女の子の部屋は汚れてるものですか?
七尾さんとの「お出かけ」の帰り道は、湖白が出没するアパートの前を通って行った。下からでも屋上の端っこに人が居ればわかる。さすがにまだいないか。端っこを見ただけだが、時間がまだ7時過ぎな事も考えて、屋上に湖白はいないと考えた。
「帰るか」
歩きだそうとした時、3階の1番左の部屋の窓がガラガラっとあいた。
パスっパスっ
エアガンで撃たれた。何も悪い事はしていないのに。最悪⋯
「おい!だれだ!歩行者をエアガンで撃つな!」
すると、ひょこっとベランダの柵から湖白が顔を出した。
お前か⋯というか。このアパートに住んでいたのか。
「そこが湖白の家だったのか。俺の家と近かったんだね」
湖白はこくこくとうなずくと、挑発のように手招きを始めた。
「なんのサインだよ!あがって来いってことか?」
湖白はこくこくとうなずいた。
俺は命令された通りに3階の端の部屋まで来た。
インターホンを押すと、湖白が鍵を開けた。ドアを開けて中に⋯はいるのか?なんだ、この大量のカップラーメンのゴミは⋯
「や、やあ。こんばんは」
「こんばんは。さっさとあがって」
あがれって言われても、この部屋は酷い。
「おじゃまします⋯」
カップラーメンのゴミの隙間を歩いて、リビングに向かった。リビングと言うより、部屋だ。このアパートは部屋が1つに台所と風呂とトイレが付いているようだ。
「湖白。この部屋は誰のだ?」
すると湖白は自慢げに胸を張る。あんまり大きくはないけど、妹程ちいさくはない。おっと。知り合ったばかりの子でそんなこと考えるんじゃなかった。
「わたしが独りで住んでるの」
「そうか。という事は、このカップラーメンは?」
「ぺオールドだよ」
「何かは見ればわかるんだけど。この大量のゴミは?って意味だよ⋯」
天然か。疲れる。
「たくさん食べたんだ。すごいでしょ?」
「すごくない。ごみ捨てくらいしないのか?」
「あ、そうか。忘れてた」
親が居なくなったのって、1ヶ月位前って言ってたから、普通は1ヶ月もゴミ捨てしなかったら気になってしかたないだろ。なぜ忘れる!
「なんで呼んだか聞きたいけど、こんな状態じゃ、気になって話もできない。次のプラゴミの日は2日後の月曜日だけど、まとめるくらいは出来るだろ?さっさとやろう」
湖白はビニール袋がどこにあるか分からないと言うので、俺は許可を得てビニール袋探しをして、見つけたビニール袋にテキパキとぺオールドの空いた容器をいれていく。
湖白はゴミを俺の近くまで運んでくる係。単純作業はなかなか早いみたいだ。
ひと通り片付け終わって、やっと落ち着いて座れる。
湖白はベッドに座り、俺は猫の頭の形の座椅子に座って、話を始める。湖白はヒヨコのパジャマだ。ズボンだけ、ホットパンツのような長さになっていてなんというか、角度的に上にいるからエロい。
「なんで俺をよんだの?」
「見てほしい物があるの」
そういうと、湖白はベッドの下から、何個かダンボールを取り出した。ぺオールドと書いてある。
「カップラーメン。昨日の夜に全部なくなっちゃって、今日は何も食べてないの。助けて」
俺が通りかかってよかったな。
「一応聞くけど、買いには行かないの?」
「お金持ってないから。このカップラーメンは先月に届いたの。30個入りが3箱」
「90個か。90個あれば大体の月が毎日三食ずつ食べても足りるな。きっと、1ヶ月分が毎月届くようになってるんだよ。だからいつ届いたかは知らないけどそろそろ1ヶ月経つんじゃない?また届くよ。きっと」
「そうなんだ⋯誰が送ってくれてるのかな?」
自分が1ヶ月経たない内に90個食べちゃったらことは何も想わないのかな。
「湖白の親だとおもうよ。ここに住んでいる事を知ってて食べ物を1ヶ月分きちっと送ってくるのは十中八九湖白の親だよ」
「そうなん⋯だ⋯」
「どうしたの?」
「なんでもない。でも、届くまでの間どうすればいいのかな?」
「そうだね。念のため。冷蔵庫に何かないかみてみよう」
「うん。賛成」
俺は人んちの冷蔵庫を堂々と開けて中を見る。
ビックリするほど、空っぽ。
「あっ、」
冷凍庫にそれはあった。キャッシュカードと暗証番号の書かれた紙。そして通帳。
「これ、足りなかった場合とかお小遣いとかだよ」
「そうなの?使い方わからないよ」
「そういうと思ったよ。大丈夫、しばらくは俺がご飯作ってあげるよ。
今日も夜中に行くからそれまで待っててくれる?」
「うぅ⋯夜中まで⋯頑張って我慢する」
「それじゃ、俺は帰るね」
「うん。色々とありがとう」
そうして、俺は家に帰った。9時近くになっていた。さすがに遅くなり過ぎた。
「卯月に謝らなきゃな」
リビングに入ると妹が真っ黒い目で食卓に座っていた。
「あ、お兄ちゃんおかえり。わたしずっと待ってたんだよ。ずいぶん遅くまで外にいたね。楽しんできたの?良かったね。お兄ちゃんは楽しかったんだね」
「申し訳ありませんでした」
土下座。