日からトランクスをはこうと思う