入学式
四月初旬。
神奈川県横浜市の住宅街に建つ、市立・双峰高校。
桜の花びらはすでに散り始め、春風に舞っては校門の石畳に淡い模様を描いていた。
この学校は“公立の中では進学校”として知られ、毎年安定して国公立や難関私大への合格者を輩出する。
だが、進学実績の堅さとは裏腹に、校風は驚くほど自由だった。髪型も比較的緩やかで、月に数回は私服登校すら認められる。
真面目に勉強へ打ち込む者もいれば、部活動に青春を捧げる者、文化祭や体育祭などの行事に全力を注ぐ者もいる。
――全力を出す場所は人それぞれ。
「自由と責任」を掲げる双峰高校の空気は、その多様性を柔らかく包み込んでいた。
その新たな一員となるために、この日、真新しい制服に袖を通した数百人の新入生が体育館へ集まっていた。
高い天井から吊り下げられたライトが、差し込む春の光と交じり合い、会場全体を柔らかく照らしている。
整然と並べられたパイプ椅子は、緊張と期待を抱えた新しい顔で埋め尽くされていた。
壇上には白い演台と、薄青の校章が刺繍された旗が並び、空気をきりりと引き締めている。
やがて、司会の声が響いた。
緊張と期待が入り混じる空気の中、しんとした静けさが広がっていく。
「――新入生代表、伊吹陽太」
その名が呼ばれた瞬間、会場の一角がわずかにざわめいた。
列の前方から、一人の男子生徒がすっと立ち上がる。
背は高く、190cm近い長身。真っ直ぐ伸びた姿勢は、年齢以上の落ち着きを感じさせた。
髪は黒く、整髪料の匂いがしないほど自然にまとめられているのに、どこか品の良さを漂わせている。
制服の着こなしは乱れがなく、ネクタイの結び目もきちんと揃っていた。
その顔立ちは端正で、冷静さを湛えた切れ長の瞳が印象的だった。
頬はやや精悍で、表情は淡々としている。笑っているわけでも、緊張を見せるわけでもない。
ただ真っ直ぐに前を見据え、壇上へと歩みを進める姿――。
――その立ち姿だけで、会場の視線を引き寄せるのに十分だった。




