他人の目?
知らない澄み切った青空が見える。空を見上げているからだろうか、太陽の光を吸収しすぎたせいで目が痛む。いつまで見上げているんだよ、この左目は。
俺の右目が見るのは、今ここにいるという実感を沸かせる空虚な部屋。
散見されるのは潰れたビールの空き缶に煙草の吸い殻。そしてその弊害で落ちている灰。
だけどこんな部屋でも俺にとっては居心地がいいんだ。
部屋に満ちている悲しいくらいの優しい闇。このまま適当に生きて死んでいけばいいんだよと部屋は俺に教えてくれる。それが一番楽な生き方だと俺は思う。
だけど、それを妨害してくるのがこの左目だ。
二週間ほど前。会社の先輩に飲み会に誘われたのが事の発端だ。
酒の飲み過ぎで度を過ごして酩酊していた俺はなんとか自宅であるボロアパートまで辿り着いた。だが、階段を踏み外し手すりに目を強打。
子供の大泣きの如く目からは血が出て、救急車を呼ばなくては……と一瞬焦りはしたが、痛みもなく大した怪我じゃなさそうだし、救急車を呼んで野次馬に囲まれるのは癪だなと思い。そのまま寝た……。
――朝目覚めると左目に飛び込んできたのは風にたなびく白いレースのカーテンだった。
なんで? どうしてだ? 俺は部屋に居るのに……左目は何を映しているんだ? ただ、昨日の夜酔ってぶつけただけじゃないか。
意思の通じない目には次々に物が映り込んで来る。
煙草を吸わないような真っ白い壁に綺麗にメーキングされたベッド。枕の横にはお洒落なスタンドライトがある。寝ながら本でも読むのだろうか。
部屋の隅には大きい姿見鏡に、木目のドレッサー。ドレッサーには多数の化粧品が綺麗に置かれている。
この部屋を見ているだけでアロマや芳香剤、香水などの香りがしてきそうで、鼻がこそばゆい。
ちゃんと右目は相反するかのようにいつもの俺の部屋を映し出していた。その様子はまるでビフォーアフターだ。右の部屋がなんと、リフォームによりこんなにも生まれ変わりましたー。みたいな。
さてと、ここまで見て分かったことは左目は違う誰かが見ているものを映し出しているということ。おそらく女性の部屋だと思うのだが……。
「うわぁっ!?」
つい叫んでしまっていた。俺の体の方から唐突に伸びてきた華奢な白い腕。繊細な指先は男のゴツゴツとした指ではない。それに、爪にはナチュラルネイルが施されており、光沢を出している。
予想は確信に変わった。俺の左目が映す物……それは若い女性の視点だということに。
眠気覚ましにちょっと書いてみた。
続きはそのうち……。