魔王の憂鬱 1
―魔王城最上階、魔王室-
規則正しい足音の後にドアがノックされた。
「魔王様、例の物を持ってまいりました。」
「入っていいぞ。」
魔界の王である魔王は、日々魔物たちのために雑務を処理している。その中身は、理性のない動物系の魔物たちの食料管理、異種族同士の争いの調停、天災クラスの魔物が暴れた後の事後処理など、人間界と同じかそれ以上に大変な仕事に追われている。正直言って、優秀な魔王の側近であるディークの助けがなければ、勇者の相手もしていられないところである。
「どうぞ。」
ディークは、魔王に人間界の情報誌を渡した。
「ご苦労。」
魔王はパラパラとそれをめくり、記事の一片を切り取った。そうすると、いつものようにパピルスに貼った。そのパピルスには、今切り取った記事と同じような災害情報がいくつも貼ってあった。
「《またもや、路地裏爆発事件発生!粛正騎士、遂に動く!》・・・・ですか。魔王様、この記事たちは一体何なのですか?」
「いや、少し気になることがあってなァ・・・すまんなディーク。」
「いえ・・・。」
魔王は決まりの悪い顔をしている。ディークにはわかっていた。魔王はいつも自分の予想が当たっているとも、外れているともわからないとき、こんな顔をすることを。
「わかりました。人間界の情報誌は様々な種類があります。」
「種類?」
「はい、現在、魔界は魔王様直属の情報誌、《魔界の調べ》のみとなっていますが、人間界では、複数の人間のグループが、それぞれに独立して情報誌を出版しているのです!」
「お、おう。」
「中には過激な思想を持ったものもあります!」
ディークの熱弁はとまらない。
「ディーク、わかっt」
「さらにこのパピルスの質!生産量!何をとっても魔界とは・・・」
⁉・・・魔王様がしょんぼりしている⁉そうか・・・そんなに悩んでいらっしゃたのですか・・・。
「魔王様!」
「な、なんだ?」
「今すぐ、人間界の情報誌全種類を持ってまいります!しばしお待ちを!」
「ちょっ⁉」
魔王が名前を呼ぶ前に、ディークは魔王の机の書類を吹き飛ばし、窓を突き抜けて飛んで行った。
「無茶苦茶だな・・・アイツ。」
しばらくして、音を聞きつけた魔装兵が飛んできた。
「魔王様!どうされ・・・?」
「心配いらん。ディークだ。」
「・・・またあの方ですか。」
全くだ。そう思いながら魔王は窓を魔術で復元した。窓は開けておいた。
「それでは、私はこれで。」
「待て。」
「はい?」
魔王はしばし俯いてから、ディークが持ってきた人間界の情報誌を見せた。
「これ知ってる?」
「ええ、《毎週新鮮情報!》ですよね。みんな見てますよ。・・・あっ」
「・・・・・《魔界の調べ》見てる?」
「申し訳ありませーん!」
魔装兵は逃げるように走り去った。
「マジかよ・・・。」