メキシコの果て、少年は故郷を知った
9月が近づいてきました。
メキシコでは、9月は国民の月として知られています。この時期、私たちは特に歴史、伝統、そして故郷であるこの土地との繋がりを深く思い起こします。
だからこそ、今年は少し趣向を変えてみたいと思いました。
日本には、メキシコに愛情と好奇心を抱いてくださる方がたくさんいらっしゃることを知っています。メキシコ料理や音楽、お祭りをご存知の方もいれば、風景、歴史、文化に魅力を感じている方もいます。
メキシコ人として、こうした関心は私にとって大きな喜びです。
そこで、日本への愛情と友情の証として、メキシコにまつわる物語をいくつかご紹介したいと思います。
メキシコは広大です。州、都市、そして小さなコミュニティ一つ一つに、それぞれ異なる物語があります。
今回は、皆さんが既にご存知のメキシコのイメージとは少し違う場所へご案内したいと思います。
メキシコ北西部の果てへ。
海に囲まれ、広大な砂漠が広がる半島へ。
バハ・カリフォルニアへ。
物語はメヒカリとその渓谷から始まります。この地域は農業と深く結びついた歴史を持ち、夏には想像を絶するほどの暑さになります。
そこから、バハ・カリフォルニアの様々な場所を巡ります。
壮大な旅を通してではなく。
もっとシンプルなものを通して。
手紙。
家族からの手紙。
遠い場所からの物語。
思い出。
そして、まだ自分の故郷を知らない子供の問いかけ。
この物語は、メキシコの伝統音楽や民謡に込められた、故郷への深い愛情にインスピレーションを得ています。ただし、登場人物や出来事はすべてフィクションです。
日本からお読みの皆様へ。
このささやかな旅を楽しんでいただければ幸いです。
そして、この物語を読み終える頃には、メキシコについて少しでも知っていただければと思います。
バハ・カリフォルニアへようこそ。
「暑い!」
少年の声が野原に響き渡った。
誰も答えない。
「本当に暑い!」
今度は、数メートル先で作業をしていた男がゆっくりと顔を上げた。
彼は帽子を脱いだ。
少年を見た。
それから空を見上げた。
空は真っ青だった。
雲一つない。
ほんの数分間太陽を遮る雲一つない。
「ああ」と男はついに答えた。「暑いな。」
少年は憤慨して両手を上げた。
「それだけかよ!?」
男は帽子をかぶり直した。
「どうしろっていうんだ?」
「さあ!太陽に消えろって言えよ!」
男は笑った。
メヒカリ渓谷は夏だった。
そして、そこでは夏は許可を求めなかった。
夏はやってきた。
それは大地に降り注いだ。
そして彼は、人間がどれほどの暑さに耐えられるかを毎日証明しようとしているかのようだった。
乾いた空気が顔を刺す。大地は焼けるように熱かった。太陽の下に放置された道具は、うっかり触ると火傷するほど熱くなった。
影さえも熱く感じられた。
十歳にも満たない少年は、額の汗を拭った。
目の前には綿畑が広がっていた。
緑。
白。
茶色。
そして…
砂漠。
地平線は果てしなく続いていた。
「どうしてこんなところに住むことにしたんだろう?」と彼は尋ねた。
男は作業を止めた。
「何だって?」
「これを見て!」
少年は周囲のあらゆるものを指差した。
「土と、塵と、熱がある!」
「綿もある。」
「熱のある綿!」
男は笑った。
「水だ。」
「お湯!」
「家族。」
少年は口を開いた。
数秒間考えた。
「暖房のある家族。」
男はもう笑いをこらえきれなかった。
彼の笑い声が植物の間をこだました。
「わかった、わかった。君の勝ちだ。」
少年は満足そうに微笑んだ。
それから彼は顔を上げた。
遠くに山が見えた。
孤立した。
力強い。
少年は物心ついた時からその山を知っていた。
いつもそこにあった。
朝も。
午後も。
太陽の下でも。
風の強い日も。
まるで何も言わずに谷を見守っているようだった。
「あの山は?」少年は尋ねた。
「どの山?」
「あれだ。」
男は指差した方向を見た。
「番人。」
「名前を知っている。」
「それで、何を聞きたいんだ?」
「どうしてそう呼ばれるの?」
男は道具に手を置いた。
「番人って知ってるか?」
少年は首を横に振った。
「見張っている人。」
少年は山の方を振り返った。
彼の目は少し見開かれた。
「僕たちを見張ってるの?」
「そうかもしれない。」
「いつから?」
男は微笑んだ。
「君が生まれるずっと前から。」
