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魔法召いのリキ・ユナテッド  作者: MIA
魔法召いのブレェス
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ロキと召喚獣③


「君は外見は虎。中身は猫?」

「もうバカに見えるからやめて」

「こいつどっか頭打ったんじゃねえの」

 呆れ顔で頭を片手で抱えるフウコ。ライハルトを指差すロキ。その様子をただ見ているリキ。

 意味不明な質問に言葉選び。それを行った理由は彼への気遣いという皮を被った皮肉。


「日本語がちゃんと通じるのかどうか心配で」

「喧嘩売ってんのか」

「いや悪い。実は前に陰気な顔と言われたのを思い出し、つい君への敵対的な態度が出てしまった」

「……根に持ってたのか」


 ずいぶん前にロキが言ったことである。独り言のはずだったのだが、ライハルト本人にまで聞こえていたとは思っていなかった。さらりと言い退ける彼に唖然としている。




 ある日、サラビエル先生が告げた。


「ーーリキ・ユナテッド。以上の五名が本戦へ行くことになる」


 他四名の名を聞いているうちはなんなのかと思っていたが、他人事ではなくなり前の席にいるロキに聞くと、今のは〝本戦命令〟と言ってその名の通り本戦への出撃命令らしい。ここへ来て一ヶ月経つが、初めての本物の戦闘である。


 すぐさま移動したが、どうやらクラスで呼ばれた五名だけで戦闘場へ向かうわけではなく、他クラスをいれての数十名で向かうようだ。

 緊張に体を恐ばせる。


「ご主人様、安心するぴょん。リキに何かあったら私が守るぴょん」


 小さな小さな頼りになる召喚獣。兎の姿をしているがちゃんとした召喚獣である。ずっと肩に乗っている可愛らしい相棒ラピを見て、気持ちが和む。


 円を描いて木のない森の一角、に集まる魔物。戦うには良いスペース。

 武器使いは前方に魔法使いは後方に。数名の治癒隊は魔法使いと同じく後方に。戦闘準備はできている。

 先生の指示で前衛が出撃する。

 特に強い魔物がいるわけでもなく小さな規模の戦闘。だが相手がスライム……粘性ねんせいの高い半固形の物質の魔物の場合、剣などの物理攻撃はあまり効いていないように見える。


「ご主人様。ファイアを使ってみるぴょん」


 肩に乗っているラピからの助言。


「でも前使おうとした時使えなかったけど……」

「それは私がいない時の話ぴょん? 私がリキが炎系の魔法を発動できるようにするぴょん」


 そんなことできるのか。半信半疑で<ファイア>を口にしようとすると。

「ターゲットを決めるぴょん。それにこんな距離からファイアは当たらないぴょん」

 適切な指導を受ける。


 後方で見ていただけだったが一歩一歩魔物に近づく。遠くで見ていた時はさほど恐いものだとは思っていなかったが、近づいてみてわかる恐怖。

「この辺でいいぴょん。ファイアを唱えるぴょん」

「《ファイア》」

 言われた通り口にすると一体のスライムが炎に包まれる。

「もう一回やるぴょん」

 続けてやると水色のスライムは消滅してしまった。


「やったぴょん。炎耐性の魔物相手によくやったぴょん」


 炎耐性、つまり炎の耐性がある魔物ということ。炎の耐性があるのは水。今倒したのは水属性のスライム。

 消滅したスライムの他にも緑のスライムなどがいる。




 生徒たちが順調に魔物を倒している中、森に大きな影が通った。

 空を見上げた先生の目にその姿が映る。


「ドラゴン……なぜここに。全員直ちに森の外へ!」


 危険を感じた先生が指揮を取る。

 今回、リキのいる魔物退治メンバーはランクの低い生徒たちの集まりだった。実践訓練として森の魔物相手に戦闘をさせているのだ。

 ドラゴンはその辺にいる魔物より強い。空を飛べるは口から火を吐けるは何でもあり。何より物理攻撃が高く、ランクの低いメンバーで倒すのは困難である。


 何事かと思った生徒たちが先生を一瞬見、吹き荒れる風と何かが羽ばたくような音に上を見る。

 上空から舞い降りる竜。その姿は初めて見た。美しくも恐々しい。姿から見て威圧的だ。

 生徒たちの声が飛び交う。

 皆が指示通り逃走経路へ走る。ばらばらにならぬよう来た道を戻るのだ。そんな中、リキは逃げも隠れもせずその場に佇んでいた。ドラゴンに見惚れているのだ。瞳に映るドラゴンから目が離せなかった。


