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十時十分、十字路で。  作者: 七賀ごふん
同じ顔

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30/57

#3



「おぉ、美味い。お前料理できるんだ」

「飲食も転々としてたんで。どこも長続きしませんでしたけど」

彼はボーッとしながら席につく。そして清心が食べる様子を黙って見ていた。細い指、白い首筋が目につく。何となく居づらいので、彼にも食べるよう促す。

「ほら」

卵焼きを取り、無理やり彼の口に押し込んだ。

「美味しいよ、お前のつくるメシ

「……ありがとうございます」

匡はようやく飲み込んだあと、恥ずかしそうに俯いた。やっぱり、昨日よりは元気そうに見える。このまま良くなってほしいところだけど。

「昨日はどうして俺に会いたかったの」

胸の中で燻る疑問。清心は箸を置いて、正面から匡の瞳を見つめた。本心が聞きたい。何も驚くような回答は求めてないから。

ところが。


「貴方が、呼んでる気がして」


飲んでたお茶を吹き出しそうになる。

彼の口から飛び出したのは、驚くような答えだった。

自分が匡を呼んでいた。だから、彼はあそこで待っていたと言うのか。本気でも冗談でも、あまり気分の良い台詞じゃない。

むしろ昨日は自分が彼に呼ばれて、慌ててあの店へ出向いたのだ。本来、優先すべきだった白露を後回しにして。

「……ごちそうさま」

からかってるんだとしたらもっと腹が立つ。

席を立って食器を台所に戻すと、後ろからまた彼の声が聞こえた。


「貴方といると、少しだけど昔のことを思い出すんです。だからだと思う。勝手に期待してる。本当にすいません……」


蚊の泣くような、か細い声。

もっとシャキシャキ喋れと思ったが、さっきよりは怒りが薄れていた。

台所に立ったまま、清心は後ろを振り返る。


「記憶の話か。そういえば俺もさ……最近、色んなこと忘れるんだよね。忘れるわけないようなことも、どんどんすっぽ抜けてく。怖いことだよな」


そんなことを言うものの、自分と彼は決定的に違う。

匡の記憶喪失は病気からくるもので、自分の場合は白露の世界とアクセスしているせいだ。原因も分かってるし、対策も分かってる。……自分と彼じゃ、恐怖の度合いが全く違う。

ただ、忘れたくないことを忘れていく。

そのどうしようもない切なさともどかしさ、恐怖だけは共感できた。

自分の記憶に自信が持てないと、自分を信じられなくなる。当然、他人のことも信じられなくなる。それはもう“死”と一緒だ。




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