「君は?」
「僕も。」
「僕のお父さんは?」
「僕も。」
少年は感心した様子だった。
「じゃあ、お父さんはすごく年をとっているんだね。」
「すごくね。」
少年は手を上げて山に向かって手を振った。
「おはよう!」
男は彼を見た。
「何をしているんだ?」
「礼儀正しくしているだけだよ。」
「ああ。」
男も手を挙げた。
「おはよう、おじいさん。」
そして二人は作業を続けた。
正午になると、作業を中断せざるを得なかった。
暑さは耐え難かった。
二人は小さな日陰に身を寄せた。
男は水のボトルを開けた。
彼は水を飲んだ。
少年はすぐに両手を差し出した。
「ちょうだい。」
「何て言うんだ?」
「お願い。」
男はボトルを少年に渡した。
少年は必死に水を飲んだ。
「ゆっくり飲みなさい。」
少年は聞いていなかった。
飲み終えると、少年は長い溜息をついた。
「涼しい場所に行ってみたい。」
「遠くまで行く必要はない。」
「どこへ?」
男が答えようとした時、声が聞こえた。
「郵便だ!」
誰かが近づいてくる。
男は立ち上がった。数分後、男は封筒を持って戻ってきた。
少年はそれを不思議そうに見つめた。
「何?」
「手紙だよ。」
「それは知ってるよ。」
「じゃあ、どうして聞くの?」
「誰から?」
男は差出人の住所を見た。
彼は微笑んだ。
「家族だよ。」
「どこから?」
「ティファナだ。」
少年は飲むのをやめた。
「ティファナ?」
「ティファナだ。」
「どこにあるの?」
男は驚いて少年を見た。
「知らないのか?」
少年は首を横に振った。
男は西を指さした。
「あっちだ。」
少年はそちらを見た。
見えるのは畑だけだった。
「何も見えないよ。」
「遠いからだよ。」
「もっと強く指し示して。」
男は黙っていた。
「そんな風にはいかないよ。」
「本当に?」
「ほぼ間違いない。」
彼は手紙を開いた。
少年が近づいてきた。
男は読み始めた。
手紙には、巨大な都市について書かれていた。
活気あふれる都市。
通り。
商店。
世界中から人々が集まってくる。
そして国境。
少年は口を挟んだ。
「何の国境?」
「メキシコとアメリカ合衆国を隔てる国境だよ。」
少年の目は大きく見開かれた。
「ティファナはアメリカ合衆国のすぐ隣にあるの?」
「そうだ。」
「じゃあ、向こうの国が見えるの?」
「場所によってはね。」
少年は黙り込んだ。
すべてが信じがたいことだった。
その日まで、バハ・カリフォルニアはただ…
ここ。
メヒカリ。
谷。
畑。
暑さ。
そしてエル・センティネラ。
しかし今、彼は同じ土地に、隣国と繋がった巨大な都市があることを知った。
「彼らも僕たちと同じなの?」
「誰のこと?」
「ティファナの人たちだよ。」
「どういう意味で?」
少年は野原を指差した。
「カチャニージャス?」
男は微笑んだ。
「厳密には違う。その言葉は特にメヒカリの人たちを指すんだ。」
「じゃあ、僕たちは同じじゃないんだね。」
「そうだね。」
男は手紙を丁寧に折りたたんだ。
でも、私たちは同じ土地を共有している。
少年はまだ完全には理解していなかった。
まだ。
数日後、また手紙が届いた。
少年は駆け寄って受け取った。
「まただ!」
「どこから?」
少年は読もうとした。
「テ…カ…」
「テカテ。」
「テカテ!」
少年は男の隣に座った。
「読んで。」
「お願いもしないのか?」
「お願い、読んで!」
男は封筒を開けた。
すると、別のバハ・カリフォルニアが現れた。
山々。
別の集落。
道。
異なる暮らしをする家族。
少年は興味津々で耳を傾けた。
「ここもアメリカ合衆国に近いの?」
「そうだ。」
「ここもバハ・カリフォルニアなの?」
「そうだ。」
「暑いの?」
「暑いよ。でもメヒカリは暑いことで有名だからね。」
少年は誇らしげに顎を上げた。
「じゃあ、僕たちの勝ちだね。」
「競争じゃないと思うけど。」
「僕たちの勝ちだ。」
男は反論しないことにした。
夏は続いた。
8月がやってきた。
そして9月が近づいてきた。
そよ風が吹くと、綿の葉が優しく揺れた。
そして3通目の手紙が届いた。
今度は少年は準備万端だった。
「どこから?」
男は封筒を少年に手渡した。
「読んでみて。」
少年はゆっくりと読み始めた。
「イン…セ…ナ…ダ。」
「入り江。」
「遠いの?」
「うん。」
「砂漠?」
