葛藤⑩
選挙後の帰りのホームルーム、選挙の投票が終わり、その結果が発表される時間がやってきた。
校内放送が響く。
「これより、生徒会執行部選挙の結果を発表します」
教室内にざわめきが走った。
伊吹陽太は窓際の席で腕を組み、淡々と聞くふりをしていた。
(……別に、落ちてもいい。落ちたら楽になれる。けど――)
胸の奥は静かじゃなかった。
不安と期待がないまぜになった感覚が、鼓動を速める。
前の席から身を乗り出す声がする。
「誰が受かったかな」
「やっぱ二年の先輩たちじゃない?」
その中で、隣の席の三谷莉緒は余裕の笑みを浮かべていた。
「ま、うちは受かるでしょ」
「……根拠は?」
「ノリと勢い」
あっけらかんとした返事に、伊吹は思わず苦笑する。
(……そういう自信、どこから来るんだよ)
放送は淡々と読み上げを続けていく。
「まず、会長――二年、藤堂翼」
拍手が教室に広がる。
「同じく、副会長――二年、村瀬紗英」
また拍手。順当に、上級生の名前が呼ばれていく。
そして――
「副会長――一年、三谷莉緒」
「きた!」と莉緒が拳を握る。
クラス中から「おー!」「さすが!」と歓声が上がった。
彼女は照れ隠しに「まぁ当然でしょ」と笑い、肩をすくめてみせる。
その直後だった。
「同じく書記――一年、伊吹陽太」
伊吹の名前が響いた瞬間、教室が一気にざわめいた。
「やっぱり伊吹か!」
「そりゃそうだろ、新入生代表だし」
あちこちから驚きと納得の声が飛び交う。
注目の視線が一斉に突き刺さる中、伊吹は机の上で手を握りしめた。
(……まただ。結局、こうやって前に立たされる)
嬉しさはない。むしろ肩に新しい重みがのしかかる感覚だった。
逃げ場にしたいだけだったはずの生徒会が、また「期待」の舞台に変わってしまった。
けれど、その重さの奥に、小さな灯があるのも確かだった。
――挑戦してみたい。
まだ曖昧で、揺れる思いにすぎない。
だが、その火を消したくない自分が確かにいた。
「以上で、生徒会執行部選挙の結果発表を終わります」
放送が終わると同時に、教室は拍手と歓声に包まれた。
莉緒は机に身を乗り出して、にやりと笑う。
「ほらね。アンタも仲間入り」
「……気楽に言うなよ」
「気楽にやんなきゃ、やってらんないでしょ?」
その言葉に、伊吹は返す言葉を失った。
窓の外の青空を見上げながら、胸の奥に広がる熱を、ただ静かに感じていた。




