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須々木優大48.こんな俺に

「能力の発動には限度があるもんなぁ。まぁ、退屈しのぎにはなったか?」


 進が消えてから間もなくして、少し離れた距離にいるリリラガンがそう口にした。声のした方を見ると、不死身の能力が付与されたはずの皆が一同に倒れて動かなくなっており、透明化が進んでいる状態になっていた。そんな中、瀬戸さんだけが辛うじて地に足をつけてリリラガンを見据えていた。


「み゛んなぁ!!!!!!!」


 とうの昔に母さんの声は枯れている。それでも、叫ばずにはいられないのだろう。


「瀬戸さん今すぐ私も——」


「来るな!!」


 弱弱しい声とともに瀬戸さんのもとへ走り出そうとする母さんを止めたのは、瀬戸さんの言葉だった。


「なぁ、魔罪人。後生の頼みだ。いつでも死ぬ覚悟はできてる。どこにも逃げねぇ。だから、少しだけ時間をくれ」


「……初めて第二の能力を披露したのはお前だったな。さっさと済ませろ」


 リリラガンは瀬戸さんの要望に対して小さな声でそう言うと、空中で寝そべりながら目を閉じた。


「つーことで、すまん。最後に昏華へ伝えたい事があるんだ」


 瀬戸さんはおぼつかない足取りで僕たちの方へ体を向けると、そう言って笑顔を作った。


「謝らないでよ。最後なわけないんだから。話は後でいくらでも聞く。そうだ、瀬戸さんが好きなお酒出してあげるから。だから——」


「なぁ、昏華。人はいつか死ぬんだ。現実世界ではもちろん、狭間世界でだって例外はない」


 瀬戸さんは母さんの言葉を遮ると、落ち着いた声でそう口にした。


「……嫌だよ。そんな事言わないでよ!!」


 そう言いながら激しく首を振る母さんに対して、瀬戸さんは再び口を開いた。


「俺は何度も失敗してたくさんの後悔をした。だからこの世界に降り立った。だけど、あまりにも理不尽で意味がわからないこの世界に希望など抱けず、この世界に生を成した事すらも後悔して、どうすれば少しでも楽に死ねるかなんて事しか考えていなかった時に昏華が手を差し伸ばしてくれた。

 だけどな、はっきり言って何も期待などしていなかったんだ。中身は違えど、後悔を抱いている人間なんぞに他人をどうこうできるはずがない。どうせこの手を掴んでも後悔を重ねるだけなのだと、信じて疑わなかった。

 だけど、そんな事を考えたところで他に選択肢もなかった俺は、ただ何となく新たに生まれた選択肢に身を投じる事にしたんだ。それから少しずつ人が増えて、楽しいと思える時間も増えた。そんな日々の中でも、もちろん抱いた後悔をなかった事にはできなくて過去を振り返る事は何度もあった。

 あの時、こうすればよかった。ああやっていれば、こんな思いはしなくて済んだのに。何度振り返っても変わる事のない結果論が俺の心を幾度となく沈めてきた。そんなへばりついて決して取れる事のない負の感情から来ていたはずの行為が、いつしか思い出を慈しむ理由へと変化していた事に気づいた時、昏華の作ってくれた選択肢は、俺のした選択は間違っていなかったのだと確信した。だから、こんなに痛くて、辛くて。死ぬことが確定した今でも笑っていられるんだ」


「殺させない! そんな事、絶対にさせない!! メタモ——」


「昏華!!!」


 母さんが右手を突き上げてそう声を出したその時、瀬戸さんが声を張って母さんの動きを再び静止させた。


「昏華と俺の人生は別物だ。俺は俺の人生にけじめをつけるだけ。何もそれに付き合う必要なんてないんだ」


「違う!! 皆も、瀬戸さんも私の後悔に付き合ってもらっただけ。だから私にも、いや私がけじめをつけないといけないんだ!」


「思い出せ。後悔を向ける矛先は俺たちじゃないはずだぜ」


 母さんの訴えに対して、瀬戸さんは落ち着いた声でそう口にした。


 言葉を詰まらせた母さんを優しい眼差しで見つめた後、


「先にみんなのとこ行って待ってるけどよ、後悔のない選択がとれる事を心から願ってる。昏華。こんな俺に後悔以外の過去をくれてありがとな」


再度満面の笑みでそう口にした。


「瀬戸さ——」


「うぉぉぉおおおおお!!!」


 瀬戸さんは母さんの言葉をかき消すように槍を出現させて右手に掴むと、雄叫びとともに身体を捻らせリリラガンめがけて勢いよく投げつけた。


 空中で寝そべっていたリリラガンは、上体を起こしたかと思うと何も言わずに瀬戸さんを見据えた。槍はリリラガンの右肩に突き刺さると、その動きを止めた。


 今までどんな攻撃をしても傷の一つも負わなかったリリラガンが、ここにきてダメージを負った。嬉しい事実ではあるのだが、一哉の能力を至近距離で発動させても無傷だった男が、槍の一本でダメージを負うとは到底思えなかった。目を閉じて寝そべっていたから反応が遅れたのか?


「なんだお前、そんな顔できたのかよ」


 リリラガンは視線を外さず何もアクションを取っていなかったが、瀬戸さんのその言葉を皮切りに右手を振り上げた。その瞬間、瀬戸さんの頭が静かに宙を舞った。


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