「乾燥した場所もあるけど、君がもっと面白いと思う場所があるよ。」
「何?」
「海。」
少年はまばたきをした。
「海?」
「大洋。」
少年は微動だにしなかった。
海については聞いたことがあった。
しかし、見たことは一度もなかった。
砂漠と野原に囲まれた子供にとって、そんな広大な水を想像するのは難しかった。
「どれくらいの水?」
男は地平線に向かって手を差し出した。
「見渡す限り水が広がっているところを想像してみて。」
少年は野原を見上げた。
「あそこまで?」
「もっと。」
「エル・センティネラまで?」
「もっと。」
少年は口を開いた。
「もっと?」
「ずっともっと。」
「すごい量の水だね。」
「うん。」
少年は考えた。
すごい。
多すぎる。
ついに、彼は解決策を見つけた。
「持って行こう。」
「何を?」
「水だよ。」
「海の?」
「そうだ。」
彼は地面を指差した。
「あちらには水が多すぎるし、こっちは暑すぎるんだ。」
男は笑い始めた。
「分け合えばいいじゃないか。」
「ちょっと問題があるんだ。」
「何?」
「塩水なんだ。」
少年の顔色が一変した。
「全部?」
「全部だ。」
「もったいない。」
男は再び笑った。
その日の午後、彼は手紙を読んだ。
そして少年は、海を見たこともないのに、海というものを知った。
彼は船を想像した。
波を。
水面を飛ぶ鳥を。
海の音を。
新鮮な空気を。
靴が太陽に焼かれるような暑さを感じるこの場所が、同じ州にあるとは信じがたかった。
「見てみたい。」
「いつか。」
「連れて行ってくれる?」
「いつか。」
少年は微笑んだ。
彼の心の中には、三つの場所が浮かんでいた。
ティファナ。
テカテ。
エンセナダ。
しかし、話はそこで終わらなかった。
男は他の場所についても話し始めた。
バハ・カリフォルニア半島は南へ続いていると説明した。
太平洋に面した海岸線と、カリフォルニア湾に面した土地があることを。
山脈があることを。
谷があることを。
砂漠があることを。
町があることを。
漁村があることを。
何マイルも何もないように見える風景を横切る道があることを。
少年は耳を傾けた。
それぞれの話が、彼が抱いていた故郷のイメージを少しずつ打ち砕いていった。
そのイメージが間違っていたからではない。
ただ、あまりにも狭すぎたからだ。
ある日、少年は尋ねた。
「バハ・カリフォルニアは全部砂漠じゃないの?」
「そうだ。」
「それとも全部暑いの?」
「違う。」
「それとも全部綿畑?」
「違う。」
少年は辺りを見回した。
「騙された。」
「誰が?」
「みんなだ。」
男は笑った。
「誰も君を騙したわけじゃない。君はまだ自分の土地を知らないだけだ。」
その言葉が少年の心に深く刻まれた。
「君はまだ自分の土地を知らない。」
その日の午後、太陽は地平線の向こうに沈み始めた。
やがて、暑さは徐々に和らいでいった。
空は黄色とオレンジ色に染まった。
少年と男は仕事を終え、休息をとった。
彼らの前には「番人」が立っていた。
少年はもはやただの山とは見ていなかった。
今やそれは真の守護者のように見えた。
谷を見守る老番人。
「質問がある。」
「もう一つ。」
「大切な話だ。」
「では、どうぞ。」
少年は膝を抱え込んだ。
「どうしてこの場所がそんなに好きなの?」
男は笑顔を消した。
質問が気に障ったからではない。
答えを考える必要があったからだ。
少年は続けた。
「ものすごく暑い。」
「そうだね。」
「埃っぽい。」
「そうだね。」
「ここで働くのは大変だ。」
「そうだね。」
「じゃあ…」
少年は彼を見つめた。
「どうして?」
男は土をひと握り取った。
指で土を挟んだ。
「土地は完璧でなくても、家になることができるからだ。」
少年は黙った。
「この土地は、私たちの前に多くの人々によって耕されてきた。やって来て、道を切り開き、畑を耕し、家を建て、ここで家族を育てた人々がいた。」
彼は谷の方を見た。
「彼らは砂漠と共に生きる術を身につけたんだ。」
それから彼は遠くを指さした。
「でも、バハ・カリフォルニアはここで終わるわけじゃない。」
少年は彼の指を目で追った。
「ティファナから手紙をくれる家族がいるんだ。」
彼は指を少し動かした。
「テカテに住んでいる家族だよ。」
それから彼女は想像上の地平線を指さした。
川。
「エンセナダから海が見える川だよ。」
