主人公交代
どこかの学び舎の、どこか穏やかなその場所で。
「――ずっと前からあなたのことが好きでした。俺と付き合ってください」
「……っ!」
そこにある大きな一本の木を頼りに、彼ら、彼女らは想いを伝えている。なんでも、この学び舎では、ある伝承が古くから語り継がれているらしい。
「……はい!こちらこそ、よろしくお願いします……!」
「ッ!」
ここで想いを告げた二人は必ず結ばれる、と。
いつからそう言われるようになったのかは分からない。最近のようにも思えるし、学び舎ができる前からあったような気もする。本当かどうかも分からない、どこにでもあるような言い伝えに、しかし実際に想いを確かめ合った二人はどこかぎこちなくも、けれども幸せそうにこの場所から離れていく。
そして。
その様子を近くで見ていたらしい女子は、何かを決心したようにどこかに去っていき――またすぐに戻ってきた。隣には、女子に手を引っ張られている男子を連れている。
「ちょ、ちょっとどこまで行くのさ!?話なら……というかもう少しで一限が――」
「……先輩。好きです」
「…………へっ?」
「ッ!だーかぁーらー!好きです!私は!!先輩が!!!」
「…………ありがとう?」
「ッ!もうっ!本当に先輩はうぶで鈍感でおめでたいですね……!女の子が告白してるんです!返事くらいしてください!!」
「……あーその……」
言葉を詰まらせている男子が、目線をあちこちに向けていると、どこかから心地のいい鐘の音が鳴った。
「あっ、チャイムが――」
「……今日は、帰しません。返事をくれるまでは、絶対」
女子は、男子の手を掴んだまま言葉を待っている。
「……その」
「はい」
「…………僕もその……す…………きです」
「……なんですか?聞こえませんでした。もう一回言ってください。出来れば大きな声で」
「…………すきです」
「ごめんなさい、聞き取れませんでした。何が好きなんですか?」
「だから!りこのことが好きです!……って、聞こえてるじゃん!」
「……ふふっ、いつものお返しです。でも私たち、両想いみたいですね?」
「んっ!それはその……」
「なら先輩も、早く言ってくれたらよかったのに。あーあ、優柔不断な先輩のせいで、私まで授業をさぼることになっちゃいました」
「それはりこが――」
「でもま、私たちは両想いみたいなので、私が先輩の分も一緒に怒られてあげます。良かったですね、優しい後輩が彼女で」
「……もう、調子いいんだから。ほら、行くよ!」
そうして、二人は来た時と同じように、しかしどこかお互いを寄り添わせるように手を繋ぎ、この場から離れていく。
それを傍らで見ていた、女子が一人。
「……なるほど」
朝日が昇りきり、最も日を感じる時間。
「へーこんな場所があったんだ。よく見つけたね百合香」
「……朝、保健室に行った際にたまたま見つけたんです。いい場所ですよね」
暖かな風に吹かれた葉が、その心地よさに身を任せている中、その下では二人の女子が箱を広げている。
「どうでしょうかりみちゃん。今日は、りみちゃんの好きなハンバーグを作ってみたのですが……」
「……百合香、これうますぎ」
「本当ですか!?よかったぁ……りみちゃんのお口に合うように、少し甘めのソースにしてみたんです」
「……んぐっ……本当に、私好みの味っていうか……でもこれって、百合香の好きな人のための練習じゃなかったっけ?好きな人は甘めが好きってこと?」
「……はい、その通りです。なのでまずは、りみちゃんのお口に合うような味付けの練習をしてみようと思いまして」
「百合香……!もうっ、百合香ってば本当に……!好き!」
「……!その……ふふっ……わ、私も……好き、です」
「そうだよね!百合香も好きなんだもんね!」
「!?あ、あの……その……」
「なら私も、その好きな人のためにちゃんと食レポするから!今んとこ全部うまいし違いもよく分かんないけど!」
「…………はい」
「でもこんないい場所なのに、麻衣たち部活なのは――」
「お、桃崎に花園じゃないか。こんなところで昼飯とは、風情があるな」
「あ、永井先生!そうなんですよ、百合香がこの場所を――」
「り、りみちゃん!そうなんですけど、そうじゃなくて、その――」
そうして、またどこからか心地のいい鐘の音が鳴り、騒がしくも温かいこの場所を二人は離れていく。
やがて日が落ち、辺りが暗闇に包まれ、静けさが広がろうとも、この場所で人影が途絶えることはない。
「どうですか松山先生。明日は休日ですしその……この後飲みでも」
「……?もしかして、それを聞くためにわざわざここまで?」
「ええ、なんでも、この場所には伝承があるそうで」
「伝承ですか?」
「ええ。伝承によれば『ここでの誘いは必ず成就する』だとか」
そう照れたように視線を逸らす男子に、女子がふと笑みをこぼす。
「……ふふっ、ロマンチストなんですね。私でよければ、ぜひ」
「……!ええ、勿論です!」
「よかったです。ああ、それと、永井先生」
「?」
「正しくは、『ここで想いを告げた二人は必ず結ばれる』ですので、覚えておいてください」
「……?…………ッ!はい、肝に銘じておきます!」
「ふふっ、じゃあ行きましょうか」
そうして、二人もまた、夜風に吹かれるようにその場を離れていく。
辺りに人がおらずとも、それはまるで木の葉のように、風に吹かれて広がっていくのだろう。
ほら、日が昇ればまた――
「――ずっと前からあなたのことが好きでした!」
彼ら、彼女らは、大きな一本の木の下で、想いを伝えているのだから。




