始まりの終焉
俺の名は大槻真二。二十四歳。フリーター。
自分のために働いては、喰って寝て過す日々。
楽しみと言えば夜の映画と缶のハイボール。
毎日が単調で、ルーティーンのような繰り返し。
この頃よく、中学生の頃のことを思い出す。
俺が人生で一番幸せだった時期だ。
あの頃は友達もいて、キスさえしなかったが彼女もいた。
今はどれもいない。上京を堺に、交流は薄くなってしまった。
新しい場所にはなじめず、そのままずるずると人付き合いも減っていった。
昔を思い返しては、よくわからないモヤモヤが、雪のように少しずつ頭の片隅に積もっていく。
日々、生きている実感が薄れていくのを感じる。
そしてふと生きる意味を自分に問うたとき、答えが何もみつからなかった。
こうして思い立ったある日、俺は死を決意した。
交通費のための財布と、道中に音楽を聴くためのスマートフォンのみをポケットに入れて、遺書も書かずにマンションの部屋をでた。
がらんとした狭い部屋を振り返ると、お袋と親父の顔が頭を過った。
ごめんな、でもしょうがないんだよ。
目を閉じて、頭から追い払って扉をしめた。
階段を降りて街中を歩いていく。
こんな日なのに曇り空だ。
少し苦笑いする。せめて最後くらい晴れてくれよ。
赤信号で歩を止めた。
目の前で車が行き交う。
交差点は、俺以外に歩行者がおらず、ただ一人で突っ立っていた。
なんだか、最後までとことん孤独だな。
誰か一緒に待っててくれたらよかったんだけど。
この際、美人の姉ちゃんでなくてもいいからさ。
おっさんでも、バアさんでも、誰でもいいから・・・。
信号が青に変わった。
単調な音楽が鳴り響く。
俺は歩を進めた。
そして、来る筈もない巨大な鉄の塊が目の前にあった。
「え?」
その一言以外何も頭に浮かばず、間抜けな音楽が響く中、気づくと俺の体は宙を舞っていた。
ふわりとした強烈な浮遊感が体を包む。
世界をスローモーションに感じた。
逆さまにみえる景色がゆっくりと動いている。
そう感じたのもつかの間、時間は加速して元に戻る。
次の瞬間、体がコンクリートの地面に叩き付けられた。
あまりの衝撃に、振動しか感じない。
どれくらいの距離を吹き飛んだかも分からない。
ただ、俺の意識を徐々に暗闇が外枠から覆っていった。
何だよこれ。
これから死のうと思ってたんだぜ?
最後の意志さえ、まともに叶えてくれないのかよ。
最後の最後まで、邪魔するのかよ。
あんまりじゃないか。
このまま、このまま死んで堪るかっ・・・!
俺は薄れいく意識の中、これ以上ないくらい生にしがみついて執着した。
だってこのまま死んだんじゃ、あんまり惨めじゃないか・・・。
しかし自然には逆らえず、俺は意識を手放した。