リハビリ用SS ~ゆめの話~
「知ってるか?」
「は?」
放課後の会話は唐突に始まる。大抵は大夢がいきなり話しかけてくるところからスタート。
「スイカって果物じゃないらしいんだ…!」
「…で?」
「それだけ」
「あっそ。じゃあ」
「あーまてまて」
わけのわからないことを言い出すので軽く流して帰ろうとする。そして呼び止められる。
いつも通りだ。
「何よ」
「メロンは果物だよな?」
「知らない」
「果物みたいな名前してるくせにそんなことも知らないんだなぁ」
「関係ないでしょ」
そして私を小ばかにしたような態度。
ここも、いつも通りだ。
「関係あるだろう。俺だって夢のことについていろいろ調べたりしたもんだ」
「それはあんたが特殊なだけでしょ」
「いやいやそんなことは…あるのか?」
「そうよ」
「いやそれはいいんだ。それより俺の調べた夢の話を聞いてくれ」
「もう帰りたいんだけど…」
「そんなに時間は取らせないから!な?」
「五分」
「五分か…」
「残り、四分四十五秒ね」
「数えはじめるの早っ!?ええっと、夢には様々な種類があって…」
「難しそうな話、嫌い」
「初っ端から話の腰を折るなよ…」
いつの間にか楽しくなる気分。
これは、ここ最近になってからのこと。
「でも仕方ないし、聞いたげる。続けて」
「え、ああ…それでだ、予知夢って聞いたことあるか?」
「未来のことが見えるってやつ?ゲームで出てきたことあるかも」
「そう、それだ。俺、それを見たんだよな」
「…………」
一気に胡散臭くなる話。
これは、昔から。
「未来の、大人に成長してイケメンになった俺がな、かわいいお嫁さんもらって幸せそうにしてる夢、見たんだよな…」
「それ、願望夢よね…」
「願望夢とは」
「その名の通りじゃない。『叶うはずもない』願望とか、『満たされることのない』欲求が夢となってあらわれるの」
「強調するなよ…悲しくなってきただろ」
「あんたが悲しかろうと知ったこっちゃないわ」
ほんの少しの、胸のもやもや。
嫉妬だとは、思いたくないけど。
「……」
「何?じっと見て。気持ち悪い」
「いや、最近お前ちょっと冷たくないか?と思ってさ」
「…いつも通りよ」
「そうだったかなー?こんなちっこかった頃には少しは可愛げが…」
「昔の話はしないでって言ってるでしょうがこのバカっ」
「おー怒った怒った!退散っと」
「あ、こら…」
「悔しかったらついて来いよ!」
「…!」
刹那のデジャヴ。
将来の夢を語った二人。
何故か私は怒って、あいつは逃げて…。
追いついた時、言われた言葉を思い出して、
「でもやっぱり、俺はいい夢だと思うぞ?」
「…何が、よ」
「運動不足だろ?お前。息切らしてるじゃんか」
「…うるさい、な」
「ああ、そうだ。夢の話思い出してさ」
そうだ。こいつは、私の夢を笑ったんだ。
でも、後になって知ったこと。あれはただの照れ隠しだった、らしくて。
「お嫁さん、だろ?」
「…そんな昔の話、なんで覚えて」
「忘れるわけないだろ?ずっと一緒にいたんだ」
「それで」
「さっき話した俺の予知夢な」
まさか、ね。
次の言葉を予想した自分を笑い飛ばしたくなる。
「お前だったんだよな」
「え?」
「いや、だからお嫁さん」
思考が固まる。
「夢、叶ってよかったなって。いや、夢の中でだけどさ」
今すぐこいつを殴りたい。
そう思いながら飛びついて、抱きしめた。
おわり