生徒会執行部という上に立つ人は、それ相応の人がやりそうだよね
「じゃあ――せっかくだから、俺たちのことも紹介しておこうか」
会長席に座っていた三年生の男子が、すっと立ち上がった。
背は高くはない。だが、姿勢の良さと落ち着いた物腰がそれを補って余りある。細身のスーツでも似合いそうな端正な顔立ち、淡い色のカーディガン越しに覗くシャツの襟はきっちり整っている。黒髪は短く清潔で、視線を向けられた瞬間、思わず背筋を正したくなるような雰囲気があった。
「生徒会長の佐伯悠真です。三年生。普段は行事全体の調整や先生方とのやりとりを担当しています」
低めで通る声に、伊吹は壇上でのスピーチを思い出す。人前に立つ者が持つ「空気を変える力」。それを、この人も自然に持っている。
少し間を置いて、佐伯は微笑を浮かべる。
「……もっとも、私たち三年の任期は今月いっぱい。次の総会で代替わりになります。だから、実際に活動を引っ張っていくのは、これからの二年生たちだね」
その柔らかい笑みに、室内の緊張が一気に和らいだ。
(……やっぱり“会長”っていうのは、雰囲気からして違うんだな)と伊吹は胸の内で呟く。
一方、隣の莉緒は「任期終了」という言葉に小さく目を見開いた。
(ってことは……今なら入りやすいってことじゃん)と、唇の端に期待を忍ばせる。
続いて立ち上がったのは、短髪で日焼けしたスポーツマンのような三年男子だった。がっしりとした肩幅に、スラックス越しにも分かる引き締まった脚。鋭い目つきの奥に誠実さが宿っており、立ち姿は“副会長”という肩書きにふさわしい。
「副会長の川村翔です。主に会長の補佐と、行事の実務面を支えてきました。僕も今月で役目を終えます。……ただ、まだまだやり残したことは山ほどあるので、ぜひ君たち新入生にも次を託したいと思ってる」
真っ直ぐな声。余計な言葉を挟まない潔さ。
伊吹は「先生より説得力あるな」と、思わず感じた。
(部活のキャプテンって、こういうタイプかもしれないな……)と頭の中で重ねる。
その隣から、明るい声が響いた。
「副会長の村瀬紗英、二年です!」
ぱっと目を引くのは、小麦色の健康的な肌。ショート寄りのセミロングは軽く跳ね、動きに合わせてきらきら揺れる。大きな目に快活な笑顔、立っているだけで場が一段階明るくなるような存在感があった。
「私は広報と現場担当って感じ。体育祭や文化祭の進行は、ほぼ私の声で回ると思っていいよ!」
腰に手を当て、にかっと歯を見せる。
「三年の先輩たちが抜けたら、私たち二年が中心。だから新入生にもガンガン動いてもらう予定だからね?」
冗談めかした口調に、室内が笑いに包まれる。
莉緒は心の中で「こういう先輩、絶対人気あるわ」と呟いた。軽快な立ち振る舞いに、なんだか憧れすら感じている。
一方伊吹は「……声がでかいタイプだな」と少しだけ気圧されつつも、不思議と嫌な印象は残らなかった。
続いて立ち上がったのは、柔らかな雰囲気を持つ二年の男子。
穏やかに流れる黒髪が額に少し落ち、やや細身の体型。シャツの袖をきちんとまくり、姿勢は控えめだがどこか誠実さを漂わせていた。
「同じく副会長の藤堂翼です。村瀬と一緒に行事運営や庶務を担当しています。僕はそんなに目立つタイプじゃないけど……次の代では責任ある立場を任されるので、頑張ろうと思っています」
落ち着いた声。無駄のない言葉遣い。
伊吹は(……この人は安心感があるな)と、自然に胸の中でうなずいた。
莉緒は思わず背筋を伸ばし、(うち、こういう先輩好きかも)と妙に前のめりになっている。
それぞれが立ち上がるたび、部屋の空気が少しずつ形を変えていく。
会長・副会長という肩書きは単なる名札ではなく、その人自身の雰囲気や在り方を映すものなのだと、伊吹も莉緒も実感していた。