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雨海敦子36.死んだんだ

「雨海さん!?」



 どれだけそうしていたのかはわからないが、頭上から唐突に聞いた事のない男の声が聞こえてきた。建築物があったから、おそらくここで生活している人たちであろう。


 顔を上げると、金髪の男とセミロングの女が佇んでいた。どちらの表情も険しく見える。


「立てる?」


 セミロングの女がそう言うと、手を差し出してきた。私は何も言わずにその手を取ると、静かに立ち上がった。


「今までの出来事、お話いただいてもよろしいでしょうか」


 金髪の男は、私を見つめるとそう言った。


 私は目を覚ましてからの出来事を一通り話すことにした。魔罪人の一人、アランバーグ・リリラガンの名前を出した途端、より一層険しくなった二人の表情を目に焼き付けながらも、松杉愛理、鈴間凛、黒崎佳那が殺されたところまで話して口を閉じた。


「……来て早々に、辛い思いをさせてしまって申し訳ございませんでした」


 金髪の男はそう言うと、深々と頭を下げた。


「私なんてどうでもいいです。佳那には後悔があった。松杉さんにも、もちろん鈴間ちゃんにもあったはずなんだ。それなのに、あいつはいとも簡単に殺しやがった。

この世界は後悔を果たすための世界なんでしょ? おかしい。こんなの間違ってるよ!」


「弱者は淘汰されるのみ。発言するのは自由ですが、決定権はないのですから、右往左往することはあれど、最終的には勝者がすべての権限を持つことになります。間違いすら正しさに捻じ曲げることができるのは、いつだって勝者なのですから」


「じゃぁ私たちは殺される恐怖に怯えながら、指をくわえてその時を待つしかないってこと? 仲間を殺されても、それが正しいことなんだと感情を押し殺せばいいってことなの!?」


「まだ私たちは負けていません。抗うことをやめない限りは、可能性は無限大ですから。もしもの時のために、雨海さんも協力していただけますでしょうか」


 金髪の男は、真剣な眼差しで私を見つめながらそう言った。


「……わかりました。だけど、今は少しだけ一人にさせてください。頭の中がぐちゃぐちゃなんです」


「もちろんです。では、家の中へとご案内いたしますね」


 金髪の男はそう言うと、私に背中を向けた。セミロングの女は、終始俯いていたが金髪の男が動き出したと同時に体を動かした。私も後を追い、そのまま家の中へ入ると、案内されたベッドに腰かけた。


「私たちは外で今後の事について話していますから、落ち着いたら顔を出していただけると幸いです。まだ、お話しなければならないこともありますので。よろしくお願いします」


 金髪の男はそう言うと、セミロングの女とともに家を出ていった。


 話とはおそらく、優大さんのことだろう。本当は今すぐにでも確認したいのだが、どうしても先程の三人の光景が脳裏にこびり付いており、気持ちが前へと進んではくれなかった。

 佳那の能力で全員逃げることはできなかったのだろうか。佳那にはまだ余力があったはず。それなのに、その選択をとらなかったということは、何かしらの弊害があったのだろうか。

 不死身の私が囮になっている間に、佳那が鈴間と松杉を逃がせばどうだっただろうか。理にかなってはいるが、リリラガンが素直に私だけを攻撃する保証はない。おそらく無謀なのだろう。


 どうしようもなかった。


 そんな言葉で思考を止めていい出来事ではない。そんな言葉で気持ちの整理をつけていいはずがないのだ。人が死んだんだ。目の前で。三人も。


 私は関係ない。知り合って間もない人たちだから。それぞれ望んで死を受け入れていたから尊重すべきだ。だから、私は何も悪くない。


 そんな言葉たちが、無意識に脳内に湧き出てくる。最終的に、そんなことしか考えられなくなる自分に対して、私はただひたすらに己を蔑むことしかできなかった。

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