少年は手紙のことを思い出した。
「みんなそれぞれ違う生き方をしている。」
「その通りだ。」
「じゃあ、共通点は何だろう?」
男は微笑んだ。
「それは自分で考えてみるしかない。」
少年は眉をひそめた。
「いつもそうするね。」
「何が?」
「答えたくない時は、『自分で考えろ』って言うんだ。」
「大人の手口だよ。」
「悪い手口だ。」
二人は笑った。
そして、静寂が戻った。
少年はエル・センティネラを見つめた。
彼は田舎のことを考えた。
メヒカリのことを考えた。
彼が散々悪態をついた暑さのことを考えた。
ティファナとその国境のことを考えた。
テカテ周辺の山々のことを考えた。
エンセナダの海のことを考えた。彼がまだ見たことのない場所について。
「いつか行きたいんだ。」
「どこへ?」
「どこへでも。」
男は眉を上げた。
「ずいぶん長い旅になるだろうな。」
「構わない。」
「着いたら何をするつもりだ?」
少年は考えた。
「見る。」
「他には何も?」
「聞く。」
男は微笑んだ。
「それが大切だ。」
「それから戻ってくる。」
「どうして?」
少年は男の傍らに置かれた手紙を指さした。
「僕が見たものを伝えるため。」
男は少年を見つめた。
そして少年の頭に手を置いた。
「いいだろう。」
少年は微笑んだ。
「そして僕が年をとったら…」
「それはまだ先の話だ。」
「私が年を取ったら」と彼は言い張った。「もしバハ・カリフォルニアを知らない少年をまた見つけたら…」
男は待った。
「教えてやるよ」
風がゆっくりと野原を吹き抜けた。
植物が揺れた。
遠くで、番人は見守り続けていた。
少年は顔を上げた。
彼はもう、自分の世界があの山の向こうで終わるとは思っていなかった。
今、彼はそこで世界が始まったばかりだと知っていた。
まだ訪れたことのない街がある。
まだ触れたことのない海がある。
存在すら知らない道がある。
言葉も生き方も、景色も全く違う人々がいる。
しかし、彼らを結びつけるものがあった。
土地。
歴史。
そして、不完全で、困難で、暑く、寒く、人けがなく、遠い場所を見ても…
それでもなおこう言う、不思議な人間の能力。
ここは私の故郷だ。
少年は立ち上がった。
「さあ、行こう。」
「もう暑くないの?」
少年は大きな帽子をかぶった。
「うん。」
「すごく?」
「すごく。」
男は微笑んだ。
「じゃあ、明日また来よう。」
少年はぞっとした。
「明日も?!」
男の笑い声が再び野原に響き渡った。
そして二人が歩き去ると、太陽はゆっくりと地平線の向こうに沈んでいった。
そこにエル・センティネラが立っていた。
静かに。
再びメヒカリ渓谷を見守っていた。
何世代にもわたってそうしてきたように。
これからもずっとそうあり続けるだろう。
そして、その朝、綿畑と砂漠と耐え難い暑さしか知らなかった少年は…
いつかもっと多くの発見があるだろうと知りながら、家路についた。
彼はついに、自分の土地が自分の目で見ていたよりもはるかに広いことに気づいたのだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回は、メキシコの片隅を皆さんと共有したいと思い、シンプルな物語を通して、バハ・カリフォルニアの風景、人々、そして土地への愛を少しでもお伝えできればと思いました。
少年が、自分の家が想像以上に広大であることを徐々に知っていく過程を楽しんでいただけたなら幸いです。
さて、皆さんのご意見をお聞かせください。
この物語はいかがでしたか?
気に入った場面や、メキシコについて特に印象に残ったこと、あるいは読んで感じたことなど、何でも構いませんので、ぜひコメントをお寄せください。
物語を楽しんでいただけたなら、評価をいただけると大変嬉しいです。皆さんのコメントや評価は、メキシコの様々な場所や側面を描いたこのような物語を今後も読んでみたいかどうかを知る上で、大変参考になります。
また、メキシコについて何か気になることや、今後の物語で取り上げてほしいテーマがあれば、ぜひ教えてください。
私の国について少しでも知っていただくために時間を割いていただき、改めて感謝申し上げます。
これらのささやかな物語が、たとえわずかでも、両国間の絆を深める一助となれば幸いです。
メキシコから日本の読者の皆様へ、愛と温かいご挨拶をお送りいたします。




