16話
期末試験を三日後に控えた放課後、図書室はさらに静かな緊張感に包まれていた。机の上には参考書とノートが積み重なり、鉛筆の走る音だけが響いている。誰もが集中しようと必死で、空気は張り詰めていた。
真琴は練習を終えて図書室に入ってきた。席に座り、数学の問題集を開くが、ページをめくるたびに眉間にしわが寄る。
「ねぇ、これ全然覚えられないんだけど……」
小声でつぶやくと、隣の友人が「焦ると余計に頭に入らないよ」と苦笑した。真琴は「そうだね、もう一回やってみる」とペンを握り直した。
優は少し離れた席で静かにノートを広げていた。セパタクロー同好会で培った集中力を活かし、周囲の緊張に流されず淡々と問題を解いている。その姿を見ていた真琴は、思わず声をかけた。
「ねぇ、どうしたらそんなに落ち着いて勉強できるの?」
優は顔を上げ、少し考えてから答えた。
「練習と同じだよ。焦っても結果は変わらない。繰り返して、体に染み込ませるしかない」
真琴は「……なるほど。少しずつでもやってみる」と呟き、肩の力を抜いた。
図書委員会のメンバーは、勉強する生徒を支えつつ「図書室らしさ」を守ろうと工夫していた。机の隅には新刊紹介の掲示やおすすめ本のコーナーが残され、休憩中に本を手に取る生徒もいた。顧問の先生は静かに歩み寄り、柔らかい声で言った。
「みんな、よく頑張ってるね。ここなら落ち着いて勉強できる。でも、図書室は本の居場所でもあるから、少しだけでも本を開いてみてね」
その言葉に、委員たちは頷き、机の隅に置いた本をそっと整えた。
その頃、他の顧問たちも顔を出していた。
「試験前は大変だね。でも、ここなら安心して頑張れる」
「無理しないで、休憩も忘れないように」
「顔を見に来ただけ。続けて頑張りなさい」
それぞれが短い言葉を残し、生徒たちを見守るように図書室を後にした。
真琴は再び問題集に向かい、優の言葉を思い出しながらペンを走らせた。
「繰り返して、染み込ませる……よし、もう一回やってみる」
その姿を見ていた優は、静かに微笑んだ。
夕方、窓から差し込む光が赤く染まり、図書室は一日の終わりを告げていた。机の上には散らかったノートや参考書が残り、生徒たちは疲れた顔をしながらも笑顔を浮かべていた。
「試験前って大変だけど、みんなでやると少し楽しいね」一年生がぽつりと呟く。
「そうだな。努力は一人でもできるけど、支え合うと続けやすい」優が静かに返した。
真琴は「今回はちゃんと点数取りたいな」と笑い、周囲の空気が少し和んだ。図書室は勉強の場でありながら、委員会の工夫によって「読書の場」としての空気も守られていた。
――こうして、試験直前の図書室は緊張と努力の象徴となり、先生や顧問の見守りが生徒たちの背中を押していた。




