雨海敦子34.諦める時間じゃないね
それから七日間、私は毎日松杉に殺されることになった。能力は繰り返し発動させることで体に順応していくらしい。初回の時は、松杉に本当に殺していいのか何度も念を押された。当然のように苦しいし、仮に運命の人が優大さんじゃなかった場合、生き返らない可能性はゼロじゃなかったから。
会える可能性があるのだとすれば、死に怯えている暇なんてないと伝えると、松杉は『眩しいな』と小さく微笑んだ後、私の周囲にバリアを展開させた。
毒殺、圧死、焼殺。その他さまざまな方法で私を殺しにかかるらしい。結論から言うと、私は死んでも生き返ることができた。当初は甦るまでに数十分程度かかっていたらしいのだが、五十回を過ぎた頃には一分を切っていた。
「今日はここまで。お疲れ様」
松杉は額に汗を滲ませ、少々息を切らしながらそう言った。
「まだできるよ。やらせて」
「能力の使用には体力消費が尋常ではないんだから、今日はもう休んで。このペースだと予定よりも早く終わりそうだしね」
バリア内に突如現れた日本刀に斬殺されたばかりの私は、しぶしぶ松杉の言葉に従うとベッドがある寝室へと向かった。松杉は、どうやら鈴間が診ている患者の治療の手伝いをするらしい。松杉だって、連日能力を使用しているわけだから休むべきなのに、『凛は優しいから、目を離すと能力を使いすぎちゃうの。味方の治療も大事だけど、私にとって凛の存在はそれ以上だから』と言うと、病室に入っていった。
どういう基準で『優しい』というレッテルが貼られるようになるのか私にはわからないが、他人である私の身柄を無償で引き取り、何のメリットもないくせに私の思いを真摯に受け止めて連日身を削りながら能力を使用してくれている松杉愛理という女性だって『優しい』人間である事に間違いはないと思った。
そんな事を考えながら部屋に入ると、佳那がベッドの真ん中に寝ころんでいる様子が目に入った。
「お疲れ様。途中見に行ったんだけどね、私には耐えられなくてここへ逃げてきちゃった」
佳那は天井を見つめたまま、申し訳なさそうにそう呟いた。
「まぁ人間が死んでいるところなんて、好んで見るものじゃないしね」
佳那の右隣りに座り、そう言うと
「いや、そうじゃなくて、後悔に対する姿勢っていうのかな、絶対に果たすんだっていうあつあつの覚悟を目の当たりにして思ったんだ。どうせ果たせないからって、己の言動を勝手に正当化していただけの自分が情けない、恥ずかしいって。
……あぁ。だめだ。あつあつを前にすると、つい弱気になっちゃった。ごめんね」
佳那は右腕で両目を覆いながら、そう口にした。
「本当に果たせないの?」
「父さんに思いを伝えられなかったこと。それが私の後悔。現世にいる父さんに会える手段はないし、仮に父さんが死んで狭間世界に来ることがあっても地獄の人間たちに瞬殺される。思いを伝えることは叶わないよ」
「何年も前に亡くなった、背丈と目元しかヒントがない女性に私は会うことができた。地球よりも広いこの世界で、戦争真っ只中のこの世界で私は託された言葉を伝えることができたんだ。だからって絶対果たせるなんて言わないけれど、だからこそ絶対果たせないと言い切るにはまだ早いんじゃないのかな?」
「……そうだね。まだ諦める時間じゃないね。ありがとう、あつあつ」
佳那は起き上がり、私の背中に手を回すと静かにそう言った。