 地に着地したドラゴンと目が合う。数秒のこと。

 片腹に竜の尻尾が当たり、いきなりリキの体が真横に飛ぶ。木に衝突し尻餅をつくその肩には、衝撃時飛びまいとしがみついていた召喚獣のラピ。


「ご主人様を傷つけるなんて許さないぴょん」


 主人を傷つけられ怒ったラピがリキの肩から離れ地に着地し、無謀なことにも野球ボールほどの小さな体でドラゴンに立ち向かう。

 結果は秒殺。一瞬でやられてしまった。

 ドラゴンの大きな手で吹き飛ばされては一溜まりもない。自分と同じように木に激突したラピの元に駆け寄ろうにも目の前のドラゴンを何とかしなくてはいけなかった。けれどーー


『ご主人様を傷つけるなんて許さないぴょん』


 ラピは自分のため敵いもしないドラゴンに立ち向かった。自分でもわかっていたはずだ。勝利する確率がひとかけらもないことを。

 だったらこちらも無謀でも立ち向かうべきだ。


「《防御空間ガードスペェィシャル》」


 静かに口にする。

 体全体に防御空間が張られられる。丸い形をしたシールドのようなものだ。効果は、受ける攻撃の威力を減らす。だがそれは攻撃を受けるたび少しずつ薄れていく。

 ドラゴンの前に立つと彼を見据える。


「私は彼方あなたを傷つけようとなんてしていない。どうして彼方は私たちを傷つけようとするの」


 撃退しようとするのかと思えば、説得をしようとしていた。無論、ドラゴンが喋るわけもなく返事はない。

 真っ直ぐと見つめているとまるで思いが通じたかのようにドラゴンは翼を広げ、その翼を羽ばたかせる。

 強い風を吹かせ空を飛びドラゴンは立ち去ろうとする。

 上空からドラゴンの姿が消えるのを見送り、側にいるラピに駆け寄った。手のひらに乗せると気絶していたかのようなラピが薄目を開ける。


「リキ……。今まで楽しかったぴょん。私を召喚してくれてありがとうぴょん」

「ラピ……」


 一撃の攻撃を受けただけでもう駄目だということを言う。弱々しい顔。小さな体。何十倍もの大きさのドラゴンに与えられたダメージは相当大きいのだろう。リキが思うほどに、ずっと。


 消えないで。


 心の奥でそう思った、ラピの体が光に包まれて……今にも消えてしまいそうだから。厳密に言えばラピの体の部分が光の粒子となって、体全体を光が包み込んでいる。

 別れがまさかこんな近くにあるものだと思わなかった。出会ってから約一ヶ月。

 ずっと傍にいた。寝るときも授業を受けるときも、誰かと話すときも移動中も起きたときからずっと、傍にいた。その生活に慣れてきたというのにまた今になってそのーー当たり前の幸せがなくなってしまうんだろうか。


 いやだ。


 と思っても目の前の現実は受けとめないわけにはいかない。


「私の方こそ、今まで一緒にいてくれてありがとう」


 パァっと泣き笑顔。泣きそうになりながらも涙は流さまいと必死に。心からの笑顔をラピへ向けた。これまでの<一緒にいた時間>を<楽しい思い出>にしようと。

 ラピは笑った。それが伝わってか、別れはつらいものではないと言ってくれているのか、とても……幸せそうに。

 手の中で光となって消えていく。それは暖かい光。不相応して心の中は酷く冷たく。


 ドラゴンがいた時、先生が何度か退却するように言っていた。でもその時にはもう遅く。ラピと一緒に逃げるためドラゴンに立ち向かった。ドラゴンは自ら引いた。けれどラピは一撃のダメージを受けていた時点でもうすでに手遅れだった。


 なんて残酷な仕打ちだろう。


 先生が駆け寄って来て、大丈夫かと問う。リキは両手にあった無き姿を見つめて、大丈夫ですと答えた。

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