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須々木優大35.バカ野郎

「……由美」


 しばらく、誰も何もできない時間が続いていたが、静寂に飲み込まれそうな小さく低い声で、一哉はそう呟いた。


「うん」


 由美はそう答えると、よろけながらも時間をかけて立ち上がり、再びバリア外へとゆっくり歩きだした。


「今は我慢する時だよ。態勢を整え、対策をすればリリラガンだって倒せるはず。だから、今は命を絶やさないで。彼が果たした後悔を無駄にはしないで!」


 雨海さんは二人に対して、そう訴えかけた。


「ミラーの後悔なんて知らねぇよ。勝手に果たして、勝手に死んだんだ。だったら俺たちも勝手に敵討ちするくらい文句ねぇだろ」


「行く意味がないよ。勝てないんだから。このまま行っても、無駄死するだけ。敵討ちなんかできるわけがない。そうでしょ?」


「理屈じゃないんだ、こういうのは。今ここで身を引いて、何年、年十年と準備をすれば倒せる可能性があるのだとしても、微かな望みに縋りながらこんな思いを抱えて生きるなんて俺にはできない」


「ミラーは己の人生にけじめをつけた。どれだけ逃げようが、最後はちゃんと向き合ったんだ。私たちだって、逃げるわけにはいかないよ」


「戦略的撤退という言葉だって——」


「そこまでだ」


 僕は雨海さんの言葉を遮ると、黙って二人を見つめた。


「約束、守ってくれてありがとな。短い間だったけど、優大に会えてよかった。本当に良かった。僕もついてくとか言うなよ? ぶっ殺すからな」


 一哉はそう言い笑みを浮かべると、僕たちに背中を向けた。


「これからが本番だからね。ちゃんと悩んで向き合って、後悔を果たして。そしてちゃんと幸せになって。中途半端なことしたら、承知しないからね、バカ優大」


 由美は微笑みながらそう言うと、一哉同様に背中を向けた。


 僕は二人の言葉に対して、何も言わなかった。いや、言えなかった。ぼやける視界を手で何度も拭い直し、二人の背中を見つめ続けた。


「バカ野郎……」


 ようやくひねり出したその言葉は、辺りの静寂に消え入り、僕と雨海さんを置き去りにした。

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