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一話目

本日二話目投稿。感想随時募集中です

「要するに、友人に誘われてエリスを始めたはいいけど。その友人が何らかの理由で接触不可、それで経験者っぽいと判断した俺に頼もうと考えたと」


「……はい」


「…………だからって土下座はないよ」


「……ごめんなさい」



 非戦闘エリア『始まりの城下』、そのとある食堂。大通りから多少離れた穴場で味もいいその食堂で、俺は土下座少女とテーブルに着き話し合いをしていた。



「実は自分、慌てると突拍子もない行動をしてしまう癖があって……それで『エリスをやれば咄嗟の判断も身に付く』と」


「それはまた難儀な」



 エキセントリックにも程がある癖だ。それでもあまり問題にならなかったらしいのは、無意識に迷惑を減らす行動を取っていたからだろう。


 今回だって暴走していた割には、わざわざ人目につかない裏路地まで自分を引っ張った訳だし。もし人前で土下座されたら、か弱い少女に道端で土下座をさせる鬼畜外道の所業をするゲス男が出来上がっていただろう。それに中々の美少女であるから尚更。



 因みに此処で豆知識。エリスにおいてアバターの改造はほぼ不可能だ。よって顔も体格も殆ど現実(リアル)のまま。変えられるのは精々が身長を少し伸ばすとか、腹を引っ込める。逆に胸のサイズを上げたり目を二重にする鼻を高くするなどプチ整形レベル。後、肌や髪、目などの色は自由だが所詮はその程度である。


 この設定は賛否両論かつ現実(リアル)に問題を持ち込みかねない一面もあるのだが、現在では概ね受け入れられている。というか周り全員がイケメン美女ばかりなんてつまらないと俺は思うのだ。



 そんな訳で、以外と目立つこの少女はしっかり?と他人に迷惑をかけないよう行動していたのである。



「あの……重ね重ね申し訳ありませんでした。ここの代金も支払ってもらってしまって……」


「いやいや、流石に始めたばっかりの初心者にお金を払わせるほど酷い人間ではないよ、俺」



 もし料理スキル取ってたら来なくてもいいんだけどねー、というと彼女は首をひねっていた。



「料理スキル、ですか?」


「あー……本当になんにも知らない初心者なんだ」




 正直な話、自分にはこの子に付き合う義理はない。自分も実際の所、前線攻略組の一人だし、ギルド内で高い位置に居る。所詮ゲームと言われてもそこにはちゃんと人間関係があり、それを粗雑にしてはいけないのだ。



 けれど、



「―――まぁ、乗り掛かった船、ってヤツだよね」


「はい?」


「よし。じゃあ君が一人前になるまで教師役を引き受けよう」


「ええっ!?」



 彼女はパタパタと両手を振って驚きを表している……確かにパニックになりやすいかもしれない。



「え、え、でも、いいんですか?」


「大丈夫だって。言ったじゃない、乗り掛かった船だって。そのまま放り出すのは忍びない―――それにこのままだと問題がおきそうだしね」



 最後の言葉は小声で彼女に聞こえない様に呟く。先に言った通り、彼女は整った顔立ちをしている。その上で全くの初心者となれば、よからぬ事を考える人間も現れかねない。



「……(自分であしらえるくらいまでは付き合ってもいいかな)」


「あ、あの!」


「うん?」


「お願いします!私、頑張りますから!」



 どうやら決心が固まったらしく、姿勢を正したと思うと頭を下げてくる。全く、ゲームが似合わない子も居たもんだ。



「うん、よろしく―――あぁ、そういえばなんて呼べばいいのかな?」


「あ、私は二階ど、じゃなくて『アイラ』です!」


「アイラね、わかった。俺は『オラトイラ』。よろしくね、アイラ」


「はい!先生!」




 ……どうやら俺は、ゲーム内で一人の生徒を持つ事になったようだ。











「それでは。まず『スキル』について説明する……前に。アイラは他にゲームってやった事ある?」


「ゲームですか?これが初めてです」


「マジですか」


「?はい。両親にエリスをやってみたいと言ったら『お母さん!?ようやくこの子が人並みに興味を持ったよ!』『あなた!今日はお赤飯ね!』……と」



 …………一体この子はどんな人生を歩んできたのだろうか非常に気になる。



「なら仕方ないか。スキルは、分かりやすく言うと『自分が何を出来るか』を数字にした物だね」


「何を、出来るか?ですか」


「その通り」



 例えば歩く事も走る事も自分達は出来ている。それは当然。そして剣を持っていればそれを振る事も出来るだろう。だがそれは振っている『だけ』だ。



「そこで重要なのがスキル。例えば剣スキルだね」



 例に上げた剣の素振り。その行動をスキルを装備してやれば、そこに攻撃力が発生する。更にスキルを鍛えていけば相手へのダメージも向上するし、必殺技みたいな技術、『スキルアーツ』も習得可能なのだ。


 また、生産系と呼ばれるスキル群は前述の物とは戦闘系と区別される。内容は武器作製だったり、アイテム製造であったり。はたまた趣味に走った料理や釣りなど様々だ。それにどれもちゃんと効果があったりアイテムが手に入ったりするから馬鹿に出来ない。




