須々木優大36.敦子
それから僕たちは、周囲に気を配りながらも家紋横断の能力を使ってもらいながら、他チームを探しつつ、能力の模索に努める日々が続いた。一向に進展の見られない状況下でも、めげずにいられるのは、間違いなく雨海さんのおかげだろう。
僕は雨海さんを起こさないよう細心の注意を払いながら起き上がると、軋む床に足をつけてベッドから離れる事に成功した。ガスも電気も通っておらず、水源なんてどこにもないのだが、すべて完備されているこの家がリリラガンに壊されていたらと思うと、今でもぞっとする。ひとまず、シャワーを浴びようと服を脱いでいると、
「おはよー」
そんな声が聞こえてベッドの方に目をやると、眠そうに目をこすりながらも、こちらを凝視している雨海さんと目が合った。
「恥ずかしいでしょ? 毛布被ってて」
そう言って雨海さんの頭に、足元でしわくちゃになっている毛布を掛けると
「折角の眼福なんだから、邪魔しないでよぉ!」
駄々をこねる子どものように、毛布を僕に投げつけ無邪気に抵抗してきた。
「シックスパック。えへへ」
「そんな大層なもんじゃないのに」
にやついている雨海さんを横目に、僕はズボンを脱がずに浴室へと足を運んだ。
「あぁー。メインディッシュがぁ!」
遠くで残念そうな声が聞こえてくる。
「いつからそんな変態になったよ」
浴室内でズボンとパンツを脱ぎ、浴室外へ放り投げながらそう言うと蛇口をひねり、水を出した。温水になるのを待っていると、
「私も入るー」
そんな声が近づいてきた。
「ちょっ、バカ! だめだからな!」
僕が必死に声を上げると、
「大女優の雨海敦子様に背中を流してもらえるチャンスなんて、二度とやってこないかもしれないのに。優大さんも悪よのぅ」
浴室の扉越しで、雨海さんがそう言った。顔を見なくても悪そうな顔をしているだろうことは容易に想像することができた。
「僕が悪いやつだったら、大女優の君の誘惑になんてとっくに屈してるよ」
納得してくれたのだろうか。その後は、特に返答もなく洗い終えると浴室を出た。体を拭き、服を着てリビングに出ると、僕に背中を向けて毛布に包まりながら、ベッドで丸くなっている雨海さんが視界に入った。
「……怒ってる?」
なんとなくそんな気がした。僕の問いかけに対して、雨海さんが答えることはなかった。僕は濡れた髪をタオルで拭きながら、ベッドに腰掛けると雨海さんの体を小さく揺すった。
「お風呂一緒に入らなかったから?」
「違う」
雨海さんはそのままの体勢でそう言った。
その後も無言でしばらく考えてみたのだが、思い当たる節は一つも見当たらなかった。
「鈍くてごめん。教えてほしいな」
僕がそう伝えると、
「……由美、一哉、ミラー。君」
暗号文のような言葉が返ってきた。しかし、何が言いたいのか十分に理解することができた。
「ごめん、敦子」
僕がそう囁くと
「優大。あと百回は言って」
雨海さんは体をこちらに向け、毛布から顔を出すと口元を緩ませながらそう言った。
「これからいっぱい言っていく。だから今は勘弁してくれないかな?」
「お風呂は?」
「……善処するよ」
「もぉー!」
頬を膨らませ、怒りを全面に出しているのだろうが、今度は目元が緩んでいた。




