雨海敦子45.迂闊
しばらくして、私たちはこれからの事を話し合った。昏華さんと一緒に暮らす事。これは優大の幸せにとって必要な事だと私は思う。優大もそれを望んでいるのは事実だ。だけど、リリラガンを倒して敵を討ちたいという思いがあるのも事実。どちらも捨てられない思いなら、両方捨てなければいい。何にせよ、今一番優先すべき事は第二の能力を明確にすることなのだから、それが明確になるまではここに留まる。判明次第戦線に戻り、リリラガンを討つ機会をうかがう。右往左往したが、最終的に話はそれでまとまった。
ここに留まると離れられる自信がないとか、意思が違う人間が混じる事で皆に迷惑になるのではないかとか、話が終わった後も優大はうじうじと言っていたが、『今は自分の事だけ考えてほしい』と伝えると、『わかった。ありがとう』と微笑みながら口にしていた。私の直感ではあるが、迷いは晴れてくれたような気がした。
その後は家の中へ戻り、二人とも残る事を皆に報告した。私たちが入った時は皆、真剣な眼差しでこちらを見つめていたが、残るとわかるや否や満面の笑みで迎え入れてくれた。昏華さんは、私を強く抱きしめると『よかった』と噛み締めるように繰り返していた。すぐにパーティーが再開し、そこら中が笑顔で満たされた。
私は内なる感情を表に出さないように注意しつつ、愛想を振りまく事で精一杯だったから、何を話したのか、何をしていたのかなんて思い出す事はできないだろうことは確かだったけど、優大にも気づかれなかったその演技は、女優になってよかったと初めて実感するほどだった。
しばらく飲んだ後、家に戻った私たちは身支度を整えると寝室へと向かった。いつも通りにおやすみを言い合い横になったが、激しく脈打つ心臓が私の心をかき乱して止まなかった。
様々な感情が体中を駆け回っており、どうしていいかわからない私だったが、『おいで』といつもより低い声で、だけど私の心を撫でるような声でそう言ってくれた優大に身を預けた途端、あんなにも入り乱れていた感情たちすべてが落ち着きを取り戻していく様子が手に取るようにわかった。
あぁ。大好きだなぁ、本当に。
何も考えたくない。もう、このまま時が止まってほしい。
……だけど、そんな願いが叶うはずもない事はわかっている。
ねぇ、神様。この世界にいるんでしょ? もしかしたら、今も私たちの様子を見ていたりするんでしょ?
どうか、どうかお願いです。これ以上優大に災難など降らせないでください。これ以上、苦しめないでください。何でもします。本当に何でもしますから、どうか優大を幸せのままでいさせてください。
私は強く、強く。心の底からそう思い願った。
激しい地鳴りと、ガラスが割れたような破裂音で私は目を覚ました。この感じ、身に覚えがある。
私はすぐさま飛び起きると、急いで玄関まで足を運び、外に出た。他の人たちも異変に気付いたのか、次々と家から顔を覗かせている。私は呼吸を整えると、天を仰いだ。
……やっぱりそうだ。
遥か頭上には、アランバーグ・リリラガンが私たちを見下すように鎮座していた。
「リリラガン……」
相変わらず憎たらしい表情だ。
一先ず優大を呼ぼうと、リリラガンに背を向けたその時だった。唐突に腹部に激しい痛みが生じたのだ。思わず腹部に視線を移すと、右下腹部が消失している事に気が付いた。もはや傷口と呼べるレベルではないその箇所からは、多量の血液が流れ、地面へと滴り始めている。
迂闊だった。もう少し慎重に行動するべきだった。
私はその場に崩れ落ちると、身動き一つとれなくなってしまった。




