告白されたので妹の嫉妬が止まりません
豚汁を毎日飲んでいます
家に着いた。俺は玄関の前まで来ているが、開ける気が起きない。なぜなら、鋭利な何かを持った妹のシルエットがいつまでも消えないからだ。
「卯月は何するつもりなんだ?俺は調理されるのか?」
聴こえないように小さい声で言った。
「おかえり!お兄ちゃん」
聴こえていた。と言うより聴かれていた。こいつめ。俺がいることに始めから気づいていたんだろう。仕方ない。家にはいろう。
ガチャ
「た、ただいま。卯月」
返事がない。さっきは小声に反応したのにだ。
「エプロン姿って事は代わりにご飯作ってくれているのか。ごめんな。そしてありがとう」
「お兄ちゃん」
低い声で呼ばれた。
「はい!」
今の俺は犬のようだ。
「何を」
妹の澄んだ目が黒く濁る。
「していたの?」
怖すぎる。首をかしげているのか?150度くらいかたむいてますよ?
「いやぁーそれがね。居眠りしてたらだーれもおこしてくれなくてさー」
嘘は言っていない。
「そう。わかった。ならしょうがないね。はいってよし」
目が元に戻ってないんですが。あと包丁こっちに向けないで下さい。
「お、おう」
俺は靴を脱ぎ、すぐに自分の部屋に向かう。
「ところで、お兄ちゃん」
「んーなんだい?」
「鞄の中の数学の教科書。256ページにはさまっているものを見せてもらえるかな?」
ぎくり。七尾からのラインID。
卯月は真っ黒な目で俺を見つめている。
こいつ、人間じゃない。やっぱりエイリアンか?プレデターなのか?VSしちゃうのか?
白状した。元から言うつもりだったが、あんな見つけ方をされたら浮気がバレたかのようで申しわけない気持ちでいっぱいになる。当然、浮気になるような関係は誰とも持っていない。
妹はソファーでくつろぎながら。俺は制服から部屋着に着替えながら話をしている。
「あーあのひとねー2年の男子からも人気なんだよー」
「まじか!?」
あんなパリピが⋯ビ〇チにしか見えないぞ。
「まじかって。しらなかったの?」
「いや、その、ほら、俺は興味無いっていうか」
「はいはい。かわいそうなお兄ちゃん。毎年友達を失って、今では独りぼっち」
誰だそんなかわいそうな奴は。俺は。周りに興味が無いと言えば嘘になるんだが、馴れ合うつもりもない。馬鹿が伝染る。相変わらず中二病くさい考え方。
「んで。俺はどうすればいいのかな?」
「さあーねー。これに悩むのを口実にどうせ勉強できないとか言い出すんでしょ?」
ご明察。妹なだけあって、自分への言い訳まで知られている。
「とりあえず。お友達から。かな?」
上辺どころか他人レベルの相手。更に女子で俺の事が好きとなると、丁寧に慎重に決めていったほうがいい。パリピに嫌われたら、それこそ完全な独りぼっちになる。
「んー今どきそんな硬い言い方しないでしょ。ラインを登録して、テスト終わるまで放置がいいと思うよ!」
ウインクした妹を脳内のフォルダに保存した。
「わかった。言われたとおりにしてみるよ。ありがとう」
でも、友達からって言うよりも愚かな考えにも思える。傷付けてしまうのではないだろうか。
「えへへー、いつでも相談にのるよ!」
かわいい。君と結婚の相談をしたいぜ!
話を終えた俺は自分の部屋に戻り、なれない手つきで七尾さんを友達に追加した。トプ画は友達とのプリクラだ。顔に自信のある奴は自分の顔写真をトプ画にするのか。ちなみに俺のは以前住んでいた田舎の家の画像。
これでひとまず安心だ。テストが終わるまで放置するのみ。
ピンロンっ!
通知がきた
「登録ありがとう!」
「よろしくね!」
⋯放置でいいんだよな?
ピンロンっ!
「ところで、今日の話しだけど⋯」
「もう。決めてくれた?」
「付き合ってくれる?/////」
⋯放置
ピンロンっ!
「ごめんね⋯。なんかあたししつこいよね」
「勉強がんばろうね!」
やっと終わった。無視するっていうのはなんて楽なんだ!
でも、ピンロンっ!の度に心臓が縮こまる。
それにしても/////はなんなんだ。リンクの中身を打ち忘れたのか?
