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須々木優大47.ありがとうございやした

 周囲の皆、そして当の本人も同様は隠せていなかった。


「よかった!! でも、どうして立ち上がれたんだ? 傷も治ってる。瀬戸さんは槍を生成する能力だったよな?」


 一人の男性が瀬戸さんにそう声をかけた。


「俺もよくわからない。だけど、『アランバーグ・リリラガンを殺すまでは、どんなダメージを負っても瞬時に回復する』と意識が戻った時に、どこからともなくそう言われたんだ」


「すげぇ!! 第二の能力なんて聞いた事がないぞ!!」


 周囲が歓喜の色に包まれている。瀬戸さんの言う事が正しければ、不死身の能力である事は間違いない。ミラーは不死身の能力がレアだと言っていた気がするのだが、勘違いだったのだろうか。


 何はともあれ不死身の能力者がいるんだ。状況が好転した事は間違いないだろう。


「こいつは絶対ぶちのめす!! 皆、俺に続け!!!」


「うぉおおお!!」


 勢いづいた周囲の人々は、瀬戸さんの掛け声とともに、各々のやり方で攻撃を開始した。


「ぬるい」


 しかし、リリラガンはやはり身動き一つせずにすべての攻撃をはねのけると、そう言った。


「第二の能力。興味深ぇが、雑魚が得たところで何もなりゃしないだろ!!」


 リリラガンがそう言い放ったと同時に、進が僕と母さんを足で掴むと勢いよく飛び立った。地上に残っていた皆は、見えぬ何かによって上半身と下半身を切り離され、力なく倒れ込んだ。


「皆ぁぁぁああ!!!!」


 母さんが悲痛な声を上げている。進の方を見ると、どこか物悲しげに見えた。


「鳥類風情が俺様に抵抗するんじゃねーよ」


 リリラガンが僕たちに向けて右手をかざしたその時、


「死ねぇ!!!」


「ゴミが!!」


「目ざわりなんだよ!!」


 二分化されたはずの皆が、平然と立ち上がり罵倒とともに各々の能力で再びリリラガンに攻撃を仕掛けたのだ。


「……あぁ?」


 当たり前のように攻撃を受け付けないリリラガンであったが、殺したはずの人間が何事もなかったかのように立ち上がり、攻撃を仕掛けてくるのだから、動揺しているに違いなかった。


「皆!! よかった!! 皆も不死身の能力を?」


 リリラガンの動きが止まったその隙に、進は僕たちを地上へと降ろしてくれた。母さんは皆のもとへ駆け寄ると、声高々にそう言った。


「瀬戸さんと同じだ。『アランバーグ・リリラガンを殺すまでは、どんなダメージを負っても瞬時に回復する』という能力。一体どうなってる?」


「状況はわからない。だけど、追い風となっているのは間違いないんだ。この人数の不死身が玉砕覚悟で攻撃を続けたら可能性はあるぞ!!」


 より一層活気付く皆であったが、進の表情はやはり浮かなかった。


「よくわかんねぇけどよ、要はあれだろ? 何回も殺せるってことなんだよな?」


 リリラガンがそう言い、にやついた途端、進は再度僕と母さんを足で掴むと高く飛び上がった。先程と同様、他の皆は血を吹き出しながら倒れ込んだが、すぐに起き上がると各々攻撃を始めた。


「……聞いたことはねぇ。だが、現状を見りゃ明らかだ。ぶら下がっている女か男。どちらかが不死身の能力を付与できるんだろ。死ぬ度に付与してるのか、永続的なのか。よくわからねぇけどよ、とにかくあれだな。やっぱり鳥が邪魔だな」


 リリラガンは、皆の攻撃などお構いなしに僕たちの方を見つめるとそう言い放った。


「昏華の姉御の能力は、俺がよく知ってまさァ。おい、あんたの能力なんですかィ?」


 進はリリラガンを見つめたまま、そう問いかけてきた。


 僕の能力は最も大切な夢を叶えるまで、死なないというもの。その効力は自身によるものだし、現在はおそらく使用できない。となれば考えられるのは、第二の能力。そういえば、敦子も二つの能力を持っていた。現世で発現したのは、皆と種類は違えど不死身の能力。もしかしたら、リリラガンが言っていたように僕には不死身の能力を付与できる力があるのかもしれない。やはりトリガーはわからないが、結論を出すには十分だった。


「おそらくそうだ。発動条件はわからないから、二人にも付与できている保証はないけど」


「だったら、しっかり掴まっててくだせェよ!!!」


 進はさらに高く飛び上がりながらそう声を張った。


「進!! 私は戦えるから! 降ろして!!」


「嫌でさァ」


「二人を抱えて飛び続けるには限界がある! 優大さえ守ってくれればいいから!」


「姉御が不死身である保証はないって聞いてなかったんですかィ?」


「皆、死を覚悟で戦場に立ってるんだよ! 私だって同じだ! だから進、おろし——」


「俺が不用意に能力を使ったから、リリラガンに位置がばれた。皆が死んだのは、昏華の姉御の思いを踏みにじったのは俺なんでさァ。

 俺は姉御みたいにはできねェ。意志も足りねェ。だったらせめて、姉御の、恩人の命くらいは守らせてくだせェよ!!」


 進は母さんの言葉を遮ると、そう声を張り上げた。


「進が不死身である保証だってないんだよ? いいから降ろして!!」


 それ以降も母さんは言葉をかけていたが、進が言葉を返すことはなかった。ただひたすらに、リリラガンの攻撃を避ける事に専念している様子だった。


「当たらねぇ射的ほど、つまらねぇものはねぇよな」


 しばらく攻撃をよけ続けていた進に対して、リリラガンは右手を天に掲げると、見えない何かを何度もこちらに投げつけてきた。先ほどまでの攻撃とは規模が違うのか、進の身体は激しく揺れ動き、荒い呼吸と多量の汗が顕著に現れ始めていた。


