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第3話 喧嘩

 夏休みは終わってもまだまだ蒸し暑い九月一日。私は先に登校していた純子と話していた。今日から新学期だ。

「ねえ」

私達の会話を遮ったのは、いつの間にか来ていた理恵だった。

「あ、理恵。おはよー」

「おはよう、純子。おはよう・・・瑞希」

「・・・おはよ」

なんとなく気まずくて、目は合わさずに呟くように返した。そんな雰囲気を察したのか、純子は顔から笑みを消した。少しの沈黙のあと、理恵の方から口を開いた。

「何?あのメール。私のこと嫌いになったの?」

「・・・前から嫌いだったけど」

「なんで?」

「何でも」

「・・・どうすれば好きになってくれる?」

「無理」

「え?」

椅子から立ち上がると、理恵と目線が同じくらいの高さになった。胸の中に、黒い感情が渦巻いていた。私はいま酷いことを言っている。でもこうしなきゃ、いつまで付きまとわれるかわからないんだ。

「好きになれない。もう話しかけんな」

言いながら、少しだけど胸が痛くなるのがわかった。もう理恵の顔は見れなかった。私は足早に教室から出て行った。それからしばらく、口をきくことも、口をきく必要もなくなった。新学期のその日、三度目の席替えがあり、理恵とは離れたのだ。


「理恵と神田さん、喧嘩したんだって」

「えー?なんでー?」

「さあ・・・。もしかしたら、今までの神田さんの嫌がる態度も案外本気だったのかもね」


あまり関わりのないクラスメイト達は表向きは真剣に、内面では好奇心で私と理恵のことを噂した。友人達は仲直りさせたがっているのがなんとなく見てとれたが、具体的に何をすればいいのかわからないようだった。クラスのリーダーでもあり、理恵の友達でもある奴らはこう言った。

「理恵も神田さんなんかと仲良くすることないのに。あの人態度でかいし、生意気じゃん」



 次に理恵と話したのは十一月だった。先に話しかけたのは理恵。ある朝学校へ来て目が合うと、何事もなかったかのような笑顔で「おはよう」と言ってきた。驚いたが、一応「おはよう」と返しておいた。その日からまた、理恵はよく話しかけてくるようになった。今までのは何だったんだと思うくらい。でも、久しぶりに理恵と話した時、少しホッとした。最後に話してから二ヶ月しか経っていないのに大袈裟かもしれないけど、なんだか懐かしい感じがした。ただ以前と違うのは、前ほど感情表現が激しくなくなったこと。それでもやっぱり、三日に一度くらいだが「好き」と言って抱きついていた。

 それにしても。

「なんでまた理恵の奴、何のきっかけもなく話しかけてくるようになったんだろうな・・・」

麻衣、知世、純子と一緒に昼食を食べていた時、ポツリと呟いた。

「知りたい?」麻衣は弁当をかきこむ手を止めて言った。

「それはね、理恵が相談してきてそうアドバイスしてあげたからだよ」

「?」

「だーかーらー、あたし達が理恵にしばらく距離をおけってアドバイスしたの!んで、二ヶ月経ったからそろそろ話しかけてもいいんじゃない?みたいな」

「へぇ、そうなんだ・・・」

人に相談するほど悩んでたんだ。あの一通のメールで。やっぱりあんなメール送るんじゃなかった。私はパンをかじりながら少しの罪悪感を感じていた。

「でもね、理恵ちゃん、瑞希ちゃんと話せなくて寂しかったみたい。瑞希ちゃんは、理恵ちゃんと話さなかった間、寂しかった?」

知世は顔を覗き込むようにして尋ねてきた。

「え・・・うん・・・まあ・・・少しだけだけど」

「素直じゃないなぁ」

あはは、と純子が笑う。

「でも、瑞希ちゃんと理恵ちゃんが仲直りしてくれて、本当によかった」

そう言いながら知世は目を擦った。

「え、ちょ、何泣いてんの!」

純子はおどけた様子でつっこみ、麻衣は笑った。私も笑った。声に出すのは照れくさかったから、心の中でそっと呟いた。“ありがとう”と。

 しかし、そんな友人達の手助けも虚しく、数日後には再び私と理恵の関係は崩れていく。恐らく、一回目よりもずっと激しい音を立てて。

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