表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ベランダの皮肉屋ミニトマトくん

作者: 芹口

 好きです、って伝えられたんだ。

 それで私も好きですって言ってもらえた。

 これ以上の幸せってないんじゃないかって、そう思ったんだ。本当に。


 植物園デートで告白したのはゴールデンウィークのこと。付き合えた嬉しさをなにか形にしたくて、帰りに彼女の提案でミニトマトの苗を買ったんだ。


 夏休み頃に収穫できるはずだからこれで夏野菜カレーを作ろうって、笑顔で話してさ。


 敢えて恥ずかしい表現をするのなら二人の愛の象徴とでも言うべきものになったんだ。

 今でもそれは変わらない。


「皮肉だけどね」


 大学二年目の夏休み。少し広く感じる一人暮らしの部屋からベランダに出ると、初心者にも育てやすいらしいミニトマトが迎えてくれる。

 元気に日光浴してるけど未だに実りの一つもない。


 なんでだろって思う。


「花は咲いてたのになぁ」


 スマホを操作しつつ考えてみる。

 肥料を多くやり害虫対策も万全にしてきたはずなんだけど。


「これか。過繁茂(かはんも)?」


 答えはすぐに見つかった。

 葉や枝が茂り過ぎている状態で、そっちに栄養を取られて花の育ちが未熟になることみたい。


 過去と照らし合わせると問題点は二つ、肥料の与え過ぎと脇芽の処理だ。


 ああ、なるほど。


「勉強になるよミニトマトくん」


 もっと早くに気付くべきだった。

 大事にしてたつもりなんて言い訳はきっと通用しない。

 だって心当たりが有り過ぎる。


「要は構い過ぎと不満の芽を摘まなかったことだろ?」


 酷い答え合わせもあったもんだ。


 以前よく泊まりに来ていた彼女とは、喧嘩してしまった二週間前から連絡を取っていない。落ち着いてから話そうって僕から強引に会話を打ち切ってしまったんだ。

 で、それっきり。

 翌朝目が覚めると彼女の私物が部屋から消えていた。

 もちろん、彼女の姿も。


 話し合うべきだったよな、なんて今更。

 もうなんとなく諦めがついてしまった。


「話せないかな? と」


 メッセージアプリを開いて送信。自分勝手だって分かってるけどもう一度だけ会いたい。

 会って、ちゃんと終わりにしたい。

 遠くに見える飛行機雲が、僕の日常に区切りをつけていく。

 そもそも返信どころか既読が────




『おそあ』




 手元で震動。ひらがな三文字。

 慌てて返信したんだなって分かる打ち間違いに目が釘付けになった。


「ふはっ、ほんと遅い(・・)よな」


 口角が上がる。こんなのずるい。諦めた気持ちなんて一瞬で嘘になる。


 なんだよ、勝手に諦めてたのは僕の方か。

 随分待たせたことも含めて、まずは謝るところから始めよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
絶妙な3文字……! これが出てくるところがすごいです。 これ、読んだら絶対ほわってしちゃいますよね(´ω`*) 素晴らしい言語センスだと思いました。 ミニトマトも愛情も、今後は順調に育っていきますよう…
 (自作に御感想頂き、「どのような小説を書く方だろう?」と思い、読ませて頂きました)  ミニトマトの実りと二人の関係の進展がシンクロしている様で面白かったです。色々悩んだり、突っ張ったりしないで自分…
とても爽やかなお話ですね。 そして、なんだか可愛い。 ミニトマトと彼女との関係が重なっていたところも、彼女からの返信も、とても爽やかで可愛かったです。二人にはどうかうまくいってほしい!と思うほど。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