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須々木優大42.ポロリもあるよ

「第二問!! 須々木昏華の好きなアニメのキャラクターはなんでしょう?」


「へい!」


「はいっ! 高梨選手!」


「『居ても立ってもいられない様子の動物たちがあまりに愛おしくて死ぬに死ねない件』の第四話で登場する、負け惜しミミズク」


「さて雨海さん! どうでしょう!!」


「正解です」


「これは見事ぉぉおお!! 高梨選手はこれで二問連続正解です。快進撃が止まらない!!」


 僕は意気揚々と司会をしている雪村さんや、なぜかその隣に座って回答の正否をしている敦子を寝ぼけ眼で見つめると、今思っている事を口にしてみる事にした。


「なんだよこれ」


「先程も説明したはずですよ? これは、『第一回ドキドキっ! 須々木昏華を一番知るのは誰だ! クイズ王決定戦! ポロリもあるよ♡』です」


 雪村さんは身体全体を使いながら、とにかく高いテンションでどこかのテレビ番組で使われていそうなタイトル名を口にした。


「だから説明になってないんですって。二日酔いで頭痛いのに、急に叩き起こされて人様の家のよくわからないセット前に座らされたってどうしたらいいかわかんないですよ」


「理解力がない回答者でさァ。それでよくもまぁ、決勝戦まで勝ち上がってこれやしたね」


 僕の隣に座っている進は、呆れたようにため息をついている。


「決勝も何も、僕はお前とが初めての対戦なんだよ。何でお前はそんなにハキハキできるんだ?」


「そりゃ昏華の姉御に関するクイズだからって事もありやすが、三問先取すれば敗者に言う事を聞かせられるってんだから、楽しみでしかたねぇんでさァ」


「なんだよそれ。敦子もそれに賛同したの?」


 僕がそう問いかけると


「うん」


敦子は真顔でそう返答した。


「……茶番に付き合う気はないよ」


 そう言って立ち上がり、その場を離れようとしたその時、


「お前の姉御に対する思いはその程度って事でさァ。さっさと尻尾巻いて逃げやがれ。俺の望みはお前がここを出ていく事。俺にとっちゃぁ都合がいい」


進は嘲笑しながらそう声を張った。


「勝手に決めつけんな」


「それが嫌なら俺に勝てばいいんでさァ。息子のお前なら余裕だろ?」


「……後悔すんなよ」


 僕は静かに着席すると、首の骨を勢いよく鳴らして見せた。


「さぁさぁ、面白くなってまいりました! では運命の第三問!! 須々木昏華のここは敵わないなと思うところは何?」


 僕は素早く挙手すると、


「優大選手答えをどうぞ!」


雪村さんがにこやかな表情でそう言った。


 問題の内容的に明確な答えが定まっておらず、クイズでないような気もするが、これを答えなければ進に負けてしまう。僕は深く考える事はせず、思うがままに口に出してみる事にした。


「色々あるけど、一番最初に思いついたのは、微妙な変化でも気づいて行動に移してくれるところかな」


「エピソードトークがない場合は正解になりませんよ!」


 雪村さんが意気揚々とそう口にしてきたので、僕は再び口を開く事にした。


「小学校低学年の頃、好きなキャラクターのキーホルダーを母さんに駄々こねて何とか買ってもらった事があったんだけど、本当にお気に入りだったからランドセルに括り付けて毎日持ち運んでたんだ。だけど、ある日の下校中、キーホルダーがない事に気が付いた。登校した時は間違いなくついていたのを覚えていたから、来た道戻って必死に探したけど、どこにも見当たらなかった。

 無くしてしまったショックももちろん大きかったけど、あんなに駄々こねて買ってもらったのに無くしたなんて知られたら怒られてしまうと思ったから、悟られまいと最大級の元気を振り絞って『ただいま』をぶちかましたんだけど、そんな僕を見た母さんの第一声が『何か嫌な事でもあった?』だった。

 度肝抜かれたよ。エスパーなのかとか思った。だけど、やっぱり怒られるのが怖かった僕はキーホルダーを無くした事は言えなかった。友達と喧嘩したなんて適当言って、ゲームに没頭しているふりをしたんだ。

 母さんはそれ以上聞いてはこなかったんだけど、キーホルダーを無くして二日後の朝、登校しようと思ってランドセルに手をかけようとしたら、無くしたはずのキーホルダーが付いてたんだ。無くしたはずなのにって、意味が分からなかったけど母さんには直接聞けないから、遠回しに『キーホルダーいじったでしょ?』なんて言ってみたら『汚かったから洗濯した』なんて当たり前のように言うから、僕は『勝手な事しないで』なんて怒ってしまった。その時は、無くしたんじゃなかったんだ。母さんが事前に洗濯をしたと言ってくれていればこんな思いはせずに済んだのになんて思ったけれど、違ったんだ。

 母さんは、僕の変化からキーホルダーを無くした事に気づき、夜な夜な探しに行ってくれていた。最終的に見つけてくれて、ちぎれてしまった紐を修復して汚れた部分を洗濯してくれていたんだ。何も言わなかった僕に、何も言わず行動で示してくれた。それがわかったのは数年後に父さんが教えてくれたからなんだけど、敵わないなぁって思ったよ」


