雨海敦子39.強がってしまったから
しばらく立ち尽くしていた私たちであったが、『中入ろうか』と言う優大さんのぎこちない笑顔で私たちは家の中へと足を運んだ。
優大さんは古びたソファに、私はベッドにそれぞれ腰かけた。
「君の言葉がずっと残っていた。確かに何が起こるかなんてわからない。どんなに願っても、永遠は存在しない。だから、意見を変えて申し訳ないけど、これからは一緒にいてくれないか」
静まり返った室内に、優大さんの言葉が広がった。優大さんの方を見ると、俯いたまま私を見ようとはしなかった。
「それは本心? 優大さんの意思なの?」
「もちろんだ」
「私に気遣っているでしょ?」
「そんなこと——」
「優大さんが望むなら、私は喜んで首を縦に振る。だけど、その思いの根源に優大さん以外の誰かがいるのなら、私はやっぱり賛同できない。したくない。たとえそれが私だったとしても」
優大さんの言葉を遮り私がそう伝えると、優大さんはようやく私の方を見てくれた。
「君と一緒にいたい。それは本心だ。これから先も揺らぐことはない。だけど、リリラガンだけは。ミラー、一哉、由美。皆を殺したあいつだけは、どうしても許せないと思っている自分がいる。敵を討ちたい、そう自惚れている自分がいるんだ」
「そっか。大切な人たちだったんだね。みんなそれぞれ、どういう人だったの?」
私がそうたずねると、
「……一哉は、明るくて自由奔放で、考えなしの脳筋野郎かと思いきや、誰よりも己の後悔と向き合い、葛藤していた。意外と空気も読めて、狭間世界に来て間もなかった僕を支えてくれた。
由美は、口が悪いし、態度もトゲトゲしていたけど、人付き合いが下手なだけで言動の節々に他者への思いやりが滲み出るくらい優しい人だった。狭間世界の事を色々教えてくれて、僕が能力を使った戦闘後なんかは特に気にかけてくれた。
ミラーは、僕の人生を狂わせた張本人だ。許していい人間ではない。心を開く気なんて微塵もなかった。だけど、ミラーは常に僕の事を配慮し、受け止め、尊重してくれた。君と離れる決意をしたものの、どのようにすべきか決めきれない時には、一睡もせずに相談に乗ってくれた。それらの行為すべて、僕に対しての贖罪だったのかもしれないけれど、だからって他人のためにここまで考えて、行動に移せる人間はそういないと思う。
……大切だ。大切な仲間だったんだ。それなのに、ちくしょう」
優大さんは拳を震わせながら、そう言った。
「私もね、狭間世界で知り合った人たちを殺された。このままじゃ終われない。終わらせたくないんだ。だから、一矢報いてやろうよ。私たちとの時間は、それからでも遅くないよね?」
そう言って、私は笑顔を作った。
「……そうだね」
優大さんは見覚えのある笑顔を作ると、優しく、小さくそう呟いた。
それから私たちは、今後のことについて話し合った。一番悩んだのが、優大さんの後悔についてだ。私といることで後悔が果たされてしまうと、不死身の能力が使えなくなってしまうからだ。能力が使えなくなってしまえば、リリラガンと戦うことは不可能。だからと言って、距離を置くのも現実的ではない。結論に至るまでには、それなりに時間を要したが、最終的にはお互いに納得のいく形に持っていくことができた。
「不死身の能力は諦め、僕たちはともに過ごす。もう一つあるであろう能力を明確にしつつ、どこかのチームと合流し、そして、必ずリリラガンを倒す」
「うん。それでいこう」
私たちは見つめ合うと、小さく頷きあった。
「じゃぁ、一旦この話はおしまいにして」
優大さんはそう言うと、私のそばまで来て背中に手を回すと、
「我慢してた。ずっと、会いたかった」
噛み締めるようにそう呟いた。
優大さんは、いつから涙もろくなったのだろうか。先程たくさん泣いていたというのに、声色が湿っていた。
「もう、大げさだなぁ」
私はそう言うと、優大さんの頭を優しく撫でた。変に強がってしまったから、湧き出てくる感情や言葉を必死にせき止めながらも、しばらくは優大さんの体温を胸に刻んだ。




