ペットにされちゃった⁉
。
「・・・・・て」
ペチペチペチッペチペチペチッとリズムよく頬がたたかれる。きれいな澄んだ声が聞こえる。
「・・・・・・きて」
そういえば、昔、おじいちゃんが起きるときには定期的でかつ激しくない刺激を与え続ければ、快適な目覚めを得ることができると言っていたような気がする。他にも、いろいろなことを教わった気がする。野菜の育て方、牛や、そのほかの動物の飼い方、おばあちゃんにどうやって口説かれたか。おばあちゃんには、食材のさばき方から味付けまで、言葉、字の書き方、その他の一般教養、おじいちゃんにどうやって口説かれたか、ん?まあ・・・いいか。ああ、思い出すと、あの人たちの言葉が頭の中に響いてくる・・・。おじいちゃんはこんなことを言ってたっけ・・・。
「昔、わしは村一番と言いっていいぐらいの・・・まあ、人によって見方はそれぞれがあるかもしれんが、男前だったんじゃ。そんなわしにおばあさんがしつこく言い寄ってくるから仕方なく付き合うたんじゃ。」
・・・。おばあちゃんは確かこんなことを言っていたっけ・・・。
「昔はねえ。私はそれはもうべっぴんで、村一番・・・まあ、見方によってはそのくらい美人だったわ。そんな私にしつこくその当時のおじいちゃんが言い寄ってきたから仕方なく付き合ったのよ。」
・・・・・・・。クソッ!そこしか思い出せなくなってきたよ!一体どっちが本当なんだ・・・二人ともとんでもなく清々しい顔をしていたけれど、忘れているだけなのか?きっとそうだろう。でなきゃあんな顔であの聖人のような二人が嘘をつけるはずがない・・・。うん。で、結局どっち?まあそうなるよなあ。おじいちゃんの方に最初聞いたから嘘をついているのは・・・って関係ないわ!・・・あっそうだ!二人ともモテていたわけわけだから・・・・。いや、あの言い方だと本当かどうかわかんないし・・・・・ああもう!どっちでもいいよ!まあどちらにせよ、当時、両親が行方不明になったばかりの幼い俺を引き取ってここまで育ててくれたおじいちゃん、おばあちゃんには感謝しなければいけないな。もしかしたら僕は本当の両親が場合よりも幸せに暮らすことができたかもしれない。いや、きっとそうだ。そうだと思いたい。
「おーきーてっ!」
「ぐがっ⁉」
左胸に激痛が走り、一気に俺は覚醒した。目の前に、おそらく十二歳くらいのどちらかというと黒に近い赤の、まっすぐ肩まで伸びた髪、燃えるような真っ赤な瞳、そして黒の部分が多い衣装が、まだ幼いこの美少女に妖艶さを見せていた。
「起きた?起きたね。」
少女は俺の隣に座り、微笑んでいる。俺はと言えば、どうやら大きなソファに寝ていたらしい。
「今、どういう状況かわかる?」
彼女は急に子供っぽいにんまりとした笑顔を見せて言った。
「・・・・・いや、わかんない。」
まだ頭が虚ろで自分がどうしてここにいるのかよくわからない。俺はおじいちゃんたちのことを置いといて、自分のことを思い出し始めた。うーん、だんだんと頭の中の靄が晴れてくるぞ。そうか、俺は憧れだった冒険者になって・・・
「教えてあげよっか?」
少女は身を乗り出して尋ねてくる。ほぅ。見れば見るほどバランスの取れた顔立ちだ。体は・・・フム、まだ幼いせいか、でるとこはでていないが、将来有望といったところだろう・・・・いかんいかん。思い出さねば。これは今の俺にとっての一番の優先事項だろう。
「ちょっと待って、今もう少しで思い出せそう。」
俺は頭を抱える。うん、俺は冒険者になっていろんな冒険をしたぞ、例えば・・・ん?何だかよくわからないが目の前の美少女が不満げな顔をしている。頬をぷくっと膨らませて・・・あらかわいい。思わずニヤけてくる。しかし一体どうしたのだろう?
「君、一体どうしたの?顔が赤いよ?お兄さんが聞いてあげるから、・・・」
瞬間、少女の目がカッと見開いた。
「何があったのか言ってデデエエエデエッでっでえeedde⁉」
再び胸に激痛が走った。まずい、俺もここまでかっまさか少女一人の悩みも聞いてやれんとは・・・いや、まだ終わらん。まだ終わらんぞっ!
「ガハッ⁉君、どうやら俺はここまでのようだ・・・・。だが安心しろ。ワアム村というところに俺をよく知っている老人夫婦がいるはずゥウッウダアッタだダダダダ⁉」
「うるさい!」
え?今なんて言った?目の前の少女は顔を真っ赤にして俺を睨みつけている。
「今なんと・・・?」
「だからうるさいって言ったのよ。あなたはもう私のペットなんだから口答えなんかしちゃだめだし、話も無視しちゃダメだし、指図するなんてもってのほかよ!」
「は・・・・・?」
この子は今なんて言ったんだ?何かものすごく非人間的なことを言われた気がする。
「俺が・・ぺ、ペペロンチーノに⁉」
「違うわよ!」
「ベッドに⁉」
「違うってば!」
「じゃあ家畜に⁉」
「違うわよ!」
少女ははっとした。
「そうか、それならよかttttダダダダだっだだd⁉」
しっ死ぬっ。このままでは・・・・。少女は火照った顔のまま落ち着くように鼻から息をフンっと出してから言った。
「いい?あなたは私のお父様・・・魔王に敗れて、その娘、アウティアのペットになったのよ!」
少女は誇らしげに、ふふんと鼻を鳴らした。
***
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん。僕の新しい転生先は、ペットのようです。
最後まで読んでくれればありがたき幸せ。