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ラストバレット ~下層区の死神~  作者: りのぺろ
第一章:殺意と決意

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3/5

第3話 賭け(後半)

――プレミアムサバイバル、当日。100名のサバイバーが、広大な「バトルエリア24」の廃ビル街に転送された。制限時間は5時間。


アゲハとモミジは、おばあちゃんのアパートの古いテレビの前にかじりつき、ノイズ混じりの実況中継を食い入るように見守っていた。


一般に公開される中継映像には、プレイヤーたちの生々しい戦闘シーンは映らない。映し出されるのは、戦場全体を俯瞰する無機質な電子マップと、生存者数のカウンター、そして光点として表示されるサバイバーたちのシステム登録用のイニシャルやIDナンバー、それから位置情報だけだった。

その無数の光点の中から、双子は両親のIDナンバーである『D48-09544』と『D48-05466』を必死に探し出し、無事を祈るように見つめていた。


アゲハは、おばあちゃんの部屋にあった古びたメモ帳と鉛筆を引っ張り出すと、両親のIDナンバーを小さく書き写した。そして、そのすぐ隣に固まっている、同じチームメンバーである残り二人のIDナンバー『L22-08911』と『K15-00342』も、念のためにとその下に書き留めていく。


「アゲハ、何してるの?」


モミジの問いかけに、アゲハは鉛筆を動かしながら答えた。


「お父さんたちが、どんな人たちと戦っているのか、記録しておこうと思って。お守りみたいなものよ」


アゲハの慎重な、悪く言えば臆病な性格がそうさせたに過ぎなかった。だが、手垢で汚れたメモ帳に刻まれたその無機質な文字列が、後にどのような意味を持つことになるのか、この時のアゲハは知る由もなかった。


「お父さんたち、大丈夫かな……」


モミジがアゲハの服の裾をぎゅっと握りしめる。


「大丈夫よ。外で食事をしてる時に出会ったあの人、ラグランドルがついているって言ってたから」


アゲハは妹を安心させるように言いながらも、胸の奥の不吉なざわめきを抑えきれずにいた。中継が始まってから1時間、2時間と経過するごとに、安全地帯を示す円が容赦なく収縮していく。

マップ上の光点が、一つ、また一つと消えていく。それは、電子データ化された『命』がリアルタイムで消滅していることを意味していた。

両親の所属する「チーム・ラグランドル」の4つの光点は、マップの端にある、複雑に入り組んだビルの地下室からほとんど動いていなかった。戦うのではなく、嵐が過ぎ去るのを待つ作戦。敵チーム同士が潰し合い、疲弊した獲物が網にかかるのを待つラグランドルの「芋り」の戦術は、中盤までは完璧に機能しているように見えた。

そして、運命のラスト1時間。

安全地帯の収縮は止まることなく、常に少しずつ、範囲を狭め始める。逃げ場を失ったサバイバーたちが狭いエリア内で次々と衝突し、画面上のカウンターが激しく削れていく。

残り時間、5分。

静まり返ったアパートの部屋に、テレビのスピーカーから運営の非情なシステム音声が響き渡った。


『通達。残り生存者数、12名。制限時間まで残り5分』


アゲハの呼吸が、ぴたりと止まった。


「12名……?」


ルールは残酷だ。100人中、生き残れるのは10人だけ。

もし制限時間である5時間が経過した時点で、生存者が11人以上いた場合、システムは「全員を間引き(死亡)」とする。つまり、あと5分の間に、誰か2人が死ななければ、12名全員が強制的に「不適合者」としてシステムに処理されるのだ。

画面上の「チーム・ラグランドル」の光点は、まだ4つ、寄り添うように灯っている。

ラグランドル、その相棒、そして双子の両親。

彼らが潜む地下室のすぐ近く――上のフロアには、確かに別の敵チームの光点がひしめき合っていた。ラグランドルが後日「敵に襲撃された」と言い訳できたのは、中継マップ上にもその敵の存在が映っていたからだった。