まあいい。これで俺は解放された。
安心からか、またもや眠くなってきた。机につっぷして寝るのは意外と辛いからな。勉強は軽く教科書を読んで復習をするだけにして、ご飯を食べ、風呂に入り、早く寝ることにした。
夜の準備のために。
今夜は彼女がいたら話しかけてみようと思う。
知りたい。こんなにも他人に興味を持ったのは初めてだ。もしかすると、俺は彼女に一目惚れをしたのかもしれない。
目を覚ました。電気を点けるとまぶしくて、目が半開きになってしまう。細めた目で時間を確認する。
23時51分。月曜日。ちょうどいい時間だ。昨日が0時半頃であの子が帰るくらいだったからこれがベストだと思う。昨日と同じ行動をしてくれればだが。それと親が寝ていてくれれば。
リビングまで確認をしにおりる。親はいない。親の寝室へ向かう。ドアを開ける前から、父親のうるさいいびきが聴こえてきた。
今日もココアを持っていく。温かいココアを夜に寒い外で飲むのは、とても気持ちがいい。
10分程で準備は終わり、家をでる。
今夜は月が綺麗だ。スーパームーンだとか言っていたな。空を見あげながら。白い息を吐いて歩いていった。
アパートの3階に着いた。後は乗り越えるだけ。
「よっこい〇ょういち」
屋上に出た。
いた。今日はカエルのパジャマ。
でも、おかしい。屋上のふちにたっている。
「あっ!」
俺は走り出した。彼女は落ちそうになっている。というか、自分から落ちようとしていた。落ちるギリギリで手をつかみこっちへ引っ張った。
「何をしてるんだ!?危ないだろ!」
ひびかないように声をおさえ気味でいった。
「こんな所でなにをしているんですか?」
質問を返された。
淡々とした口調だ。とりあえず安全を確保してから俺は答える。
「君、昨日もここにいたでしょ?だから気になって。それで今日も来たんだ」
「そういえば、昨日見たような顔をしているね」
物凄い近くまで寄ってきた。鼻がぶつかりそうな距離。俺の顔をじっくり観察する。凄くいい匂いがする。妹以外の女の子にここまで近寄られたのは初めてだ。心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。彼女は顔を離した。
「やっぱり昨日のひとだね」
やっとわかったのか。俺はききたかった事を質問する。
「ここで何をしているの?」
彼女はしばらく腕をくんで考えていた。そして
「いまは月が大きいでしょ?」
といった。
「月が見たいってこと?」
「ちがうよ」
「なら、なにがしたいの?」
「空を飛びたいの」
はい?この子は何を言っているんだ。
「それと月に何の関係が?」
「月が大きいって事は月が近づいてるんだよね?」
「あんまり良くわからないけど、そうなんじゃないかな」
「月が近いなら、月の引力で空を飛べそうだと思わない?」
「⋯思わないですわ」
なんだこの子は。見た目と淡々とした口調からは想像出来ないほど、頭のネジがぶっ飛んでいる。見た目からして中学生以上なのは確かだ。中学生からこんな言動が出てくるとは思いもしなかった。
俺の好奇心はあっけなく消えてしまった。ワクワクを返してくれ。もっと凄い事を期待していたのに。
ともかく。一旦落ち着こう。
「君はそのためにさっき飛び降りようとしたの?」
うなづいた。なんだこの子。思わずきをつかうのを忘れてしまう。
「変な人だね。普通そんな幼稚なことしないって」
久しぶりに他人に素の自分がでた。
横では彼女が不満げに
「幼稚なんかじゃないもん」
と言って、そっぽ向いてしまった。淡々とした口調から一変してかわいげのある口調になった。他人に言われて気づいたのか、恥ずかしくなり顔を赤くしている。
「あはは。怒らないでよ」
「怒ってないから」
口調が戻った。残念。
俺の中の彼女への好奇心はちがう方向に変わっていた。もっと深く知り合いたい。そう思うようになった。
「それはともかく。俺は百坂春人っていうんだ。はるとって呼んでよ。よろしく」
「わたしは白山湖白 よろしく」
白山湖白か。苗字で呼ぶか、名前で呼ぶか迷う。さん付けで苗字って感じはしないし、かといって名前で呼ぶ程親しくはない。
「名前で呼んでくれない?」
「うん、わかった」
相手が決めてくれると楽だ。
「ありがとう」
俺はお礼を言った。
「どういたしまして」
湖白は言った。
「そうだ。ココア飲まない?」
身体が冷えて来た。
「くれるの?」
「もちろん!」
「ありがとう」
湖白はお礼を言った。
「どういたしまして」
俺は言った。