これから一緒にやる仲間はちょっとキャラが濃そう
グラウンド脇に建つプレハブ棟――それが双峰高校テニス部の部室だった。
白く塗られた外壁はところどころ剥がれ、窓枠のアルミは錆が浮いている。だが、どこか人の出入りの温かみが残る建物だ。
鉄の扉を押し開けた瞬間、むっとした空気が押し寄せる。洗剤の香りと、長年の汗がしみ込んだにおい。狭い部屋にぎっしり詰まったロッカーやベンチ、壁に貼られた色褪せた大会ポスターが、ここが部活の歴史を刻んできた場所だと語っていた。
「ここで着替えてからコートに出てね。靴は入口に置いといていいから」
案内してくれた二年の先輩が軽く笑い、扉を閉める。残されたのは、伊吹を含めた新入生四人。
――静けさ。
聞こえるのは、鞄を置く音と床板の軋む音だけ。互いに距離を測り合うように視線を交わし、けれど誰も最初の一声を発さない。
その沈黙を破ったのは、小柄で目を輝かせた少年だった。
「なあ! せっかくだし、自己紹介しようぜ!」
ぱん、と手を叩く。身長は低いが声は大きく、その場の空気が一気に跳ねた。
「……急すぎだろ」
低くぼやいたのは、隣に立つ背の高い大柄な男子だった。肩幅も腕の太さも野球選手のようで、落ち着いた口調に不釣り合いなほどの存在感がある。
「でも、これから一緒にやるかもしれないんだしさ。名前ぐらい知っといた方がいいだろ?」
「……それはそうだな」
眼鏡をかけた知的な雰囲気の男子が小さく頷いた。整然と新品のシューズを揃えている姿が几帳面さを物語っている。
伊吹は鞄を膝に置きながら、無言でやりとりを聞いていた。
(……まぁ、名乗り合っておいたほうが無難か)
小柄な少年は勢いよく胸を張った。
「俺から! 石田快! 小さいけど足は速いし、体力なら誰にも負けない! 球拾いも走りも任せとけ!」
にかっと笑うと、エネルギーが部屋に広がる。
「……大谷圭祐。中学までは野球部。テニスは初心者だ。力ならあると思う」
背の高い男子は淡々と、だが素直に言った。
「桐原悠真。小学生のころからテニスをやってるけど、本格的に部活でやるのはこれが初めて。分析とか戦術を考えるのは得意だから、そこは役に立てると思う」
眼鏡の男子は、やや早口ながら落ち着いた口調で言葉を並べた。
三人の自己紹介が終わり、自然と視線が伊吹に集まる。
(……やっぱり最後は俺か)
軽く息を整えて、口を開いた。
「……伊吹陽太。よろしく」
簡潔な名乗り。
――だが。
「やっぱり! お前、“あの”伊吹陽太だよな!」
快が目を輝かせて叫んだ。
「え?」
「だって新入生代表だったじゃん! 壇上で喋ってたろ! 背が高くて、めっちゃ目立ってたし!」
「あー……確かに」大谷が腕を組みながら頷く。
「俺も見た。声がよく通ってたな。クラスでも噂になってたぞ」
桐原も眼鏡を押し上げ、淡々と続ける。
「入試トップ合格だって話も聞いた。代表に選ばれるのも納得だな」
「すげー! トップで代表って、なんかもう完璧超人じゃん!」
快が両手を広げて笑う。
「……別に。たまたまそうなっただけだ」
伊吹は眉をひそめ、短く答えた。
「ほら出た、“別に”。お前絶対そう言うと思った」快がケラケラ笑う。
その笑いに引っ張られるように、大谷と桐原の表情もわずかに和らぐ。
さっきまでの気まずさが薄れ、少しずつ仲間らしい空気が流れ始めていた。
(……悪くないな。とりあえず、この三人となら)
伊吹は胸の奥で小さく思う。




