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ラストバレット ~下層区の死神~  作者: りのぺろ
第一章:殺意と決意

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第6話 特訓

「次はサバイバルについてだよ」


彼女は右手をすっと前に差し出す。その瞬間、手の平の周囲に光の粒子が集束し、一丁の古風なリボルバーへと形を変えた。


「いいかい。サバイバルってのは、引き金を引く前から始まってるんだよ。銃を出しっぱなしで走るバカはいない。なぜかわかるかい?」


「「え? そうなの?」」


「具現化している間は足が遅くなるだろう? そして何より『私はここから撃ちますよ』と周囲に自分の射程をバラしているようなもんだからね」


おばあちゃんは、双子を鋭い目で見据えた。


「システムは銃を具現化している者に、二つの『重枷ペナルティ』を課す。一つは、物理的な負荷――重量・デバフだ。どれほど軽量な銃であっても、具現化している間は肉体にデバフがかかり、移動速度が著しく低下する。もう一つは、エネルギー(精神力)の消耗。具現化を維持し続けると、システム上の集中力や体力がじわじわと削られちまう。そんな状態で走り回れば、いざという時に全力疾走も回避もできやしない。だから、プロは移動中、絶対に銃を出さない。敵を捉えた一瞬でイメージを物質化させ、撃ち抜いて、即座に消す。それをまずは特訓してもらうよ? イメージの『タイムラグ』をコンマ秒まで削る必要があるからねえ」


おばあちゃんは、具現化していたリボルバーを光の塵へと戻し、今度は別の長い銃身を持つ銃をイメージした。


「それに、具現化した銃の形状から読み取れる情報は山ほどある。銃の『銃身バレルの長さ』や『銃口の大きさ』を見れば、相手の距離感や威力がすべて筒抜けになるのさ。例えば、銃身が異様に長いスナイパーライフル。これは当然、遠距離からの狙い撃ちが基本だ。だが、もし移動中や近距離でこれを出している奴がいたら、そいつは『まだ逃げ切れていない、焦っている狙撃手』だと判別できる。距離を詰めて、具現化の隙を与えずに仕留めればいい。逆に、アゲハ、お前のピストルはどうだい?」


「……近距離、大ダメージ型」


アゲハが自分の手元を見つめながら答えた。


「そう。一撃の威力は高いが、装弾数が少なく、一発外した時のリスクが大きい。慎重に狙いを定めなきゃ、次の具現化までのタイムラグで自分が殺される。お前の『慎重さ』には合っている銃とも言える」


おばあちゃんは次にモミジに向き直った。


「モミジ、お前の二丁リボルバーは手数重視だ。一発の威力は低いが、連射で相手を牽制できる。だがね、二丁同時に具現化するってことは、それだけ肉体にかかる反動キックバックも、具現化に必要な集中力も二倍になるんだ。今のひ弱な手首のままじゃ、弾は一発も標的に当たらないよ」


おばあちゃんの言葉に、双子は自分の手首を見つめた。昨日のサバイバルで、銃の反動に負けて照準が大きくブレた感触が、ありありと蘇る。


「今日から、お前たちのそのひ弱な体と、鈍いイメージ力を徹底的に鍛え直す。私の特訓は、ちょっとばかり厳しいよ?」


「「はい!」」


双子の力強い返事とともに、血の滲むような特訓の日々が始まった。


「はい、遅い! アゲハ、イメージがブレてる! スライドのバネの動きまで完全に脳裏に描きなさい!」


「モミジ! 銃の反動に遊ばれるんじゃない! 脇を締め、つま先から地面に衝撃を逃がすんだよ!」


おばあちゃんの指導は、言葉通り苛烈を極めた。具現化のイメージがわずかでも遅れれば、おばあちゃんが手にした竹の棒が、容赦なく双子の手足を叩いた。

アゲハは、セミオートマチック・ピストルの細部――弾丸が銃身を通る摩擦までを完璧にイメージし、具現化のタイムラグを極限まで削る訓練を繰り返した。

モミジは、一発撃つごとに全身の体幹を使って反動をいなす「体捌き」を、泥まみれになりながら体に叩き込んでいった。

しかし、太陽が沈み、厳しい特訓が終わると、おばあちゃんは優しいいつもの姿に戻るのだった。


「ほら、お疲れ様。今日もよく頑張ったね」


煤けた掘っ立て小屋の中で、おばあちゃんが差し出してくれるのは、温かい、いつもの「登録解除された煮物や野菜」だった。その甘みが、疲れ果てた双子の体と心を、じんわりと温めていく。


