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須々木優大30.渇望

 現世で死んでこの世界にやってきたものの、出待ちしている敵にやられてしまったのだと思っていた。現にミラーは、現世の人間は一寸の隙もなく狩り取られていると言っていたし、疑いもしなかった。


「察するに、優大さんが現世で関わりのあった方でお間違いなのでしょう。もしそうなのでし——」


「無事なのか!? 目覚ますんだよな? 生きてるんだよな!!」


 背後から話かけてきたミラーに飛び掛かり押し倒すと、僕は一方的に言葉をぶつけた。


「ちょっと、優大落ち着いて!」


 由美が仲介に入ろうと近づいてきたが、


「由美さん、いいんです。優大さん、このままでいいので聞いてください」


ミラーはそう言い由美を制止させると、再び口を開いた。


「この方は無事です。あと二日ほどで目が覚めるでしょう」


「本当か!? 絶対だな!?」


「えぇ。前例があるので、間違いありません」


 前例? どういうことだろうか。いや、まぁそんなことはいい。とにかく、とにかくだ。よかった。本当によかった。これでまた、生きている雨海さんに会える。一緒にいられるんだ。


 僕はミラーを開放すると、再び雨海さんに目をやった。見たところ、怪我をしている様子はない。偶然敵の攻撃をかわすことができたのだろうか。何はともあれ、本当によかった。


「この方は先程、優大さんと同様にこの家にワープされて狭間世界へとやってきました」


 ミラーは僕の背中に向けて、確かにそう言った。


 僕と同様に?


 僕がこの家にワープされたのは、ミラーに選ばれたから。選ばれていない雨海さんが……。


「お前、雨海さんも選んだのか!?」


 僕がそう怒鳴り散らかすと、


「いいえ。私は選んでおりません」


ミラーは冷静にそう言った。


「じゃぁ他の人間が?」


「それもないでしょう。選んだ人間の情報は共有されているのですが、この方の情報は一切ありませんでした。それに、この家にワープされる人間は私が選んだ方のみなのですが、神の力では選択する人間は一人が限界でした。つまり、この方がこの家にワープしてくることは本来ありえないのです。

 優大さん、何か知っていることはありませんか?」


 ミラーの言うことが正しければ、誰も選んでいないが、選ばれた人間と同様な方法で狭間世界へやってきたということになる。雨海さんも能力を使えたのだろうか。関わっていて違和感が生じたことは一度もなかった気がする。


「……わからない」


 しばらく考えていたが、てがかりの一つも出てこなかった。


「そうですか。何か思いついたら、共有していただけると幸いです。

……そして、ここからが本題なのですが、以前私がこの戦争に対する対価の話をさせていただいた際『死んだ人間を生き返らせ、ともに生きることは可能か』と優大さんは確認されていましたよね?

 もしかして、死んだ人間というのは、この方なのではないでしょうか?」


 ……あぁ、そういうことか。だから由美は躊躇っていたのだろう。


「そうだ。この人は雨海敦子さん。僕の大切な人なんだ」


「やはり、そうでしたか」


 ミラーは噛み締めるようにそう言うと、雨海さんの方を見た。数秒の沈黙の後


「戦友たちには、優大さんは戦死したと報告しておきます。短い間でしたが、ともに戦えたこと、とても光栄でした。誠にありがとうございました」


そう言って深々と頭を下げた。



「ちょっと待て。どういうことだ?」


 しばらく静観していた一哉だったが、状況を把握しきれていないのか、そう声を張った。


「対価を得る必要がなくなった。つまり、この戦争に参加する意味がなくなったのです。それに、お二人には言っていませんでしたが、優大さんはあと数回戦闘を重ねたら別のチームへと移動になる予定でした。つまり、遅かれ早かれ優大さんとはお別れだったんです」


 ミラーは由美と一哉を交互に見ながら、そう語った。


「……何もかもが急展開すぎる。納得はいかねぇよ。だけど、あれだろ? つまりは優大の後悔が果たせる一歩手前まで来たってわけだ。そりゃぁ、いいことじゃねぇか。

そもそもな、俺と由美は新しいメンバーが加入されることに何度も反対してたんだ。これでまたいつもの三人に戻れる。願ったり叶ったりだ。なぁ、由美?」


「私……。私は、その……。うん、そうだね。三人でいるのが一番だよ」


「いえ、そうはいきません」


「は? どうしてだよ?」


「この家は優大さんに預けますので、私たちは出ていくことになります。狭間世界で無防備な状態で居続けるわけにはいきませんから、これから私たち三人は別のチームへと合流することになるでしょう」


「おい! 勝手に決めてんじゃんぇよ! 俺は嫌だからな」


「私も嫌。他に方法はないの?」


「ありません」


 ミラーは、はっきりそう言い切って見せた。


「……話になんねぇよ」


 一哉はミラーを睨みつけると、勢いよく扉を開けて外へと飛び出して行った。由美もそれに続くように、その場を後にした。


「お見苦しいところをお見せしました。話はつけておきますので、ご遠慮なさらずに。雨海さんが目覚める前には、ここを発つ予定です。決して邪魔はさせません。お約束します」


 ミラーは空きっぱなしのドアを眺めながら、そう言った。


「お前はそれでいいのか?」


 リスクを負い、現世まで行って調達した能力であるはずだ。そう簡単に手放していいはずがない。僕がミラーの立場なら、間違いなく雨海さんを隠ぺいしていたであろう。


「想定通りにはいかないものです。ここで雨海さんを隠すことは容易でしたが、これ以上後悔を重ねたくない。世界には申し訳ありませんが、それが私の本心ですから。それに、大丈夫です。今のお二人は昔とは少し違います。ありがたいことに」


 ミラーはそう言うと、僕の方を見て小さくほほ笑んだ。


「二人をどう説得するつもりだ? 納得するようには思えないが」


「納得するまで話をします。それ以外ありませんよ」


「雨海さん次第だけど、五人でこの家にいるっていうのも一つの手だぞ?」


「それはいけません。二人の邪魔はしたくありませんし、何より優大さんの夢が雨海さんに関係するものであるならば、やがて能力は使えなくなります。つまり、一度死ねばそれで終わりということです。そんな状態で、戦闘の渦中に居続けてもらうわけにはいきませんから」


「この家にいる分には安全だろ?」


「これから先、強い敵と戦うことも増えるでしょう。魔罪人クラスともなると、このバリアを破るのは容易なはずです。そんな中、足手纏いがいるとやりづらくなるものですから」


「勝手に連れてきて、足手纏いとかひどい言いぐさだな」


「すいません。ですが、これが今の私にできる最大の贖罪だと考えています」


「……ちょっと二人きりにさせてくれないか?」


「わかりました。失礼します」


 ミラーはそう言うと、その場を後にした。


 僕は横たわっている雨海さんを一点に見つめた。


 目が覚めれば二人で一緒に暮らしていける。ここは狭間世界。現実世界のようには当然いかないし、いつまで生きられるのかはわからないが、しばらくは生活するに問題はないだろう。


 渇望していた。願ってもない好条件付きでもある。それなのに、ふと頭に浮かんだ雨海さんの言葉が僕の思考をかき乱していた。


『言ったでしょ? 悔いは一つも残したくないって。私の人生だ。誰にも、たとえ須々木さんでも邪魔はさせない』


 雨海さんが僕の立場であれば、どうするのだろうか。もし雨海さんがこの状況を目の当たりにした時、どう思うのだろうか。

 わからない。わからないのだが、時間が経つにつれて、揺れていた天秤は確実に片方へと沈んでいった。

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