須々木優大44.必ず
……生き返れない?
反復してみるものの、その言葉は僕には理解できなかった。なぜなら、僕が生きているのだから。運命の人と生死を共にするという事は、僕が生きている限りは死んでも蘇るはずなのだ。
運命の人が僕じゃない可能性はもちろんあるのだが、仮にそうだったとしても敦子は僕のもとへ来る前に能力が発動する事を確かめている。敦子の人付き合いについては把握していないので断定する事はできないが、僕である可能性が高いのは確かなはずだ。
「運命の人の後悔が果たされるまで、運命の人と生死を共にする。これが現世で発現した私の正式な能力。つまり、優大が不死身の能力を失ったと同時に、私の不死身の能力も消失していたの。今まで、言い出せなくてごめんね」
……なんだよそれ。
「な、何かの間違いだろ?」
「……ごめんね」
嘘である可能性に縋ろうとした瞬間、敦子のか細い言葉で一蹴されてしまった。
じゃぁ、なんだ?
つまりは、どういう事だ?
敦子は生き返れない。そんな状況の中、敦子は致命傷を負って倒れている。
……死ぬ?
嫌だ。だめだ。そんな事は絶対に——
「優大が自身のために何かを求めた時、私はそれを尊重し気持ちに答える事」
敦子の言葉で我に返った。聞き覚えがあるフレーズだった。しかし、敦子が口にしなければ、思い出す事はなかっただろう。
「それ、契約の時に敦子が僕に約束した内容……?」
敦子は小さく頷くと、再び口を開いた。
「優大は、無知で愚かな私にかけがえのない数多くを、何より幸せという感情を与えてくれた。だから私は、与えてくれた思いに答えたいと思った。恩を返したいと思ったの。
自分なりに考えて考えて考えて。悩み抜いた末、行動に移した。その時の私は、それが最善だと思っていた。だけど、それは私にとっての最善であって、優大にとっては最悪でしかなかった。優大の事を勝手に理解した気になって、無責任に空回りして、結果的に取返しのつかない事をしてしまった。思いを踏みにじった。挙句の果てには、尻拭いまでさせてしまった。
今の私では、優大に対して何もしてあげられないと痛感した。だから、変わる決意をして無我夢中に生きた。女優になって、年と経験を重ねて自信をつけた。ふんだんに時間を使って計画を練って優大のもとへ行き、再び行動に移した。変わった私なら、成し遂げられると思っていた。だけど、所詮は雨海敦子。結局、理想とした結末とは大きくかけ離れてしまった。
悔しかった。心苦しかった。このままで終わらせるわけにはいかなかった。だから、狭間世界に来れた事は幸いだった。だけど、もう二度と失敗は許されない。だったら受け身にはなってしまうけれど、せめて自ら口にした約束事くらいは果たそうと思った。だけど優大は、頑張ってくれているところを見せてくれないどころか、自身の事に対して私には何かを求めようとはしなかった。いや、できなかったんだよね。すべてにおいて私は未熟だったから。
私の後悔は、優大の力になれなかったこと。何も返せなかったこと。そして、私が狭間世界で発現した能力は、『自身は死ぬ代わりに、運命の人が現在一番必要としているものを与える』というものだった。
……だけど昨日、優大は私の目の前で、私と一緒にいたいという思いが一番であることを口にしてくれた。私を求めてくれたその言葉たちは、私の後悔を払拭してくれるには十分すぎるくらいだった。つまりね、私は昨日をもってすべての能力を失ったんだ。本当は、来るべきリリラガンの戦闘に備えておくべき手段であったはずなのに。
ちゃんと事情を話して、能力を維持するべきだった。これからだったのに。結局私は、自分の事ばっかり。何が恩返しだ。何が優大の事を考えているだ。
恩を仇で返しちゃってごめんなさい。役立たずでごめんなさい。自殺を止めたのが私でごめんなさい。出会ってしまって本当にごめんなさ……い。ぞれでも、わ……だじ……、は——— 」
時間をかけながらも言葉を口にしてくれていたが、そう言った次の瞬間に包んでいた敦子の右手が鉛のように重みを増した。
「あ、敦子……?」
そう声をかけるが、微動だにしてくれなかった。代わりに、身体全体が透け始めているように感じる。
「……大丈夫。大丈夫だ。蘇る。本当は問題ない。そうだろ?」
僕の言葉は空に切るだけで、透明化が停滞する事はなかった。
「腹筋ならいくらでも見せる。お風呂だって、これからは毎日でも一緒に入ろう。敦子が求めるならなんだってする。本当だ。もちろん、僕だって言うようにするよ。だから、お願いだ。目を覚ましてくれ。いなくならないでくれ。始まりに過ぎないって。これからだって言ったじゃないか!」
違う。そうじゃない。言いたいことは、伝えたいことはもっと他にあるだろうが。
「もっと踊り狂え! 俺を楽しませてみろよ!!」
頭上から、聞き覚えのある耳障りな声が唐突に僕の鼓膜を刺激した。
……またお前か。お前だったのか。
僕は感情を押し殺しながらも、消え入る敦子を抱きしめた。
「ちょっと待っていてくれ。僕も用が済んだらすぐ行くから。必ず」
数分も経たずに空を切ってしまった両腕に力が籠る。気づけば、両手には拳が握られていた。
どれだけ奪えば気が済むんだ。殺してやる。殺して、殺して、殺して——
「リリラガァァァァァァアアアアァァァアアン!!!!!!」
抑え込んでいた感情をぶつけるように、僕はそう声を張り上げた。
「威勢がいいのがいるじゃねぇか。殺してやるよ」
リリラガンが僕に向けて手をかざしたその瞬間、何かが勢いよく僕を捕らえ、素早くその場を移動させた。
つい先ほどまで僕がいたところは、地面がえぐられていた。
「不用意に叫ばねぇ方がいいですぜ。奴の攻撃の餌食になるだけでさァ」
僕を助けてくれたのは、どうやら進だったようだ。しかし、そんなことはどうでもいい。
「……おい、なんで僕だけなんだ?」
「どういうことでィ?」
「なんでお前、もっと早くに助けに来てくれなかったんだよ! マッハで動けんだろ? 敦子は、敦子が……!!」
「……すいやせん」
進が悪いなんて、これっぽっちも思っちゃいないし、謝ってほしいわけではない。過去を咎めたって何も始まらない。わかってはいるが、今は進に言葉をぶつけることしかできなかった。




