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魔法召いのリキ・ユナテッド  作者: MIA
魔法召いのブレェス
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リキの災難1


「今日からここ≪ファラウンズ≫に入ってもらう。リキ・ユナテッド」

「……はい?」

 彼女から告げられたそれはとんでもないことだった。


 目の前に立つ女性はどこか威圧的な雰囲気を持ち、ありなしは関係ないといった感じで。今は自分の意見を言う場ではない。

 デスクだけが置いてある一室で簡単に問う。

「どういうことで」

「そのままの意味だ。ここは魔法学園、わかるだろう?」

 わかるけどわからない。そんな顔をするリキを見て女性は続けた。

「今日はパーティが開かれる。その時に発表でもするので準備しとくように」

 何も意見を言えないまま話は終え、彼女の言う通りパーティ会場で挨拶をすることとなった。




 静かなベランダに出たリキは一息つく。大勢の前に出た上注目の的となったのだ。疲れも出る。

 あの視線は耐えられなかった。今頃新入生という奇妙な目と好奇な目。

 全てあの女性ーーサラビエル先生が自己紹介的なことをしてくれたが、自分の名を口にするだけで緊張が増し、彼女の言葉は何も耳に入ってこなかった。

「ーーリキちゃん、だよね?」

 いきなり聞こえた声に瞳孔を開く。振り向けばそこには金髪の男性。人の顔色を伺うような表情をしていた彼は、ほんの少しぱぁっと顔を輝かせ表情を豊かにした。


「やっぱり。さっき会場で挨拶してた子でしょ」

 そういえばそうだったと思う。自己紹介で自分の名を口にした。頷けば知らずと近距離にいた彼が見下ろしてくるのが気になる。

「あのさいきなりなんだけど俺の相棒パートナーになってくれない?」

 その言葉に視線をあげる。その顔はーーなんの? といったものだ。

「ああごめん、入りたてでよくわかってないよね。ここでは戦闘が行われるんだ。だからその時のパートナーになってほしいなって」

 ーー戦闘……。更にここのことがわからなくなってくる。


 戦闘とは<誰か><何か>と戦うこと。それは一体何なのか。ここのことを何も知らないので混乱さ二倍である。そもそも<誰か>と戦うなんて言われたら絶句以外の何ものでもない。この学園のことを敬遠してしまう。


「もう少しだけ詳しく教えて」

「戦闘のこと?」

 うん、と頷けば目の前の金髪の彼は、んーと考える。

「学園内で戦闘の演習するんだけど、それは外にいるドラゴンとかやっつけるために力とか協力性とか高めるためにやるとか。二人組になって同じ二人組と戦う」

 それでは誰か<人>と戦うということだ。

 ーー人間同士の争い。


「リキちゃん。それで答えは?」

「聞いといて悪いんだけど……、私戦闘とかできないから」

「戦えなくてもいいんだよ。ただ回復してくれるだけで助かるから」

 食い下がってとても諦めてくれる雰囲気ではない。

「何かの手違いでここへ入れられたんだと思うんだよね……。魔法学園なのに私魔法使えないし……」

 ここではきっと魔法が使えない人の方が珍しいのだろうーー。

「俺も使えないよ、魔法」

 と思ったが違った。

「魔法が使える人だけがここにいるわけじゃないんだよ。剣とか武器とか使って戦う人も大半いる。なんていうんだろう……兵とか騎士的な」


 魔法が使える人が魔法学園にいると思っていたが、実際は違うらしい。ということは魔法が使えなくても追放させられないということだ。だとするとーー戦わせられる?

「だから多分、魔法が使えないなら武器とか持たされて魔法の使える人と組まされるかも」

 それはとても理解しがたい。理解したくないことだ。

 またありかなしの感じだったら……なしになるだろう。自分の意見は皆無だ。


「でも……残念だな。回復魔法が使える子きたと思ったのに」

「どうして私が回復魔法使えると思ったの?」

「え。 だってサラビエル先生が言ってたよ。この新入生は回復魔法が使えるためスカウトしたって。君も隣で聞いてたでしょ」


 それは大勢の前に出た時のことか。あの女性ーーサラビエル先生が隣で何か喋っていたと思うのだが、全く記憶にない。何せ聞いていなかったのだから。その時に〝回復魔法が使える〟と代わりに自己紹介されたのだろう。本当は使えないというのに。