「さぁ! 雨海さんどうでしょうか?」


「正解です」


 敦子は小さく微笑むとそう言った。


「ここでついに優大選手一ポイント獲得!! 勝負はまだわかりませんよ!!」


「おい! 今のクイズじゃないですぜ!!」


「文句言うと失格にしちまうぞ」


「……うす」


 進が立ち上がり抗議したが、雪村さんの圧力によりねじ伏せられていた。


「さぁさ次の問題に参りましょう!! 第四問!! 須々木昏華の好きなところ、嫌いなところは?」


「へいっ! へいっ!」


「優大選手!!」


「はぁ!?」


 体感では間違いなく進の方が早かった気がするが、僕はお構いなく口を開いた。


「好きなところは、同じ目線に立って物事を考えてくれるところかな。同級生と殴り合いの喧嘩をした事があったんだけど、僕が勝ったからか最終的に僕が一方的に悪いみたいな感じになって、同級生の家行って謝るはめになった。僕には僕の理由があったから一方的に謝らなきゃいけない現状に納得いってなかったんだけど、母さんは事前に事情をしっかり聞いてくれて。そのうえで僕と一緒に頭を下げてくれたんだけど、その後に、ここはあなたのお子さんが悪いですよねなんて言って、最終的には親子共々謝らせて見せた。そんな姿はカッコよかったし、誇らしかったし、好きなところだなと思うよ。

 嫌いなところは……。そうだな。足がちょっとくさいとこかな」


「さぁさ雨海さん!」


「正解」


「見事連続正解!! 進選手に追いつきました!!」


 雪村さんはより一層テンションを高めると、声高々にそう言った。


「うぉい!! 不正だ! これは立派な不正ですぜ!!」


「うるさい。司会者が絶対なんだよ。今いいとこなんだから黙ってろよ」


「……っす」


進が立ち上がり猛抗議しているが、雪村さんの圧倒的な圧力に最終的には屈している様子だった。


「では運命の最終問題! 須々木優大。あなたはここに残りたいと思いますか?」


 雪村さんは声のトーンを落とすと、真剣な眼差しで僕を見つめてそう言った。


 明らかにクイズの原型を保ててなどいなかったが、僕は数秒思考した後、口を開く事にした。


「本音を言ってしまえば残りたいよ。当然だ。母さんとまた過ごせる。こんな温かい環境で暮らせるのなら、それ以上の事はない。だけど、僕にも曲げられないものはあって、どうしてもリリラガンを討ちたい。そのためには、ここにいるわけにはいかないから」


「第二の能力がわかるまでとか、このくらいの期間までとか、少しの間残るのもだめなのかな?」


 そう口を開いたのは敦子だった。


「……だめだよ。一度残ると決めてしまったら、もう離れられなくなってしまうから。だけど、リリラガンを倒したその後は、ここに住みたいと思っている。もちろん、皆が許してくれるのなら——」


「リリラガンを討ちたいという優大の思いが大きい事は十分伝わってる。だけど、それが本音を蔑ろにしていい理由にはならないと思うんだ。むしろ、本音だからこそ第一に優先すべきだと私は思う。だって、どれだけの言葉や感情で蓋をしようが、優大が昏華さんの事を思っているのは事実なんだから。

 辛い事がいっぱいあった。それでも進まなきゃいけなかった。だけど、今は立ち止まれる。止まり木があるんだ。失った時間はこれから取り戻せばいい。だから、もういい。もういいんだ。今は少しくらい、自分のために生きてよ」


 敦子の真剣な眼差しと言葉に、僕は何も言い返す事ができなかった。


「口先だけの私は、母親失格だと思っていた。何もできずに無駄死にした挙句、過去に捕らわれる元凶を作ったのだから当然嫌われていると思ってた。

 ……優大。私さ、ちゃんと母親やれてたのかな?」


 しばらくの静寂を払ったのは、視覚外から顔を覗かせた母さんの言葉だった。


「嫌う要素なんてどこにもない。誰がどう思おうとも、僕の母さんは須々木昏華ただ一人だけだよ」


「そうか。ありがとう」


 母さんは安堵な表情を浮かべたあと、


「須々木優大の母親として頼みがある。ここで一緒に暮らしてほしい。もちろんリリラガンの事は考慮していくつもりだ。決して蔑ろにしないと約束する。だから、どうかな?」


優しく、だけどはっきりとした口調でそう口にした。


 一哉、由美、ミラー。それぞれの思いを理解した気になって、意固地になっているだけなのかもしれない。後悔なんて言葉を盾にして、きっと僕は安寧を手にするのを恐れているのだろう。あんなにも渇望していたはずなのに。


「……考える時間がほしい」


 すぐに結論は出せなかった。立ち止まってしまえば、もう決して動き出せないだろう事は目に見えていたから。いつかくるかもしれない絶望に立ち向かえないと思ったから。


「じゃぁ、少なくとも今日はここに残るよね!! 皆呼んでくる!! パーティーの続きだぁ!!」 


 雪村さんは子どものようにはしゃぐと、勢いよく家を飛び出して行った。


「おい。どういうことでぃ!」


 進は敦子の胸ぐらを掴むと、声を荒げてそう言った。


「俺ァあいつを追い出せる算段があるっていうから協力したんでさァ。すべては引き止める口実だったってわけですかぃ?」


「私はただ、優大の本音を引き出しただけ。優大が本心でここを出たいと言っていたらそれを尊重するつもりだった。だから嘘は言ってないよ」


 敦子は臆する様子もなく平然と言葉を並べると、進の手を振り払って見せた。そして、僕の方へ視線を移すと


「ちゃんと幸せにならなきゃね」


そう言ってほほ笑んだ。


 ……何を言っているんだ?


「あつ——」


「残るって決めたんだって!?」


 僕の言葉をかき消すように、勢いよく扉が開くと瀬戸さんやその他の人たちが一気に室内へ押し寄せてきた。


「その方がいいよ! とりあえず俺と飲もうぜ!」


「一度ちゃんと話してみたかったの!!」


 次から次へと僕に話しかけてきて、食べ物や飲み物を手渡してくる群衆に目が回りそうになりながらも、僕はできる限りの愛想を振りまいて見せたが、生じた違和感は胸の内で大きくなるばかりだった。

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