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ある門番の話  作者: 風見ミルク
1/3

ある門番の仕事

「おつかれさん。もうすぐ門をしめるよ」


「おー、もうそんな時間か」


年配の同僚と声を掛けあいながら、大きな門を閉めるための作業を始める。

今日も大きな事件は起きずに平和な一日が終わった。


(よし、さっさと帰るか。あいつらが腹を空かせてるだろうな)


家で妹ミリアと弟のシモンが俺の帰りをまっている。


定時で帰れるのはこの仕事の良い所だ。


冒険者をやっていた頃は泊りがけの仕事も多かったからな。


「……寒っ!」


寒さに思わず肩をすくめる。


「薪の消費が激しいな。そろそろ薪を買い足すか。」


そう呟いたところで、隣の同僚がぽつりと口を開いた。


「今日はアレが来てないから平和だったな」


「あぁ、アレか……」


言葉を濁してはいるが、内容はすぐに察しがつく。


「まったく……、”自称勇者”様のお出ましが無い日は平和なもんだよ」





この町には、中央の大貴族が外に産ませた庶子だという”噂”の

「自称勇者」

がいる。


物語に出てくるような勇者とは似ても似つかない。


「勇者ってのは、弱い人間を助けるもんじゃねえのか?」


「だよな。アレがやってんのは、空き巣と女集めだけだろ」


もしアレが勇者なら、世の中のチンピラ全部勇者って事になるだろ。


今、この町には領主がいない。

この一帯を管理していた貴族の寄り親が、なんだかやらかして失脚。


巻き添えを食って、町を管理していた寄り子の男爵も失脚した。


この町の特異性から、今は国の直轄地として、代官が派遣され来ている。


(まったく、よりによってあの男爵様が責任を取らされるなんて……)


この町の特異性、それはこの町に”勇者の剣が有る”とされている事にある。


「古の賢者が、未来の勇者の為に残した剣か……」


いにしえの人魔戦争の時、当時の勇者たちが魔王を倒したが、一緒に戦った賢者が、遠い未来に魔王が復活するという予言を残した。


魔王と戦う未来の勇者の為に、この地に”魔滅の剣”を隠したと言われていのだ。


何でもいずれ現れる真の勇者は、自ずとその剣を手に入れる運命なんだとか。


「……でも、何百年も誰にもみつかってねえんだろ?」


「良くある、おとぎ話なんだろうさ」


この町の土産は「勇者の剣の置物」だ。


「だれも実際の剣を見たことが無いから店ごとにデザインが全く違うけどな」


「まあ、それでもこんな何もない町の数少ない土産だからな。」


しかし、そんな話の影響で、この町にはちょくちょく「自称勇者」が集まってくる。


「今までの”自称勇者様”はすぐに街を出て行ったのにな。

今いるアレは居座り続けてやがる」


「しかも大貴族が絡んでるから、手出しが出来ねえんだよな。

メンドクサイこと、このうえねぇ」


顔をしかめる同僚に、俺も肩をすくめる。


「……男爵様がいてくださればなぁ」


「ああ……本当にな」


この町を管理していた男爵様は、まじめで気さくな人柄で、町の住民から慕われていた。


その男爵様には、二人のご令嬢がいた。特に二番目のご令嬢、セルリー様は良く町に遊びに来ていた。


「俺、小さい頃、良くセルリー様と勇者ごっこしたんだわ…。セルリー様はいつも賢者役でさ……

俺は火かき棒を剣の代わりに振り回して、親父に怒られたよ。」


俺のつぶやきに同僚はなんとも言えない顔をした。セルリー様の今の境遇を思っての頃だろう。


「セルリー様、平民に落とされた上に、どこぞの貴族の妾にされるって…

本当なのか…?」


「そういう噂があるな。今は親戚の所に身を寄せておられるそうだが…

そこでも、いつまで庇えるか分からんのだろう。」


…でも俺らにできる事なんて何もないんだ…


だって、俺らはただの門番なんだから。




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