 人間二人を持ち上げての空中飛行。そのうえ、魔罪人の攻撃を避け続けているのだから無理もない。もう随分前から体力は限界であるはずだ。


「進!! もう限界だよ!! 私をおろ——」


 母さんが再び声を上げたその瞬間、羽ばたいていた進の左翼が突風とともに消失した。鮮血をまき散らし、僕たちは地上へと急降下を始めた。


「進!! 進!!!」


 痛みによるものなのか、意識を失った進に母さんが必死に声をかけている。


 戦ってくれている皆は、全員不死身になっている。おそらく、進も大丈夫なはずだ。僕の能力が発動すれば、地上に落ちるその前に進の翼は復活する。大丈夫、大丈夫だ。


 しかし、進の翼が復活する事はなく、母さんの声掛けによってなんとか意識を取り戻した進は、地面に付く数メートル前で右翼を激しくばたつかせて落下の勢いを殺すと、即死を免れる事に成功させた。


「進!! 血が!! 翼……、腕も……。あぁ……!!」


 進の左胸部のほとんどが消失しており、翼どころか、左腕すら跡形もなくなっていた。


 なんだ? どうしてだ? どうして進には能力が付与されないんだ?


 他の皆との違いは何なんだ?


 面識がない人にも付与されているこの状況で、母さんを除けば一番関わりのある進は能力を付与できてもおかしくないはずなのに。


「進!! 進!!!!」


 母さんは喉を枯らしながらそう叫び続けている。


「治癒できる能力者に変身はできないの!?」


「私が会ってきた人たちには、そんな人はいなかったんだ。進!! 進!!」


「雑兵が一人死ぬだけでさァ。何も問題ねェですぜ」


 進は辛うじて開眼すると、母さんの声掛けに答えるようにそう口にした。


「何言ってんの!? 進は大切な仲間だよ!! 死んじゃだめなんだよ!!!」


「俺の事はもう、十分でさァ」


「だから何言って——」


「そんな事より昏華の姉御。恩人のあなたが無事でよかった」


 進は笑みを浮かべると、力なくそう言った。


「……恩人恩人って言うけどさ!! 私は本当に何もしてないじゃんか!! むしろ、何も知らないままこの世界に来た私を、進は敵の攻撃から守ってくれた。私の後悔を果たすための手伝いだってしてくれた。だから私は皆に会えて、優大にも巡り合う事ができたんだ。恩人だって言うならそれは、進。あんたの方だよ!!」


「俺はたまたま困っている人を見かけたから手を出した。ただ、それだけなんでさァ。ですが、昏華の姉御はそんな俺に『ありがとう』と言って笑ってくれた。俺の生きていた環境には、そんな事をしてくれる人間はいやせんでしたから。

 どんなに善行を重ねても、それが当たり前。何か一つでも失敗をすれば、今までのすべてがなかったかのように蔑まれ、罵倒される。最終的には、まるで存在していないかのように無視をされるようになる。

 別に、誰かから評価されたかったわけじゃない。だけど、生きている心地がしやせんでした。

 そんな俺に、昏華の姉御は出会ってから今まで、たくさんの感情を向けてくれやした。俺の当たり前だった息苦しい世界を、居心地が良く楽しくて、幸せに満ちた世界へと塗り替えてくれたんです。だから昏華の姉御は、俺の恩人なんです」


 呼吸する事すらままならないほど苦しいはずなのに、進は表情を変える事なくそう口にした。


「だったら進。恩人である私の願いを聞いて。死なないでよ」


「そいつァ、いくら姉御の頼みとは言え無理でさァ」


「そんな事言わないで? いつもみたいに『わかりやした』って言ってよ!!」


「高梨進という人間が死ぬだけ。それなのに、そんな顔をしてくれるあなたがいてくれたから、俺は最後まで生き抜く事ができやした。昏華の姉御。長い間、誠にありがとうございやした」


 進は満面の笑みを浮かべると、そのまま静かに目を閉じた。


「いやだ!!! 進!!! 目開けてよ!!!」


 その後は母さんの声掛けに応じることなく薄れていき、数分後にはこの世界へと消え入ってしまった。


 進はこんな状況でも、恩人である母さんの事しか考えていなかったのだろう。あんなに嫌っていた僕をリリラガンの攻撃から守っていたのも、不死身の能力を付与しているかもしれない僕が死ぬ事で母さんの生存確率を下げたくなかったからなのだろう。


 僕は、泣き叫んでいる母さんに対して見守る事しかできなかった。


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