リキの災難4
ここは魔法学園ーーファラウンズ。昨日何の前触れもなく連れてこられ入学させられ、そして戦闘までさせられた。リキにとっては恐ろしい学園だ。隣を見れば、自分と同じくベッドの上にいる昨日の戦闘相手であるーーフウコ。彼女は明るく元気で、昨日は相棒である男の人と口喧嘩のようなものまでしていた自分を隠さない人。すぐに仲良くなれそうな雰囲気を持つ彼女は未だ寝ている。
昨日、戦闘が終わってからの会話でフウコとライハルトの相性は85だと判明した。彼女から言ってきたことで最初は何のことかわからなかったのだが、戦闘終了時に出た数字のことだろうと、聞かれたことに答えるとフウコは驚いた。
初めてで80は高い。ライハルトが言うには徹底した攻撃をするファウンズのおかげだろうとーー回復も相性にプラスされるものらしい。あと風聞では素性も関係あるとのこと。
フウコは上体を起こしてすぐ欠伸をしたかと思えば、ふいにリキを見ては眠たそうな顔をして言った。あれ、あんた誰。と。その発言に驚いたリキは目を丸くして昨日のことを話そうとしたが、その前に彼女が、ああそうだリキだとピンと閃いてくれたので説明は不要となりーー。自己紹介したのが昨日の今日、寝ぼけていたこともあって思考が鈍っていたのかと判断。そして、思ったことをすぐ口にする。それが彼女の良いところであるのかもしれないとも。
「じゃあ行きますか。ホームルームにゴオー」
ついさっきまでの寝ぼけ顔は嘘だったかのように前を走るフウコは本当に元気だ。見ていて笑みさえ出る。
……はた、と気づく。あれがない不便かもしれないと。立ち止まり、部屋を目指す。中に入ると机に置いてある本を手に取りフウコを追いかけた。
教室に入るところで誰かとぶつかりそうになる。見上げればぱちっと碧い目と合う。ーーファウンズ・キルだ。昨日、相棒として戦闘に一緒に出てもらった。先生の命令とはいえ引き受けてくれたことに恩義を感じるかはやや不安定なところにある。相棒がすぐ出来たことにより戦闘演習に出ることになった。そもそも先生は演習に出させるつもりだったのかもしれない。
迷惑であろうことを引き受けてくれたことに関しては彼に感謝を感じる。サラビエル先生との会話の中で、面倒をみることを償いかのように言っていた。
「おはようございます」
人との縁は大切である。軽く会釈して何らかの変化を待っていたのだが、彼は何の反応もせず廊下へ出て行ってしまった。
静かに後ろ姿を見送ったが良かったのだろうか。たぶんこれから授業である。
授業の休憩中ーーリキはランクについて教えてもらった。ランクには<力>と<協力性>の二つあるらしい。クラスにはランク<S~D>の人たちが入り混じっている。それはどのクラスも一緒でまんべんなく分けられているようだ。それもライハルトが言うには。
「評価されるんだよ。戦闘の仕方を見られて」
戦闘が必要になるらしい。
「リキは途中から入学したから、たぶん今日か明日中にそのことについて言われると思うんだけど」
「リキは誰と組むのかしらね」
フウコが楽しげに言う。その仕草の意味をわからずにいるとライハルトが、昨日のような戦闘演習と同じで誰かと組んで戦う、とのこと。すべきことは変わらない。
「なんなら僕が組んであげてもいいよ」
「魔法使いのあんたが魔法使いと組んでどうするの。どちらも遠距離からの攻撃だと時間もかかるし協力性も評価されずらいし……ていうかリキはどんな魔法使えるの? あの時、回復魔法は見たけど攻撃魔法は見てない」
「確かに見てないね」
「……攻撃魔法、使えないかもしれない」
正直魔法が使えるなんて全く思っていなかった。回復魔法を使おうと思って発動したのはあの一度だけ。それを二人に伝えると驚いたような顔をした。
「それじゃあ魔法初心者?」
「珍しいね。この歳まで力が発揮しないなんて」
「やっぱり組んだ人に迷惑になるかな」
「大丈夫よリキなら。だって大人しそうで良い子そうだもん」
「とりあえず、良さそうな人あたってみれば? 武器を扱う人の」
意味合いを込めてライハルトはフウコをちら見する。視線に気づいたフウコは苦笑いし、声には出さず私はパスと両手を見せた。
二人の動作に気づいていないリキの立候補はもうすでに決まっている。
(ーー昨日の人、引き受けてくれるかな)
ライハルトの言う通り、全ての授業を終えてから「明日中に相棒を見つけ、午後の戦闘演習に出るように。今度は私が見て評価をつける。自分の出せる力全てを出すように」とサラビエル先生に言われ。
一度相棒になってくれた彼に思いきって頼んでみることにしたのだが、「断る」と見事にきっぱりと断られ。彼が通り過ぎ去る際、昨日引き受けてくれたのは先生に言われたからなんだと思い知る。
二度目の正直。廊下で彼の姿を見つけまたも頼んでみることにした。本当は彼のことは諦めようと思っていたのだが、他に良い人が見つかるとも思えず。ちょうど前を歩いていたので当たって砕けろ精神で話しかけるタイミングをうかがっている。少しの間だが、傍から見たらおかしいかもしれない。ストーカー行為に近いのかも。だがリキはそんなことかまっていられない。
「久しぶりじゃん。クラス違うから全然会えない」
前から来たひとりの男が彼に親しそうに話しかけた。そしてふと後方にいるリキに気がつく。
「あれ? お客さん?」
ファウンズの視線まで向いてくる。気まずい。だが碧い目はやはり綺麗。なんて思っているうちに興味が失せたかのようにファウンズは行ってしまう。
「明日の演習試験、一緒に組んでほしいんです。まだ戦闘に慣れてなくて、傷を負わないとわかっていてもまだ怖くて……だから昨日のような戦闘が出来たら良いなと。何もできないからといって武器を扱う強い人に頼るのはずるいことだと思います。でも、組みたいです」
全て気持ちは伝えた。後は彼の発言を待つだけ。
「悪いが、さっきも言ったが断る」
……思っていたとおり駄目であった。去ってしまう彼。なぜか告白を断られた気分になる。
それを見ていたひとりの男。
(こんな告白されても断るなんて)
ーー男じゃねえな、と、ファウンズの後ろ姿を見ながら心奥で思う。
「君、もしかして新入生?」
はい、と答える。
「だからこんな中途半端な時期に試験か……」
考え込む仕草をする銀髪の名も知らぬ男。
「あいつの代わりに俺が組もうか」
思わぬ一言に思わず凝視。いいんですか、と言ってしまう気持ちを抑え、とりあえず落ち着いて考えてみる。目の前にいる男の人は初めて会ったここの生徒。今思えば彼が演習試験を断固拒絶するのは何か理由があってのことかもしれない。それを初めて会った男の人ーーそれもクラスも違う人に頼むのは少し気が引ける。
「気を使って頂いてありがとうございます。でも大丈夫です」
丁寧に断りを入れ、リキはファウンズとは違う方向に去った。
(あいつに劣らず強いんだけどなあ)
残った生徒は断られると思っていなかったため、驚きと感心を受けたかのような表情で呟いた。