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お題:唐変木、俺様、時計、へたれ

作者: シラキ
掲載日:2013/07/17

時々なんで私があんな男を選んだのか、自分でも不思議に思うことがある。

容姿は悪くない。

美形というには少々物足りないが、好みの部類だ。

金に不自由はしていないみたいだが、『我が家』には遠く及ばない。

頭は良い。

成績は常に上位、加えて雑学教養その他もろもろ勉強以外の知識も豊富。

だが、残念なことに馬鹿だ。

頭のいい馬鹿、その例に漏れず性格は悪い。

いや、悪いのではない。最悪といってもいい。


初めての出会いを思い出せば、今でも怒りに身が震える。

対面早々、名前も知らないのに公衆の面前で、

「おい、お前。気に入った、俺様の恋人にしてやろう」

などという告白というより宣戦布告のようなものをされたのだ。


思わず走って蹴ってしまった。

速度、タイミング、威力ともに最高の飛び膝蹴りで一撃KO。

おかげで周りの人たちが1m離れて接するようになった。

風評被害だ、絶対に許せない。

……まだ射程内だけど。


それがまあ、色々なイベントを経て見事にフラグ達成。

付き合うようになったのだから、人生というのは解らない。


常識にとらわれず、周囲の目を気にせず、自由に振舞うその姿は、裸の王様を思い起こさせる。

もっとも、あいつなら自分で織って、自分で着る位はするだろうけど。


そんな事を考えながら、時計を見る。

約束の時間にはまだ早い。

待つという時、時間はゆっくりと流れていると思う。

逆に、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

時間の流れは絶対ではなく、相対というのはアインシュタインの妄想ではないのだ。

ほら、まだ時計の針は進んでいない。


取り留めのない考えに、思わず笑ってしまう。

あいつに毒されて、私まで馬鹿になったみたいだ。


ふとした違和感。

時計を見る。

やはり針は動いていない。

最初に見たのと同じ時、分、秒でとまっている。


秒針は、止まってたら駄目だよね……。


頭を抱えながら、携帯の電源をいれて時間を確認。

メールが山ほど来ているが無視する。

留守番電話も確認しない。

携帯電話は首輪のように束縛されている気がして嫌いなのだ。


約束の時間は、1時間以上経過していた。


額に流れる汗は、けして暑いからだけではないだろう。

問題は、私は間に合っていたか、だ。

いや、そもそも仮に私が少しくらい遅れたとしても、待つのが礼儀、いや義務のはず。

つまりここにあの男が居ないというのは、全面的にあの男が悪いのであって、私に落ち度は無い。

よし、完璧な論理武装。


大丈夫、私は落ち着いている、冷静だ。

勿論、あいつが約束を忘れている可能性も考慮してある。

二本位折れば、二度と約束は忘れない、いい思い出になるだろう。


いざという時のために、ブーツには鉄板が仕込んである。

まさかこれが役に立つときがくるなんて、塞翁が馬って事かしら。

違う気もするけれど、些細な事ね。


なんだか楽しくなってきた。

気分も落ち着いたし、回りを見る余裕もできた。


天気は晴れ、風が気持ちの良い日だ。

子供達がが無邪気に遊びまわり、カップルがいちゃつく。井戸端会議で盛り上がるおばさんの群れ。

そんな平和で平凡な日常の一コマに、強烈な違和感が一点。


ハンディタイプのビデオカメラを回している、あいつの姿だ。

ビデオの指す先は、無論私。


「何をしているのかしら」

極めてへいぜんを装い、笑みを浮かべて尋ねる。

「やあ、ハニー。君の姿を映していたんだよ」

屈託の無い笑みで、平然と答えるあたり大物、というか唐変木だ。

たぶん、今鏡を見れば青筋がみえるわね。

「それはいつから?」

「無論、君が来る前から。正確に言えば約束の1時間前から撮影開始で、到着するまでは5分おきに静止画。到着してからは動画でとってある」

悪びれも無く、むしろ自慢するかのようだ。

「何度も時計を確認したり、考え込んだり、笑ったり、青くなったり、赤くなったり、実にいい顔がたくさん撮れた。惚れ直したぞ」

良い笑顔でサムズアップ。

私も笑顔で、その親指の間接を極める。

「くおおおお、お、折れる!」

「大丈夫よ、……まだ」

しばらく間接を極めて、心に余裕ができてきた。

「今から簡単な質問をするから、ハイかイエスで答えなさい」

「えっ、いいえは!?」

問答無用で関節にかかる力を増やす。

「わかった?」

「ハイ!」

素直さは人間の大切な美徳だとおもう。

「私は時間通りに来た、いいわね?」

「ハイ!」

「私はここで1時間以上待たされた」

「ハイ!」

「人を待たすのは良い事?」

「はっ……ハイ」

親指から手を離す。

これ以上続けると、すこし危ない。

ほっとする顔を横目に、今度は手首を極める。

「悪いことでしょ?」

「は、ハイ!」

「悪いことをした子にはお仕置きが必要だと思うの」

「ハイッ!!」

「痛いお仕置きと、気持ち良いお仕置き、どっちがいい?」

「痛いほうを選ぶと?」

「蹴る」

「……気持ちいいほうを選ぶと?」

「気持ちよくなるまで蹴る」

「それはどちらが?!」

「うふふふふ」

よくある恋人同士の少々過激なスキンシップ。

私とあいつはこんな調子だけど、悪くない関係だと思う。


でも周囲からはお似合いのカップルといわれるのは、妙に腹立たしいものがある。

もしかして私はあいつと同じように見られているのかしら……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の関係がわかりやすかったので、良かったです。 [一言] 番外編とかあればぜひ、読みたいですね。
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