ロキと召喚獣①
「召喚獣ってどうやって戻すの。というか君はいつ戻るの」
「戻りたい時に戻るぴょん」
「へえ、そういうシステムなんだ」
「私は特別ぴょん。ご主人様の安定した魔力のおかげでここにいられるぴょん」
「なるほど。姿形が小さいから少ない魔力の受け流しでこっちに存在し続けられるんだ」
「小さいは余計ぴょん」
教室の机上に存在する喋るうさぎは、机上に乗っているというのに見下ろされている。うさぎの身長は20センチにも満たない。甘く見られても仕方ないがこれでも召喚獣である。
喋れる機会は滅多にないと、召喚獣という未知な生き物にライハルトは向き合っていた。
そんな一人と一匹を傍で見ているリキは、子を見守るような目でうさぎのことを見ている。
「あ。お前、昨日の」
ライハルトたちから目を離すと今ここに来たような赤髪の男子生徒と目が合い、横からも声をかけられる。
「何? 昨日なんかあったの」
彼は演習試験の時の相手。昨日の試験の時の、と小さな声で返すとライハルトは彼に視線を向ける。そして。
「モンキーさん?」
考えられない一言を発した。
「あぁ? 俺はモンキーなんて名前じゃねえよ。ロキ・ウォンズだ」
「そうか。すまないな。ーーモンキーに」
その場に沈黙が襲う。第一声で喧嘩事にならなかったのには赤髪男子生徒を見れば奇跡的。ーー言葉遣いの荒さ、容姿の派手さ、堂々とした態度。どうみても彼は不良に近い類い。
「……まじこいつムカつくだけど」
意外と自分を抑えられる人のようだ。嫌悪な顔で心奥底の気持ちを呟き捨てるだけで苛立ちは抑えている。
肝心のライハルトは、じゃあもう授業近いからと立ち上がり、また話そうね、とうさぎに向けたものであろう台詞で穏やかな表情をし自席へと向かってしまった。
またその場に沈黙が襲う。
「陰気な顔してあれはねえよな」
その発言もないと思うリキだった。
赤髪男子生徒はその後何事もなかったかのように席に座る。それはリキの前の席。思わず見ていると視線に気づいたのか彼が少しこちらを向く。その目はリキではなく机上にいるうさぎを映していた。
「なんだそのチビっこいウサギ」
「だからウサギじゃないぴょん!」
「喋った」
颯爽に否定したうさぎに驚く。誰もがただのうさぎだと思っていたものがいきなり喋ったら驚くだろう。それが普通の反応。
「皆同じ反応ぴょん。ご主人様は出会った時から私を受け止めてくれたぴょん。ご主人様以外皆低能ぴょん」
リキの場合、驚きすぎて何も反応できず、現実を受け止めるまでの間突っ込みどころに一切触れなかっただけのことである。
「ちっさな脳の持ち主には言われたくねーな」
「この頭にはたくさんの脳味噌が詰まってるんだぴょん」
「いくら詰まっているからといって、その頭の大きさには限度っていうものがあるわ」
憎たらしく笑いながら言う彼に怒りで赤くなるうさぎ。
「冗談はさておき。こいつあん時出した召喚獣だよな? なんか、召喚獣のいる世界とかに戻さなくていいのか」
挑発し終わってリキへと話が振られる。
「戻し方とかわからないんだよね。このコが戻りたい時に戻るって言ってるから良いかなって」
「へえ。召喚師様が自由に出し入れできるものじゃないのか。厄介そうだな、そんなうるさい子ウサギ連れて」
「……もう私は口を聞かないと決めたぴょん」
「うさぎでもぐれるんだな」
自分に背を向けたうさぎを見てなぜか嬉しそうに笑う。まるで面白い反応をする何かの対象を見つけて喜んでいるいじめっ子のような。心からの笑顔に、あまり恐い人ではないとリキは認知した。
「ライハルトってあの人のこと嫌いなの?」
彼への発言には驚かされた。きっとあの時フウコも傍にいたら一瞬凍りついたような空気を一緒に体験できただろう。
「別に嫌いってわけじゃないけど。ヤンキーっぽかったからさ、ヤンキーとモンキーをかけてみた」
ーーそんな理由で……。
今度はリキの顔が凍りついた。
「こいつ、そういうところあるのよ」
ライハルトのことをよく知っている彼女は物臭そうに証言する。フウコは離れたところであの現場を見ていたという。二人に挟まれたリキを見て、ご愁傷様と心中で呟き。ついでにうさぎのことも思い。
「もうすぐテストだね」
風の通るようなさりげなさは今の話題の出し方にはない。
「もうそんな時期か」
「頭脳Dの君がどんな点数を取るのか楽しみだ」
まるでやり返しと言わんばかりの掴みどころのない笑顔。二人が喧嘩をする原因がわかった気がした。
「テストって……」
二週間後にテストは行われる。これまた演習試験と同じで点数によってランクが決められてしまう。基本A~Dで、最低はE。最高はSだが簡単に取れるものではない。