だが、そこへ突撃して撃ち合いを始めれば、自分たちが返り討ちに遭って死ぬリスクがある。

何より、相手も「自分が生き残るために、誰かを殺さなければ全員死ぬ」という極限の狂気に駆られているはずだった。

残り時間は、もう4分を切ろうとしていた。動けば死ぬ。だが、動かなければ全員が死ぬ。画面の向こう、沈黙の地下室で、何が起きたのか。

当時のアゲハたちには、その光景を見ることはできなかった。ただ、マップ上の光点が、一瞬にして変化したことだけが分かった。

上の階の敵の光点が地下室へ移動した様子は、マップ上には見えなかった。

にもかかわらず――。


――ポン、ポン。


テレビから、軽いシステム効果音が流れた。

それは、サバイバーのデス(死亡)を知らせる無慈悲な音だった。

同時に、寄り添い合っていた4つの光点のうち、両親の二つのID、そしてその隣にあったもう一つのIDを示す、合計三つの光点が一瞬にしてグレーアウトし、消滅した。

マップ上に残されたのは、ラグランドルを示すただ一つの光点だけだった。


「え……?」


モミジの喉から、空気の抜けたような掠れた声が漏れた。


「お父さん……? お母さん……?」


直後、カウンターは「9名」を示した。それと同時に、画面全体にきらびやかなグラフィックが踊る。


『サバイバル終了。生存者9名。おめでとうございます。生存者には報酬が支払われます』


軽快なファンファーレが鳴り響き、中継は強制的に終了した。

テレビ画面は砂嵐になり、不気味なノイズだけが静まり返った部屋に満ちる。

アゲハは、呆然と立ち尽くしていた。指先から血の気が引き、激しい震えが全身に伝わっていく。

隣では、モミジが「嘘、嘘だよね……! なんで? 近くには光点はなかったのに!」と、おばあちゃんにしがみつきながら激しく泣き崩れていた。おばあちゃんは何も言わず、ただ二人をきつく抱きしめ、静かに涙を流していた。


数日後。

街に戻ってきたラグランドルは、莫大な資金を手にした影響で、以前とは見違えるような、仕立ての良い高級な衣服に身を包んでいた。その佇まいは、数日前まで貧民街の酒場に入り浸っていた男のそれではない。

双子がおばあちゃんに連れられ、彼のアパートへ押し寄せ、両親の行方を尋ねたとき。

ラグランドルは、酷く冷淡な、それでいてどこか芝居がかった同情の表情を浮かべて、こう言った。


「気の毒にな。お前たちの両親は、最後まで立派に戦ったよ。だが、残り5分で『12名生存』のアナウンスが流れた時、焦った敵チームが地下室に突っ込んできてな……。俺たちが応戦したんだが、一歩及ばなかった。相棒も、残念だがな。命からがら生き延びるのが精一杯だったんだ。恨むなら俺じゃなく、この国のシステムを恨め。人間が増えすぎたこの街じゃ、プレミアムは合法的な『席の譲り合い』なんだよ。俺が生き残るための席を、お前たちの親が譲ってくれた。ただそれだけのことだ」


それは嘘だった。

だがこの時、双子には彼の言葉を覆す証拠が何もなかった。

プレミアムサバイバルの詳細な戦闘記録アーカイブを閲覧するには、運営に多額の閲覧料を支払わなければならない。両親を失い、一文無しになった双子に、そんな大金が用意できるはずもなかった。


そしてラグランドルは、両親のキルによって得た20万ラムを手に、そのまま別の「上層区の遠い街」へと逃げるように去っていった。

残されたのは、冷たいコンクリートの部屋と、両親を失ったという残酷な現実だけ。アゲハは、去っていくラグランドルの背中を、ただじっと見つめていた。

敵に襲撃されたと言う彼の衣服には、戦闘の痕跡である焦げ跡も、泥も、血痕すらも、何一つついていなかった。


アゲハの瞳の奥に、仄暗い、生涯消えることのない「疑念」の火が灯った瞬間だった。

今日はここまで。次回の更新は月曜20時からの予定。17時には無理そうだったので申し訳ない。

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