二話目
「さて、フィールドに出ると言いましたが」
「が?」
「その前に装備を整えたいと思います」
「装備ですか?」
エリスにおいてステータスとは数字で表現されない。これもプレイヤーの行動傾向で自然に成長していく―――初期では関係ないけれど、中盤になるとそれも多少異なってくるのだが、それは割愛する。
話が逸れたが、数字で表現されないだけで、ステータスは存在する。そしてそれは装備、即ち武器や防具も例外ではない。
「【鑑定】スキルがあれば装備の能力も分かるらしいけど、基本曖昧にしか分からないんだ」
「それって詐欺とかおきませんか?」
「昔居たけど総叩きにあって居なくなった」
「うわぁ」
そんな事があってから販売事情は良心的だ。商売人としての利益追求はあっても暴利を貪るプレイヤーは居ない。
「NPC相手なら性能も説明されるから大丈夫だけどね。その代わり性能は低いし全体的に高い」
装備は流石に自費で買ってもらう。最初から最後まで面倒を見ていたら一人立ちなんて夢のまた夢だし、何より寄生はよくない。
「初期費用は確か……2000Lgだっけ」
「らぐ?」
「エリスでの通貨単位。Lgでラグ」
初心者用武器がたしか一律200Lg。売り値は半分の100Lgで、プレイヤー相手でも売り買いの際はこの半分という基準が使われている。
「まずはNPC相手の防具屋に行こう」
「何故ですか?」
「だってそれ、ダサいでしょ?」
「う……実は」
この初期設定防具。性能悪い見た目悪い耐久ボロいと大不評な装備である。確かどこぞで初期装備縛りを見たが『性能云々より見た目が辛い』と縛りプレイのプロに言わしめたほどのダサさ、とその凄まじさを表している。
「この服装ともおさらばです……!」
「嬉しそうだね」
「はいっ」
ニコニコ笑うアイラは楽しそうにくるくる回っている。道をゆく大半の男が彼女に見惚れていた―――あ、あの女連れ足踏まれた。
「ちゃんと前見ないと危ないよ」
「はい!」
ま、こんなのも悪くないかも。
●
初期費用、2000Lg。これはどのプレイヤーにも最初に渡される資金だ。この金額とは別に、アイテムもプレイヤーの選択したスキルごと支給されるが、お金と初期装備、そして少々の回復アイテムだけは皆一律で渡される。
そしてスキルごとの装備。これは種類が多いので例を挙げれば【剣】なら片手剣の初期装備『ショートソード』が、【槍】なら短槍の『ショートスピアが手に入る。
そして今の彼女の所持アイテムはこうだ。
アイラ 人間
装備
武器
なし
防具
頭:なし
胴:初心者用布服
腕:なし
足:初心者用布服
アクセサリ:なし
ショートソード
ショートスピア
レザーブーツ
祈りの聖像
包丁
裁縫キット
回復薬×10
【剣】がショートソード、【槍】がショートスピア。【走行】はレザーブーツに【祈祷】が祈りの聖像。【料理】と【裁縫】が包丁に裁縫キット。他のスキルはアイテムを貰えないタイプのスキルだろう。
つまり現時点で必要なのはダサい防具の代わりのみ。
なのだが。
「あ、これ可愛い……2500Lg」
初期費用で買える装備に大した物はないのである。
「それ、気に入ったの?」
「はい、でもお金足りなくて」
「んー、なら回復薬全部売っちゃおうか」
「え!?大丈夫なんですか!」
実際、初心者ならあまり大丈夫ではない。だが、
「普通ならダメなんだろうけど、俺が弱点とかレクチャーすれば最初の敵なら多分ノーダメージでいけるはず。うまくいけば一撃二撃でいけるよ」
「何だか、とても悪い事をしている気がしてきます……」
「他の初心者に比べたら恵まれてるよね。でもそれを申し訳なく思う事はないし、逆に頼りきりになるのもよくない。アイラ自身が成長しなくっちゃ」
「わかりました先生!」
笑顔で頷くアイラ。けれどたまに先生と呼ぶのはやめて欲しい。
という訳で。
回復薬×10売却。
2000Lg+50Lg×10=2500Lg
そこから防具『フェザーワンピース』を購入。その効果は『装備者の速度を微小に上昇させる』だ。
2500Lg-2500Lg=0Lg
そして外した初心者用布服を売却。
0Lg+100Lg=100Lg
「安いですね……」
「誰も買いたがらないから……こんな所をリアルにしなくていいのにね」
そしてアイテム袋の中に放置されていた装備品を全部つけて、現在のアイラがこちら。
アイラ 人間
装備
武器
ショートソード
防具
頭:なし
胴:フェザーワンピース
腕:なし
足1:―――
2:レザーブーツ
アクセサリ:なし
ショートスピア
レザーブーツ
祈りの聖像
包丁
裁縫キット
「どうですかオラトイラさん、似合ってますか?」
「うん、似合ってるよ。可愛い」
「可愛い……ありがとうございます!」
彼女は実際に可愛い。150中盤辺りの身長で、ワンピースを来てくるくる回る姿は小動物の様な印象を受ける。
そして恐らく、色を弄る考えすらなかったと思われるその髪と目の黒と肌の白のコントラストが、大和撫子チックな印象をつけている。
「そう言えばオラトイラさん」
「なんだい?あと俺の名前は長いからオラトとかでいいよ」
「ではオラトさんで。オラトさんは長い間エリスをしているんですよね?」
「うん。友人に発売初日からやらされてね」
「初日ですか!?―――ひょっとして、凄い強かったりします……?」
強いか弱いかと言われれば……
「多分先頭組の一員だね」
「ひゅい!?」
此処(始まりの城下)に来たのも攻略前線から少し離れた休暇みたいなつもりだった。
わざわざ少しレベルが初期よりは高い程度の防具に切り替えて言わばお忍びの感覚で来たのだ。良くも悪くもウチのギルドは有名になってしまったのもあるし。
「それで何が聞きたかったの?最初はこの事じゃないと思うんだけど」
「あ!そうでした。結局私、オラトさんの戦い方とか知らないな、と」
……確かに言った覚えがない。というより自分の戦い方は所謂『キワモノ』だ。初心者の参考には決してならない、むしろ絶対にしてはいけない類いの戦い方であるからして。あまり見せたくないのだけれど……
「とりあえずはどちらにしろ、計画通りにフィールドに行こうか」
「あぁ!待って下さい、教えて下さいよー!」
……ちょっとの間くらいは、マトモな先生役をさせて欲しいのである。