須々木優大41.どう考えても
「みんなぁぁぁあ!!!! おそくな……った? ってなんだこの空気?」
しばらくして、扉が勢いよく開くと母さんがやってきた。すぐに重苦しい空気を察したのか、雪村さんのもとへ行くと
「ねぇ、もしかして険悪な感じ?」
そう小さく耳打ちをした。
雪村さんは、途端に頬に涙を伝わせると
「昏華ごめん。優大くん引き止められなかったぁ」
そう言って母さんの胸に飛び込んだ。
「おぉ、そういう事か。ありがとう。色々言ってくれたのかな?」
母さんは、しばらく雪村さんを宥めた後、空いていた進の右隣に腰かけた。
「姉御! 酒でも飲みますかィ?」
進は今までの態度とは一変して、明るい表情で酒瓶を手に持ちながらそう言った。
「じゃぁ、もらおうかな。みんなぁ! そんな辛気臭くならずにさ! ぱぁっと飲んで食べようよ! ほらっ、瀬戸さんも! 何しょぼくれてんのさ!!」
「いや、すまん。俺は何も知らなかったから。事情が事情っぽいから、空気を読もうと……」
「そんな事いいからさ、今は飲もう! 食べよう! ほらっ、改めて乾杯しよ!!」
そう言うと、母さんはグラスを天に掲げた。進が後を続き、瀬戸さんも負けじと天に掲げた。
「あぁ、もう!! こうなったらとことん飲んでやる!!」
雪村さんは顔を真っ赤にしながらも、立ち上がるとグラスを天に掲げた。
「お二人さんもとりあえず、ここは私の顔を立ててくれない?」
母さんの言葉で僕たちは顔を見合わせた後、皆と同様にグラスを掲げた。
「じゃぁ、仕切り直しましてぇぇえええ!! かんぱーい!!!!」
「かんぱーーい!!!!」
「姉御!! 好物のジンギスカンは死守しておきやした!!」
「おい昏華!! 多分酒足りなくなるからよ、新しいやつ頼むぜ!!」
「昏華は色んなとこ行って疲れてんだ!! ゴリラはバナナでも食ってろよ!!」
「そうでさァ。これ以上野生化したら手に負えねぇですぜ」
「おまえらよ、年長者を敬えバカ」
「年長者のくせにバカだから言ってんだよ!!」
「そうでさァ、そうでさァ」
「舞は飲みすぎだし、進は私のこと気遣いすぎ。瀬戸さんはもうちょっと落ち着いて。皆仲良く、今は二人をもてなしましょ?」
「おぉ、そう言えば歓迎会だったな!」
「歓迎される気ないのに」
「そうでさァ、そうでさァ!!」
「舞! 進!!」
「……はーい」
「……うす」
つい先ほどまで地獄のような雰囲気だったのに、今では少人数とは思えないほど場が盛り上がっているのが見てとれる。
……きっと、ここにいれば、いつまでも幸せに暮らして行けるのだろう。辛い思いなんてせず、当たり前だったあの頃の日常に戻れるのだろう。それは、どう考えても魅力的で切り捨てる選択肢にはなり得ないはずだ。
一哉、由美、ミラー。あの三人であれば、僕がここに残ることを咎めやしないだろう。むしろ、リリラガンのもとへ行こうとする僕を全力で引き止めてくれるのかもしれない。
揺れている思いを流し込むように、僕はその後もへべれけ極を呑み続けた。




