須々木優大43.確かに
近くで食器でも落としたかのような破裂音で僕は目を覚ました。
睡魔のせいでしばらく起き上がれないでいたが、顔をしかめながらも気合で起き上がると大きく背伸びをした。
「敦子―。何かさっき大きい音しなかった?」
目をこすりながらそう言うが、返事はなかった。
「敦子―?」
なんとか瞼をこじ開けて辺りを見回したが、敦子の姿はどこにもなかった。
トイレかな?
そんな事を考えていた次の瞬間、外から無数の悲鳴が聞こえてきた。
僕は毛布を蹴飛ばしながら飛び起きると、玄関に向かった。
扉を開けると、逃げ惑う人たち。見えない何かに切り裂かれ、えぐられて。一人、また一人と倒れていく。そんな姿を見て、声を上げて泣いている人、反対に声を押し殺しながら身を隠す人。そんな情景が次から次へと視界に飛び込んできた。何が起きているのかわからなかったが、とにもかくにも地獄絵図に違いなかった。
敦子はどこだ?
まだ家の中?
いや、こんな状況なんだ。家の中にいるのだとすれば、何かしらアクションがあっても———
「優大」
明らかにか細くあったが、聞き覚えのあるその声に導かれて視線を落とすと、腸をえぐられ横たわっている敦子の姿が目に入った。
「あ、敦子!?!?!?」
僕はすぐさま駆け寄り、そう声をかけた。口や腹部から多量の血が流れ出ている。いつ死んでもおかしくない状況の中、敦子の眼球だけは僕をとらえていた。
「肝心な時に傍にいなくてごめん。とにかく避難しよう。何があったのかは、生き返ってから教えてくれ!」
明らかに致命傷ではあるが、敦子は僕が生きている限り死んでも蘇る。落ち着け。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせていると
「握って?」
血まみれの右手を激しく震わせながら差し出して、敦子はそう言った。
もちろん状況は理解しているはずだ。それでも、敦子の真剣な眼差しは僕の目を見て放そうとはしなかった。
「わかった」
周囲の阿鼻叫喚を捨て置き、僕が敦子の右手を両手で包み込むと
「……何か、変わった?」
数秒の沈黙の後、敦子が小さな声でそう言った。
変わった?
一体何を言っているのだろうか。
「特に何も。どういうこと?」
「……そっか。そうだよね」
そう口にしたと同時に見せた苦悶表情は、傷による苦痛だけではない気がした。聞き出すにしても、やはりこのまま無防備な状態でいるのは得策ではないだろう。
「一旦家の中へ避難しよう。痛いだろうけど我慢して——」
「私はもう、生き返れない」
敦子を抱え込もうと動きだしたその時、敦子の口から確かにそう聞こえた。




