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5【踏み切りの向こう】

 翌日、祐一郎は汐里との余韻が尾を引いているかのように、学校でも終始明るく振舞っていた。

 もちろん、彼女の抱えているトラブルは気の毒に思うし、出来る限り助けになるつもりだが、彼女と身体を交えた嬉しさがその問題を楽観的に捉えていた。

 しょせん遠くにいるメル友なんて、いくら怒ってたって何か相手に損害を与えたわけでもないのだから、そのうち縁が切れるだけだ。

 祐一郎はそう考えていた。

 だから、今の状況で汐里の不安と恐怖の気持ちを取り除いてやれば、自然に事は解決すると思っていたのだ。

「祐一郎、お前一組の柊木と付き合ってるんだって?」

 クラスの男子が声を掛けてきた。

「いや、別に付き合ってるわけじゃあ」

「よく声掛けれたな。どうやったんだ」

 三浦幸裕は、興味深々といった感じだった。

「柊木は可愛いけど、なんか影があるっていうか、暗いだろ。近寄りがたいし……みんな話したくても声を掛けられないでいるんだぞ」

 三浦は羨ましそうに、祐一郎に向って言った。

「実際声をかけて撃沈された奴もいるしな」

 確かに汐里は少し影があると言うか、人を寄せ付けないオーラを放っていると言うか、祐一郎自信も、散々図書室に通いながらも声を掛けあぐねていたのは事実だ。

 いつも俯き加減な視線がそう思わせるのか、あまりにも飾り気のないシンプルさがそう感じさせるのかは判らないが……とにかく、手を触れてはいけない無垢なイメージはある。

 三浦が言うには、柊木汐里は密かに男子の間では人気があるのだそうで、清楚なイメージと誰とも親しくしない孤高のイメージが妙にそそるのだという。

 しかし、勇気を振り絞って気さくに声を掛けてみても、それは彼女には軽薄に映るらしく片言であしらわれるのがほとんどだそうだ。

 確かに祐一郎自身も、彼女がたまに見かけるだけの存在だったら、絶対に話しかけられなかっただろう。

 だからこそ、今日の祐一郎は上機嫌なのだが……それを誰にも言えないもどかしさは、彼に微かな優越感をもたらした。

 しかし、彼女がどうして彼に心を開いたのかは本人にも解らない。

 長いこと図書室へ通っている祐一郎に、汐里も何時の間にか親近感が沸き起こっていたのかも知れない。

 何時もは誰かに話しかけられても、話が盛り上がらず直ぐに離れていく。彼はそんなつもりは無いのだが、対応が貧祖でおざなりなのかも知れない。

 転校して間もない頃はみんながひと通り話しかけてきたにも関わらず、誰とも親しくなれなかったのは、少なからずそう言う事だろう。

 しかし、昨日の出来事に酔いしれ、周囲の人間に微かな優越を感じている今日の祐一郎は終始陽気で、クラスの誰に声を掛けられても笑いが沸き起こった。

「あいつ、案外明るいじゃん」

「けっこう話易いよね」

 今日声を掛けてきた男女共に、そんな言葉を発していた。

「ちょっと、せっかく二人いい雰囲気なんだから、そっとしといて上げなさいよ」

 しつこく汐里の事を訊いてくる男子に見かねて、そんな風に祐一郎を庇う女子までいた。

 しかし、放課後に気付いたのだが、柊木汐里は今日も学校へは来ていなかった。

 携帯電話への異常なメールが続いているのだろうか。いや、着信拒否するように彼女にいったから、それは大丈夫だろう。

 パソコンは……パソコンのメールもアドレス否定するように設定してあげればよかったか……しかし、彼女たちが、つまり一時的に怒りを露にしているメル友が仲直りのメールを送ってくる可能性だってある。

 もし、相手の娘が異常にヒステリックな性格なら、一時的な行為かもしれない。祐一郎は、汐里の為にも明るい希望を僅かながら残しておきたかった。

 彼は、汐里の携帯電話にメールを送ってみようと思ったが止めた。メールに脅える彼女をさらに脅えさせるような気がして、気が引けたのだ。

「祐一郎、一緒に帰ろうぜ」

 昇降口で三浦が声を掛けてきた。

 三浦は何となく話し易さでは一番だった。以前から時々は会話を交わす相手だったが、一緒に帰るなんていうのは、もちろん初めてだ。

「今日、柊木は休みだって?」

「ああ」

「昨日も休んでたって」

「そ、そうだな」

 三浦はニヤニヤしながら祐一郎の背中をパンッと叩いて

「まさか、彼女妊娠したんじゃないだろうな」

「ま、まさか。そんな事俺たちしてないから」

 祐一郎は昨日の事が頭を過り、慌てて否定した。まったくの嘘だが……

「なあ、柊木ってどんな性格なんだ?」

 三浦は相変わらず汐里に興味を抱いている。しかし、何も祐一郎から横取りしようとしているわけではなさそうだ。

「いや、話してみると普通だよ。意外とよく笑うし」

「へぇ、ちきしょう。いいなあ、お前」

 祐一郎は三浦にそう言われて、正直悪い気はしなかった。

「あれ、そう言えばお前の家も、こっち?」

 駅前通りまで来た時、三浦が言った。

「あ、俺しお、柊木の家に行ってみるから」

「おお、そうか。俺も付いて行きたいけど、ま、ガマンするか」

 三浦はそう言ってから

「じゃあな」と、気さくに手を上げた。

 三浦と別れた祐一郎は、彼と反対方向へ歩いて踏切を越えた。




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