「おばあちゃん、ありがとう……」


モミジがおばあちゃんの膝の上で眠たそうに目を細める。おばあちゃんは何も言わず、優しい手つきで双子の栗色の髪を、交互に撫で続けた。


そうして、掘っ立て小屋の隙間風に吹かれながら、双子の新しい生活が形作られていった。

昼は訓練エリア07での過酷な戦闘訓練。そして夕方からは、おばあちゃんの畑仕事を手伝うのが二人の日課となった。


『植物急成長スキル』で高速に実る作物の土壌に、双子は毎日、強烈な臭いの有機肥料を手作業で混ぜ込んでいく。爪の間が黒く汚れ、泥まみれになっても、アゲハもモミジも、もう嫌な顔一つしなかった。むしろ、土の匂いと泥の冷たさが、過酷なシミュレーター空間で擦り切れた精神を現実へと引き留めてくれる、心地よい錨のようになっていた。


収穫の時期になると、双子はおばあちゃんに頼まれて、泥のついた大根や小松菜をカゴに詰め、近所の下層区の住人たちへ配って回った。

この世界の法律システムは「生体IDのない現物の譲渡」をグレーゾーンとして見逃している。その隙間で、下層区の貧しい人々は、お互いの温もりを融通し合って生きていた。


「おや、アゲハちゃんにモミジちゃんかい。いつもおばあちゃんの野菜を届けてくれて、ありがとうねぇ。助かってるよ」


そう言って迎えてくれるのは、錆びたブリキの家に住む、足の不自由なおじいさんだった。昔はこのおじいさんもサバイバルで中堅程度の腕前だったらしい。おばあさんとはよく喧嘩をしていたそうだ。そんなおじいさんはお返しにと、システム登録が抹消された古い毛布や、おじいさんが手作業で繕ってくれた靴下を、はにかみながら手渡してくれる。


「これ、おばあちゃんの野菜のお礼。泥がついてるから大丈夫だよ」


近所の小さな子供たちが、道端で拾った綺麗なガラスの破片や、どこかから融通してきた古いネジを、お礼代わりに双子の小さな手の平に乗せてくる。

システムに管理され、冷酷な数値だけで弾き出されるこの街の片隅で、泥にまみれた野菜を通じて、確かに人と人が繋がっていた。お金は一ラムも増えなかったし、生活は相変わらずカツカツで、おばあちゃんの煮物と配給のわずかな水で飢えをしのぐ毎日だったけれど。


それでも、近所の人々と笑い合い、おばあちゃんに「今日もよく手伝ってくれたねえ」と頭を撫でられるその時間は、両親を失った双子の凍てついた心を静かに、そして確かに救っていた。どうやらあの時「言いふらすな」と言っていたのはおじいちゃん、おばあちゃんがこの世界で暮らす上での【秘密の一つ】だったようだ。


そうしているうちに、気がつけば季節はめぐり半年が経過していた。泥にまみれた、おばあちゃんの美味しい野菜を食べ、下層区の人々の温もりに触れながら――双子の体つきは、いつしか引き締まり、無駄のない野生的なしなやかさを備えるようになっていた。

かつてのひ弱だった双子の体つきは、引き締まり、無駄のない野生的なしなやかさを備えるようになっていた。

何より、その瞳からは「怯え」が完全に消え去り、獲物を冷徹に見定めるサバイバーの鋭さが宿っていた。


「アゲハ、モミジ。私がお前たちに教えられることは、もう何もないよ」


ある朝、おばあちゃんはそう言って、双子に汚れの目立たないダークグレーのタクティカルウェアを手渡した。


「自分の『銃』を信じるんだ。お前たちの体は、もうあの日の弱者じゃない」


「うん。……おばあちゃん、行ってくるね」


アゲハが、自分の肩まで伸びた髪をきゅっと一つに結びながら言った。モミジもまた、自分の栗色のショートヘアを軽く払い、不敵な笑みを浮かべる。


「今度こそ、勝ち残ってくるよ!」


二人は、半年ぶりにレギュラーサバイバルのエントリー端末の前に立った。

アゲモミジ……がんば|д゜)アゲモミジ,ウマイヨネ……ウマッウマッ……

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