 なんて運のない。


 町に魔物が出て助けが来たと思ったらそれは≪ファラウンズ≫の生徒たちで。ある男の人が腕に怪我をしたから見ているだけじゃいられなくなり、その男の人に近寄って腕の怪我を間近で見た。狼のような魔物にやられた傷は痛そうだった。鋭い爪でやられてしまった傷。手当する時間はなく治したいと思っても治すことはできない。でも治したくて。無謀にも男の人の腕の傷を手で覆い、願じた。どうかこの傷がなくなるようにと。

 男の人の息を飲む声が聞こえた気がして目を開くと驚いたことに、覆っていた手があおく光っていたのだ。何事と思うもそれを凝視していると、手が光っているのではなく手から碧い粒子のようなものが出てそれが光っているように見えているのだと思った。実際光っていたのだろう。

 驚いたことにそれが原因なのか男の人の腕の傷はなくなった。

 それを見られていたのか魔物がいなくなって一安心した時、あの女性ーーサラビエル講師が声をかけてきたのだ。一緒に学園まで来てほしいと言われ、そのまま連れられ、何故かそのままここに入ることに。……スカウトされたというよりも連行されたという言葉に近い。


 もし手から出たあの碧い光のようなものが回復魔法というのであれば、戦闘中回復だけしていればいいんだろうか。武器を手にとって相手に立ち向かうなんて考えただけでも無理だ。

「回復魔法が使えたら一緒に組みたかったんだけどね」

「回復魔法ってそんなに良いものなんですか?」

「俺にとっては、かな」

 彼が回復魔法にこだわっている理由。それが何なのか気になる。


「重要視されてるってわけでもないし本格的な戦闘では≪治癒隊≫が回復してくれるみたいなんだけど……演習練習の時絶対ダメージくらうからさ」

 そう言ってしょげた顔になる。

「俺、結構痛いの苦手で……ダメージ与えられた時すぐ回復してくれる子がいたら良いなってずっと考えてて」

「回復魔法が使える子って少ないの?」

「少ないってわけじゃないんだけど、回復魔法が使える子は≪治癒隊≫に入っちゃうんだよね。特に回復魔法しか使えない子は。俺はそんな子が良いのに、なんでそんな仕組みにしちゃうんだろうね」

 何だか愚痴になりそうだが、気にしない。

「ああ、ごめん愚痴になりそうだった」

 気づいたようでなにより。


「ともかく回復魔法使える子、少ないんだ。戦闘の演習を行う時は。一人だけ回復と援護に特化した子がいるんだけど、その子の相棒はもう既に決まっているし」

 痛いのが嫌だからということもあるが、よく考えているのだと思う。さっきまでの穏やかな表情を一変させ考え込んでいるようだからよくわかる。

 やはりこういう人はわかりやすい。

「基本的に回復魔法使える子は援護はできても戦闘はできないって言われてるけど、それでもいいんだ。君は俺が守るってね」

 真っ直ぐと見つめられ言われると自分に言われた気分になる。けれど魔法さえ使えないリキには何もできない。ここまで話を聞いて、力になれるのなら相棒パートナーになってもいいと思ったが、回復魔法が使えないのだからそれはそれ以前の話。


「ずっと探してたけど全然いなくて、諦めかけてた。でもそんな時に現れたのが君なんだけど……」

「ごめんね」

「謝るのはこっちの方だよ、急に親しく話しかけちゃってさ」

 確かに初対面にしてはとても親しく話しかけられたが、嫌な気にはならなかった。それは彼の出している人を包み込むような、安心させるようなものがあるからだろう。

 とても良い人格の持ち主だ。数分話しただけでわかる。もう何分話しているかわからないが。誰とでも仲良くやっていけそうな、そんな空気を出している。少しは面倒なところもあるようだけど。


「僕の名前はシルビア・シルフォン」

 韻を踏んだような名前だ。

「よろしく……となるかはまだわからないかな」


 魔法も使えず武器も使えなければ退学になるだろう。彼には悪いがそれを密かに期待している。退学させられない時のことを不安に思いながら。


「でも、君には魔法の素質があるのかもね。だからここに入れられたのかもしれない。そもそもそうじゃなきゃあの先生が君に声をかけることはなかったと思う」


 身には覚えがある。あの時のことだ。けれどーー……。

「これからここの生徒としてよろしくね」

 学園に入って早々、良い人に出会ったと思うリキだった。

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