「はぁ……奥が深いんですね」


「そうだね。それにスキルが成長したら、今までの指向で別のスキルに変化する事もあるんだ。両手剣ばかり使っていたら剣スキルが両手剣スキルになったり」


「それは何が違うんですか?」


「単純に剣スキルを使って両手剣を振るより、ダメージが上がる。その代わり他の種類の剣は使えなくなるけどね―――というか今更だけどダメージとかの意味は分かるんだ」


「本当の基礎中の基礎は友人に教わりましたので」


「成る程」



 つまりは今自分が教えているような事はエリスにログインしてから教えようと考えてたのか。



 ……まさかこんな事態になるとはその友人も考えてなかっただろうなぁ。



「どうしました?」


「いや、ちょっと考え事を。それじゃ、早速スキルを習得してみようか。スキルは最高十個までだからじっくり選んでね。因みに生産系は一つか二つが相場かな。中には取らない人だって居るし」



 それから約十分。一覧から選んだ彼女が笑顔で見せたステータス画面に映る十のスキルを見て、俺は暫し絶句する事になる。




アイラ 人間ヒューマン



スキル

【剣】Lv.1

【槍】Lv.1

【腕力強化】Lv.1

【見切り】Lv.1

【器用】Lv.1

【積載】Lv.1

【走行】Lv.1

【祈祷】Lv.1

【料理】Lv.1

【裁縫】Lv.1





「どうですか?」


「……つかぬことを聞くけど、どんな方針で選んだ?」


「えっと、【剣】はオラトイラさんが基本みたい事言ってましたし、【槍】も同じで基本かなと。【腕力強化】は私あまり力がないので」


「……成る程」


「【見切り】は説明に攻撃の軌道が見えると書いてあったので便利ですし【器用】も便利そうです。【積載】も同じですね、アイテムを持てる量が増えるってよさそうですよね!」


「…………うん」


「【走行】は私実は走るのが苦手で……【祈祷】は学校でお祈りとかした事あります。【料理】と【裁縫】は得意だからです!」


「………………アイラ。正直色々おかしい」


「ええっ!?」



 アイラの顔を正面に捉え、真剣な顔で話を始める。



「とりあえず、テンプレって知ってる?」


「テンプレ、ですか?」


「うん、定番、って言ってもいいんだけど」



 そう言って、前衛戦闘タイプのテンプレスキル構成を見せる。



前衛・壁役



【剣】Lv.1

【盾】Lv.1

【鎧】Lv.1

【身体強化】Lv.1

【見切り】Lv.1

【猛勇】Lv.1

【自動回復】Lv.1

【魔法(癒)】Lv.1

【生産系】――

【生産系】――




「とりあえずこれが定番パターンって事を認識してね」


「は、はい」


「それでアイラのスキル構成なんだけど―――」



 まず【剣】と

【槍】。


「最初に武器スキルをとるのは間違ってない。【剣】は一番プレイヤーの習得数も多いし【槍】も代表例。ただどっちも取るのは普通居ない」


「何故ですか?」


「それは当然一つに絞るからだよ。だって剣を使ってたら【剣】スキルしか上がらないし、槍を武器にしてたら【槍】スキルしか上がらない。だから一つに絞るんだ」


「……失敗、ですね」


「うん。で、【腕力強化】と【見切り】は正解。どちらかと言えば一点集中の【腕力強化】より【身体強化】の方が応用は効くけど、別にそっちのスキルがいい人だって居るからね」



 正解と言われた事で顔が明るくなる。けれど残念ながらまた顔を曇らせなければならない台詞を言わねばならないのだ。



「【器用】もよく取るスキルだけど……使うのは生産オンリーで戦わない、所謂『生産職』が取るスキル。【積載】は確かにアイテムが持つ量が増えるし重たい物も持てるけど、実はあんまり変わらない罠。【走行】もおんなじ」


「…………」


「【祈祷】は回復魔法の強化と自分の能力強化だけど前者が基本。【料理】と【裁縫】は特に問題はないかな―――以上だけど、大丈夫?」


「ほ、本当に先生みたいですぅ……」



 ダメ出しのラッシュに過去のトラウマを抉られたらしい。テーブルに頭を預け、ぷるぷると震えている―――チワワみたいで可愛いかもしれない。



 俺は少々迷ったが、右手を伸ばして彼女の頭を撫でた。



「まぁ、不安にさせる様な事ばかり言っちゃったけど大丈夫だよ」


「…………?」


「実は俺も最初に似た事をやっちゃった、言わば先輩なんだ」





『おっ、決まったか。どんなのにしたんだ?』


『こんなゲームは初めてだからね、面白そうなのを選んだよ』


『どれどれ―――悪い事は言わん、即刻変えろ』


『うぇ!?』





「―――はは、本当に先輩だよ」


「あ、あの、目が死んだ魚の目みたいになってます……」



 何でもないと手を左右に振る。それでも心配そうに下から覗いているこの子はホントに良い子だと思う。



「あんまり皆が取らないスキル―――クズスキルなんて言われたりするんだけど―――って、意外と使い道があったりするんだ。俺なんて最初に取得した内の八つがそれで、結局全部今まで使ってるから」



 傍目には奇妙に見えても、オリジナリティとも考える事ができる。顔調整の話の際にも言ったが、全員同じ方がつまらない。自分達の様に色物際物が居る方が楽しいに決まっている。



「という訳で、まずはフィールドに出てみようか。それからどうするか考えよう、もし無理ならまた変えればいい」



 スキルは全スキルのLv.合計が五上がると一つ変更する事ができる。序盤なら楽だろう。おかしな構成にする前に止められなかった罪悪感は一応あるのだ。無理ならスキル総取っ替えする手伝いをする事になる。



「じゃ、行こうか」


「はいっ」





 そしてその日、俺は新たな お仲間キワモノの誕生を目の当たりにする事となる。





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