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お題:唐変木、俺様、時計、へたれ

作者: シラキ

時々なんで私があんな男を選んだのか、自分でも不思議に思うことがある。

容姿は悪くない。

美形というには少々物足りないが、好みの部類だ。

金に不自由はしていないみたいだが、『我が家』には遠く及ばない。

頭は良い。

成績は常に上位、加えて雑学教養その他もろもろ勉強以外の知識も豊富。

だが、残念なことに馬鹿だ。

頭のいい馬鹿、その例に漏れず性格は悪い。

いや、悪いのではない。最悪といってもいい。


初めての出会いを思い出せば、今でも怒りに身が震える。

対面早々、名前も知らないのに公衆の面前で、

「おい、お前。気に入った、俺様の恋人にしてやろう」

などという告白というより宣戦布告のようなものをされたのだ。


思わず走って蹴ってしまった。

速度、タイミング、威力ともに最高の飛び膝蹴りで一撃KO。

おかげで周りの人たちが1m離れて接するようになった。

風評被害だ、絶対に許せない。

……まだ射程内だけど。


それがまあ、色々なイベントを経て見事にフラグ達成。

付き合うようになったのだから、人生というのは解らない。


常識にとらわれず、周囲の目を気にせず、自由に振舞うその姿は、裸の王様を思い起こさせる。

もっとも、あいつなら自分で織って、自分で着る位はするだろうけど。


そんな事を考えながら、時計を見る。

約束の時間にはまだ早い。

待つという時、時間はゆっくりと流れていると思う。

逆に、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

時間の流れは絶対ではなく、相対というのはアインシュタインの妄想ではないのだ。

ほら、まだ時計の針は進んでいない。


取り留めのない考えに、思わず笑ってしまう。

あいつに毒されて、私まで馬鹿になったみたいだ。


ふとした違和感。

時計を見る。

やはり針は動いていない。

最初に見たのと同じ時、分、秒でとまっている。


秒針は、止まってたら駄目だよね……。


頭を抱えながら、携帯の電源をいれて時間を確認。

メールが山ほど来ているが無視する。

留守番電話も確認しない。

携帯電話は首輪のように束縛されている気がして嫌いなのだ。


約束の時間は、1時間以上経過していた。


額に流れる汗は、けして暑いからだけではないだろう。

問題は、私は間に合っていたか、だ。

いや、そもそも仮に私が少しくらい遅れたとしても、待つのが礼儀、いや義務のはず。

つまりここにあの男が居ないというのは、全面的にあの男が悪いのであって、私に落ち度は無い。

よし、完璧な論理武装。


大丈夫、私は落ち着いている、冷静だ。

勿論、あいつが約束を忘れている可能性も考慮してある。

二本位折れば、二度と約束は忘れない、いい思い出になるだろう。


いざという時のために、ブーツには鉄板が仕込んである。

まさかこれが役に立つときがくるなんて、塞翁が馬って事かしら。

違う気もするけれど、些細な事ね。


なんだか楽しくなってきた。

気分も落ち着いたし、回りを見る余裕もできた。


天気は晴れ、風が気持ちの良い日だ。

子供達がが無邪気に遊びまわり、カップルがいちゃつく。井戸端会議で盛り上がるおばさんの群れ。

そんな平和で平凡な日常の一コマに、強烈な違和感が一点。


ハンディタイプのビデオカメラを回している、あいつの姿だ。

ビデオの指す先は、無論私。


「何をしているのかしら」

極めてへいぜんを装い、笑みを浮かべて尋ねる。

「やあ、ハニー。君の姿を映していたんだよ」

屈託の無い笑みで、平然と答えるあたり大物、というか唐変木だ。

たぶん、今鏡を見れば青筋がみえるわね。

「それはいつから?」

「無論、君が来る前から。正確に言えば約束の1時間前から撮影開始で、到着するまでは5分おきに静止画。到着してからは動画でとってある」

悪びれも無く、むしろ自慢するかのようだ。

「何度も時計を確認したり、考え込んだり、笑ったり、青くなったり、赤くなったり、実にいい顔がたくさん撮れた。惚れ直したぞ」

良い笑顔でサムズアップ。

私も笑顔で、その親指の間接を極める。

「くおおおお、お、折れる!」

「大丈夫よ、……まだ」

しばらく間接を極めて、心に余裕ができてきた。

「今から簡単な質問をするから、ハイかイエスで答えなさい」

「えっ、いいえは!?」

問答無用で関節にかかる力を増やす。

「わかった?」

「ハイ!」

素直さは人間の大切な美徳だとおもう。

「私は時間通りに来た、いいわね?」

「ハイ!」

「私はここで1時間以上待たされた」

「ハイ!」

「人を待たすのは良い事?」

「はっ……ハイ」

親指から手を離す。

これ以上続けると、すこし危ない。

ほっとする顔を横目に、今度は手首を極める。

「悪いことでしょ?」

「は、ハイ!」

「悪いことをした子にはお仕置きが必要だと思うの」

「ハイッ!!」

「痛いお仕置きと、気持ち良いお仕置き、どっちがいい?」

「痛いほうを選ぶと?」

「蹴る」

「……気持ちいいほうを選ぶと?」

「気持ちよくなるまで蹴る」

「それはどちらが?!」

「うふふふふ」

よくある恋人同士の少々過激なスキンシップ。

私とあいつはこんな調子だけど、悪くない関係だと思う。


でも周囲からはお似合いのカップルといわれるのは、妙に腹立たしいものがある。

もしかして私はあいつと同じように見られているのかしら……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の関係がわかりやすかったので、良かったです。 [一言] 番外編とかあればぜひ、読みたいですね。
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