雨降って地固まる?
「あっ」
「えっ」
アパートの一室に入ろうとしてそのドアの鍵穴に鍵を刺そうとしたその時、同じように反対側から鍵を刺そうとして人がいる。
「村上、なんでおまえが?」
「間宮こそなんで? ここはあたしの部屋よ」
こいつは何を言っているんだ? ここは今日から俺が住む部屋で間違いない。俺は親の急な海外転勤により本日より一人暮らしが決まっていた。
「馬鹿なこと言ってんじゃないぞ」
「あなたこそ意味分かんないんだけど」
「まぁまぁ、おふたりとも落ち着いてくださいな。これには事情がありまして。今お話しますね」
「「あなたは?」」
俺たちの後ろにいかにも人が良さそうな白髪の老婆が立っていた。
「斯々然々で同じ部屋に不動産屋さんが契約をしてしまったみたいなの」
「大家さんが言うなら間違いないですね。なら村上、ここは俺に譲れ」
「なにがならなのよ。ここはあたしが住むから間宮こそ譲りなさいよ」
「まぁまぁ喧嘩しないで。お知り合い同士ならいっそのこと一緒に住んでみてもいいんじゃないかしら」
2LDKの部屋だったのでそれぞれが一部屋ずつ使えばなんとか生活はできそうなので、苦渋の決断ではあったけど村上とルームメイトになることを了承した。
俺と村上は同じクラスだけど仲が良いとはいい難い。どちらかといえば女子のリーダー的な彼女と男子側のリーダー的な俺とは犬猿の仲に近い。
男女でも仲がいいやつはいいんだけど、基本的に互いに権利を主張しあって啀み合っているのが現状だったりする。その最たる二人がルームメイトとか笑わせる。
「言ってもしょうがないか。行く宛てないんだし」
お互い事情があってすぐさま別の所に引っ越しとはいかないのは確定事項。
ある意味諦めの境地で共有スペースになるリビングで食器などの荷解きをしていると、やおら雲行きが怪しくなってくる。
「一雨きそうだな」
ドカーン! 物凄い音と光。落雷が近場であった様子だ。
「きゃーっ」
隣の部屋のドアが開いて村上が俺に抱きついてきた。ガタガタと震えている。どした?
「か、カミナリ!」
なるほど、雷が苦手なんだな。案外と可愛い所あるじゃないか。
「大丈夫、直ぐに通り過ぎるから」
「うう、怖いよぉ」
暫くすると雷は遠のいていった。
「……ごめん、ありがとう」
「どういたしまして」
「間宮って意外と男らしいんだね」
雷ごときで男らしいというものなんだけど、悪い気はしない。
なんとなくこの生活もうまくいくような気がしてきた。